マエストロとPACの絆が生んだ完成度の高さに熱狂~兵庫芸術文化センター管弦楽団第106回定期演奏会~

【PACファンレポート㉑第106回定期演奏会】

 5月26日、兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)第106回定期演奏会。指揮は、ザルツブルグ・モーツァルテウム管弦楽団首席指揮者の経験を生かして2014-15シーズンからPACと「モーツァルトの旅」シリーズの演奏会を続けているユベール・スダーンが登場。PACメンバーと築き上げている確かな絆の存在を感じさせる演奏会だった。

 

 開演とともにこの日のソリスト、フルートのカール=ハインツ・シュッツが、マエストロと並んで颯爽(さっそう)と登場。まず、イタリア近代の作曲家リッカルド・ザンドナーイ(1883-1944)の「フルートと管弦楽のための『夜想曲』」を披露した。

 初演は不詳だが作曲されたのは1932年という。第一次世界大戦後、ドイツでナチスが躍進を始めたころだ。初めて聞くムーディーな曲は、プログラムにもある通りフランス印象派の作品を思わせる。低い和音を響かせるピアノのイントロダクションはまるで銅鑼の響き。うっとりと弾き始めるハープの調べに誘われるように、何かが待つ夜のしじまにフルートのメロディーが滑り出してゆく……。その様子に、全く違う曲なのだが、私の脳裏には山口百恵の「夜へ」(作詞:阿木燿子、作曲:宇崎竜童)の歌詞の一節が浮かんだ。あやしく あまやかな 夜へ……それはまさに、夜の庭に歩み出て、涼やかな風に吹かれながら、恋人と語り合いたいような気持ちを起こさせる夜想曲だった。

 

 続いての演奏曲は、モーツァルトの「フルート協奏曲 第1番」。時折オーボエとホルンを伴う、いかにもモーツァルトらしい弦の運びに乗せて、フルートが気持ちよく歌い出す。ソロに差し掛かると、ホール内にフルートの音色が響き渡り、聴衆の耳目が長身のソリストに集中した。プログラムのインタビューで「モーツァルトのオペラを定期的に演奏するようになって、よりモーツァルトの音楽に近づき、自分がその一部であると感じられるようになった」と答えている通り、ウィーン国立歌劇場管弦楽団首席ソロ・フルート奏者、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団ソロ・フルート奏者として培った力量を、伸びやかに発揮した見事な演奏だった。

 独奏フルートのほかに第2楽章には2本のフルートが加わる。PACコアメンバーの大久保祐奈、知久翔は、名手の演奏を舞台上で食い入るように見ていた。

 シュッツのアンコール曲はオネゲル「牝山羊の踊り」。緩急のはっきりとした曲で、飛び跳ねるような音階を楽々と吹きこなす彼の技術の高さに、惜しみない拍手が送られた。

寺門孝之さん(画家・神戸芸術工科大学教授)が描く2018年5月のプログラムの表紙は「ひびきくん、みみをすます(その8)」。日が沈んでも明るさの残る季節には、いつまでもふらふらしていたくなるのです……

 後半は、総勢72人の大編成のオーケストラによるブラームスの「交響曲 第2番」。特に弦が厚い。第1・第2ヴァイオリン合わせて26、ヴィオラ10、チェロ8、コントラバス8という堂々たる編成だ。美しく壮大なメロディーを、スダーンのタクトが巧みにリードしていく。心地よく揺れながら弦の調べに聴き惚れていると、木管セクションがまた別の美しい旋律を紡ぎ始める。そこに立ち現れるのは、らせん階段のように複層をなす音の回廊。いつまでも聴いていたいような、とても心地よく完成度の高い演奏だった。

 爆発的な歓喜で締めくくられる大交響曲だから、オーケストラのアンコール曲は期待していなかった。が、何度も舞台に呼び戻されたマエストロは、おなじみのブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」で聴衆の熱狂に応えてくれた。

 

 ゲスト・コンサートマスターは田野倉雅秋(名古屋フィルハーモニー交響楽団コンサートマスター、大阪フィルハーモニー交響楽団首席コンサートマスター)。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの戸上眞里(東京フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席)、ヴィオラの柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ)、チェロの林裕(元大阪フィルハーモニー交響楽団首席)、コントラバスの黒木岩寿(東京フィルハーモニー交響楽団首席)。スペシャル・プレイヤーは、PACのミュージック・アドヴァイザーも務めるヴァイオリンの水島愛子(元バイエルン放送交響楽団奏者)とホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)と、PACのOBでトランペットの池田悠人(関西フィルハーモニー管弦楽団奏者<試用期間>)。ほかにPACのOB・OGは、ヴァイオリン6人、ヴィオラとチェロとコントラバスが各1人参加した。(大田季子)




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