“寄ってたかって”総勢104人! 大砲も登場して大迫力の「1812年」~兵庫芸術文化センター管弦楽団第102回定期演奏会~

【PACファンレポート⑰第102回定期演奏会】

 1月20日の土曜日は、11月からおよそ2カ月ぶりの兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の定期演奏会。例年1月は我らが芸術監督・佐渡裕さんが登場。開演前におなじみのプレトークがあった。

 今回はオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)との共演とあって、佐渡さんは1988年にOEKを立ち上げた世界的指揮者、故・岩城宏之さん(1932-2006)と若き日にフランスで出会った時のエピソードを語り、笑いを誘った。

「ちょうど岩城さんがボルドーに来られていた時、『初めまして、佐渡裕です』と挨拶したら、『ブザンソン指揮者コンクールで優勝した“さどゆたか”くんと同じ名前だね』と言われました(笑)。街中に日本料理店など何軒もない時代だったので『よかったらうちで食事しませんか?』とお誘いし、幾晩か手料理を振舞ったのですが、その時にいろいろなお話を聞きました。中でも一番熱く、時間的にも多く語られたのが、東京や大阪の大都会でなく、地方都市・金沢に自ら立ち上げた国際色豊かなオーケストラ、OEKの話でした。後年、僕がPACを立ち上げる時に念頭にあったのは、この時に岩城さんに聞いた話だったと思います」

 先輩から後輩へ、志ある音楽家の間で受け継がれた熱いスピリットが、PACを生み出す原動力にもなったと聞いて、少しウルッときた(ちょうど、友人が貸してくれた村上春樹さんの文庫本「小澤征爾さんと、音楽について話をする」を読了したばかりだったことも関係しているかもしれない)。

 

 演奏はまず、小編成のOEKメンバーによるハイドンの交響曲第44番「悲しみ」からスタート。当時の交響曲には珍しい短調の曲調だ。この日のコンサートマスターはOEKの第1コンサートマスターのアビゲイル・ヤング。弦の奏でる導入部から哀調を帯びた展開部が細かい起伏を伴って進んでいく。遠い記憶の中の苦い痛みを思い起こさせる曲調は、忘れがたい阪神・淡路大震災のあった1月の定期演奏会の幕開けにふさわしい選曲だったと思う。

 続いては、PACメンバーによるフォーレの「ペレアスとメリザンド」組曲。私が個人的に大好きな曲で、佐渡さんがPACの定期で取り上げるのも2013年1月の第57回以来2度目だ。若き日にフランスのオーケストラを長く指揮してきた佐渡さんにとっては得意な演奏曲なのだと思う。CMなどでもおなじみの第3曲「シシリエンヌ」は、知久翔のフルートが情感たっぷりに聞かせた。

寺門孝之さん(画家・神戸芸術工科大学教授)が描く2018年1月のプログラムの表紙は「ひびきくん、みみをすます(その4)」。地面の底から聞こえてきた音は……

 休憩をはさんで後半は、OEKとPACの合同演奏でチャイコフスキーの2曲。どちらも大編成のオーケストラでこそ聴き応えのあるドラマチックな曲だった。

 コンマスを含めてヴァイオリンは30、ヴィオラ12、チェロ10、コントラバス8、総勢60人の大迫力の弦が舞台前面を占めている。

 幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」は、ダンテ「神曲」の中の一節に材を取った曲だ。地獄を旅するダンテが描写する阿鼻叫喚の吹き荒れる様子が、激しい音楽で再現される。ダンテに近寄ってきたのは、道ならぬ恋に陥って地獄に落ちた恋人たち。静かに物語る彼らの来し方を涙ながらに聞いていると、鋭いシンバルの一撃を合図に、再び地獄の嵐が恋人たちを襲い、暗黒の彼方へ運び去る……。初めて聴いた曲だったが、動と静の対照的な印象に残る曲だった。

 ハープが退場し、舞台上の人数が88人に膨れ上がって大序曲「1812年」が始まった。大軍を率いてモスクワに侵攻したものの、撤退を余儀なくされたたナポレオンのドラマがモチーフだ。小太鼓が軽快にマーチのリズムを奏で、ロシア正教の聖歌やフランスの「ラ・マルセイエーズ」などのメロディーが織り込まれ、一気に気分が高揚していく。

 演奏が進みクライマックスが近づくと、客席上空、左右のバルコニーに近畿大学吹奏楽部のトランペット、トロンボーン各8人が登場(演奏者は104人になった)。

 そして、舞台左手には、いつの間にか大砲(!)が登場しているではないか!? ロシア勝利の歓呼の歌が大音量で響き渡る中、寺院の鐘が鳴り響き、ドンと大砲も煙を上げるサプライズ。(実は、演劇用の二酸化炭素ガスを使ったのだそう)

 

 鳴り止まない拍手の中で、佐渡さんが選んだアンコール曲はスーザ「星条旗よ永遠なれ」。オーケストラの演奏が始まると客席が手拍子に変わる。佐渡さんは客席に向かっても指揮して、ホール全体が一体になった感動に包まれた。

 心を一つにして、音楽を奏でる――。新しい年の初めの演奏会で出会ったその素晴らしさに、聴衆はみんな背中を押された気持ちになったのではないだろうか。誰か一人の力だけに頼るのではなく“寄ってたかって”周囲を巻き込んで、みんなの力で、大きな目標に向かって進んでいく。ぼんやりと、私自身の今年のキーワードにしようかなと思っていた言葉が、この日、胸の中にしっかりと根を下ろした。

 

 ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの大森潤子(元札幌交響楽団首席)、ヴィオラの成田寛(山形交響楽団首席)、チェロの林裕(元大阪フィルハーモニー管弦楽団首席)、コントラバスの加藤正幸(元東京フィルハーモニー交響楽団副首席)、オーボエの髙橋幸子(Osaka Shion Wind Orchestra奏者)はPACのOG。スペシャル・プレイヤーはホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、パーカッションの中谷満(元大阪フィルハーモニー交響楽団ティンパニ首席)だった。(大田季子)




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