スコットランドの音楽を満喫した後に下野マエストロの粋なサプライズ~兵庫芸術文化センター管弦楽団第103回定期演奏会~

【PACファンレポート⑱第103回定期演奏会】

 2月17日の兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)第103回定期演奏会は、サービス精神にあふれたマエストロ下野竜也が、大いに楽しませてくれた演奏会だった。

 

 選曲から全体を貫くテーマは「スコットランド」。

 冒頭の曲は、スコットランド出身の作曲家ジェームス・マクミラン(1959-)が1994年に発表した「ブリタニア」。存命中の作曲家の曲をPACが演奏するのはまれなことだと思う。冒頭から激しい不協和音のファンファーレ。一体どうなるかと思っていたら、映画「タイタニック」のダンスシーンで流れていたようなアイリッシュダンス風の軽快な音楽が始まり、楽器それぞれが勝手気ままに歌い出す。中にとても美しい旋律が挟まれているのに、いつの間にかあふれ出す音の洪水にかき消されてしまう。それはまるで、街で暮らす私たちの日常そのもの。バラバラなリズム、ダイナミックなノイズ……。クラクションやホイッスル、「グウェッ、グウェッ」というアヒルの鳴き声を発するダックコールまで繰り出して沸騰していく音、音、音……。何度かの繰り返しの果てに、やがてリズムが緩慢になり、息も絶え絶えといった風情で演奏が消えていき、そこを叱咤するような声が聞こえたかと思うと、一瞬音の洪水がよみがえり、再び静寂が訪れる。忙しい一日を終えて、くたくたに疲れ果てて眠る時の自分のカリカチュアようだ。初めて聴く面白い曲だった。

 

 ソリストの三浦文彰が登場する前の舞台転換で、下野が「昨日はやらなかったんですが、ちょっと長くかかるので、お前、場をつないで来いと言われまして……」とトークに登場。「今の曲、びっくりしたでしょう? 携帯電話の音みたいなのまで出てきて」と語りかけて和ませた。

 三浦の曲はマックス・ブルッフ(1838-1920)の「スコットランド幻想曲」。ドイツ生まれの作曲家がリバプール滞在中にスコットランド民謡の旋律に触れて作曲した曲という。プログラムで「アメリカでは人気が高く、何度も弾いているが、日本では今回が初めて。“良い音で弾きたい”という気持ちが高まる曲」と語っている三浦は、1704年製のストラディバリウス「Viotti」を携えて舞台へ。三浦が尊敬するハープの早川りさこ(NHK交響楽団)もスペシャル・プレイヤーとして登場し、舞台中央に楽器を構えた。

 ヴァイオリンとハープの旋律がゆったりと静かに美しく響く第1楽章。重厚な弦のイントロで始まる第2楽章はリズミカルで華やかな展開。細かく震えるヴァイオリンの音色は小鳥のさえずりのようで、ヴィヴァルディの「四季」を思わせる。第3楽章はテンポが一転。ゆったりと歌い始める。第4楽章はヴァイオリンの先導するフレーズに、オーケストラや木管楽器が呼応していく構成。ハープとの協奏も美しい。プログラムには「戦いの歌」とあるが、その荘厳な美しさは、私には“祝婚歌”をイメージさせた。三浦はカーテンコールで何度も登場したが、この時はアンコールなし。最後には楽器を置いて登場し、両手を振って笑顔で挨拶していた。

 休憩をはさんでオーケストラの演奏はメンデルスゾーン(1809-47)の交響曲第3番「スコットランド」。早世の作曲家が33歳の円熟期に完成させた最後の交響曲だが、20歳の時にスコットランドの首都エディンバラを訪れた際に着想を得た主題が、第1楽章の冒頭と第4楽章の最後に異なる曲調で現れる見事な構成を持つ、豊かでドラマチックな曲だった。

 

寺門孝之さん(画家・神戸芸術工科大学教授)が描く2018年2月のプログラムの表紙は「ひびきくん、みみをすます(その5)」。冷蔵庫のぶうう~んという音の向こうから聞こえてきた音は……

 アンコールで登場した下野が「さっき、三浦くんのアンコール曲が聞けなくて、皆さんがっかりしたでしょ? やっていただきますよ。『真田丸』メインテーマ!」と三浦を呼び入れると、会場から拍手と歓声が沸き起こった。耳に馴染んだ服部隆之作曲のあのメロディーを生音で聴けるうれしさ!

 演奏後にはさらなるサプライズが待っていた。前列ヴァイオリンの最後尾に三浦の席がしつらえられ、下野が「スコットランドの演奏会だったのに、一気にムードが変わっちゃいましたね。今の真田丸、人気の曲でしたが、もう2年前なんですよ。今年は西郷さん、『西郷どん』です。たまたまさっきの『真田丸』も『西郷どん』も、私が指揮をしているんですよ。聴いてください」と、富貴晴美作曲の今年のNHK大河ドラマのメインテーマを壮大に奏でた。主演の鈴木亮平は西宮市出身。鹿児島出身の下野には、西郷どんはきっと親しみを覚える存在に違いない。

 

 ゲスト・コンサートマスターは田野倉雅秋(名古屋フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター・大阪フィルハーモニー交響楽団首席コンサートマスター)。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの横山俊朗(NHK交響楽団第2ヴァイオリン次席)、ヴィオラの中島悦子(関西フィルハーモニー管弦楽団特別契約首席・神戸市室内合奏団)、チェロの金木博幸(東京フィルハーモニー交響楽団首席)、コントラバスの渡邉玲雄(新日本フィルハーモニー交響楽団首席)、トランペットの神代修(大阪教育大学准教授・洗足学園音楽大学客員教授)。スペシャル・プレイヤーはセバスティアン・マンツ(シュトゥットガルトSWR交響楽団ソロ首席)、ホルンのデニス・トライオン(元フィラデルフィア管弦楽団奏者・ピーバディー音楽大学教授)、パーカッションの奥村隆雄(元京都市交響楽団首席)と、充実の顔ぶれ。PACのOB・OGもヴァイオリン7人、ヴィオラ2人、チェロ・コントラバス各1人の10人が参加した。(大田季子)

 

【お知らせ】3月9日(金)~11日(日)の第104回定期演奏会に出演予定の指揮者ヘスス・ロペス=コボスが健康上の問題で来日できなくなったため、スイス生まれのマティアス・バーメルトが代演する(曲目とソリストの変更はない)。バーメルトはロリン・マゼール時代のクリーヴランド管弦楽団で常任指揮者を務めたほか、バーゼル放送交響楽団やロンドン・モーツァルト・プレイヤーズの音楽監督などを歴任。18年4月からは札幌交響楽団の首席指揮者に就任する。

 




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