2018-19シーズンの開幕は“幸せな音がする”ハイドンの壮大なオラトリオ「天地創造」

 

【PACファンレポート㉔第108回定期演奏会】

 14人の新メンバーを迎えて兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の2018-19シーズンの演奏会が始まった。開幕の演奏曲に佐渡裕芸術監督は、フランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732-1809)のオラトリオ「天地創造」を選んだ。

 9月15日土曜の開演前に登壇した佐渡芸術監督は、「PACは世界各地でオーディションを行い、今シーズンは初めてチェコからのメンバーを迎えた。卒団メンバーは国内外で活躍し、当初僕が考えていた以上に良いつながりが生まれている。今日演奏するハイドンの曲はとても長い曲なので演奏機会はそれほど多くはないが、歌が重要な役割を担う彼の最高傑作だ。僕自身、指揮するのは今回が初めて。楽譜をあたってみて、この曲がベートーヴェンの第九よりも25年以上も前に書かれていたことに驚いた。ハイドンの曲は本当に幸せな音がする。壁画のように壮大な曲をお楽しみください」と客席に語りかけた。

 そんなトークで和やかなムードとなった中、しずしずと合唱メンバーがまず舞台へ。次々に出てくる人の多さに驚いて、ざっと目で数えてみるとなんと総勢100人! 今夏の芸術監督プロデュースオペラ「魔弾の射手」でも活躍した「ひょうごプロデュースオペラ合唱団」(個性的な村人を演じた歌手たちの顔がチラホラ)と、2005年の開館時に結成された「オープニング記念第9合唱団」の人たちだ。

 オーケストラに続いて、独唱の幸田浩子(ソプラノ)=豊中市出身、兵庫芸文の舞台ではおなじみのキュウ・ウォン・ハン(バリトン)、吉田浩之(テノール)、佐渡芸術監督が登場し、厳かに演奏が始まった。

 

 「全能の神が7日間で世界を作った」という旧約聖書の記述をもとに、宗教的かつ世俗的な内容を盛り込んだ曲は、大胆に意訳したというドイツ語の歌詞に日本語の字幕が付く。独唱の3人は「話し言葉にフシを付けたような手法」とパンフレットの解説で初めて知ったレチタティーヴォという歌い方とアリアを、そして大合唱が入れ替わり立ち替わり、壮大な物語を織り上げていく。若い頃に合唱団の指揮を何度も行ってきた佐渡芸術監督は、人のぬくもりのある声がやはりお好きなのか、歌声に包まれる指揮台の上で全身を駆使してとても楽しそうに見える。

2018年9月の第108回定期演奏会のパンフレットは「天地創造」の歌詞の対訳付きで40ページ。表紙絵は画家で神戸芸術工科大学教授の寺門孝之さんが使用中のパレットをモチーフに妖精たちが冒険する新シリーズに衣替え

 混沌から天と地が生まれ、光があふれ、昼夜が分かたれる4日目までを描写する第1部が約40分。休憩をはさんで様々な動植物や人間が生まれる5日目と6日目を描く第2部と、アダムとイブが2人の愛のよろこびを歌い上げる第3部で約70分。悠久の時の流れと重なる壮大な時間旅行を音楽で楽しんだ。私が一番愉快に感じたのは第2部。ワシ、ヒバリ、ハト、ウグイス、魚たち、ライオン、トラ、シカ、駿馬、牛、羊、昆虫、地を這う虫たち……生き物たちの特徴を、楽器演奏と歌詞の掛け合いでユーモアたっぷりに表現するところでは思わず頬が緩んだ。

 

 コンサートマスターは豊島泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーは、PACのOGでもあるヴァイオリンの西尾恵子(神戸市室内管弦楽団第2ヴァイオリン首席)、ヴィオラの柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ)、チェロの金木博幸(東京フィルハーモニー交響楽団首席)、コントラバスのウルリッヒ・ウォルフとオーボエのクリストフ・ハルトマン(ともにベルリン・フィルハーモニー交響楽団奏者)。スペシャル・プレイヤーは、PACのミュージック・アドヴァイザーも務めるヴァイオリンの水島愛子(元バイエルン放送交響楽団奏者)とトロンボーンのハンスィエルク・プロファンター(バイエルン放送交響楽団ソロ首席)。合唱の指揮は本山秀毅(大阪音楽大学学長、京都バッハ合唱団主宰)。PACのOB・OGは、ヴァイオリンで西尾以外に2人、ヴィオラとチェロでそれぞれ1人が参加した。(大田季子)

 

 




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