貴公子アルミンクの指揮姿とともに忘れがたい個人的“教訓” 兵庫芸術文化センター管弦楽団第93回定期演奏会

【PACファンレポート⑦ 第93回定期演奏会】

 12月17日の兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)第93回定期演奏会は、音楽の都ウィーンゆかりのプログラム。指揮者のクリスティアン・アルミンクは、貴公子然とした長身の燕尾服姿でも聴衆を魅了したが、私にとっては忘れがたい“教訓”の一日となった。

 勤め人には貴重な週末なので15時の開演前に何らかの予定を組むことはあるが、いつもの定期演奏会の日は余裕をもって席に着き、プログラムに目を通して開演を待つ。

 この日は友人が絶賛していた映画「この世界の片隅に」を開演前に見る予定にしていた。初回上映が満席で、カフェで時間をつぶして2回目を見ることにしたのだが、PACのチケットを家に置き忘れてきたことにハッと気づいたのは、映画館の席に座った瞬間だった。

 映画の余韻に浸る間もなく猛ダッシュでタクシーに飛び乗って自宅に向かったが、年末の交通渋滞に遭遇。息せき切って芸文センターに到着したのは開演から10分後。演奏中はホールに入ることができないため、ハイドンの「交響曲第70番」は聴き逃す羽目になってしまった(残念!)。

寺門孝之さん(画家・神戸芸術工科大学教授)が描いた2016年12月号のプログラムの表紙。テーマは「街の灯」。寺門さんはブラームス「交響曲3番」第3楽章を聞くと「街の灯」が思い浮かぶそうだ

 

 とはいえ、ソリストのクンウー・パイクのベートーヴェン「ピアノ協奏曲第3番」に間に合ったのは不幸中の幸い。オーケストラが巧みに誘うモチーフを、絶妙な間合いでおもむろに奏で始めるピアノとの掛け合いが面白い。

 クンウー・パイクは、ソウル出身でパリに住む円熟のピアニスト。アルミンクと同じくらいの長身だが彼よりは恰幅がいい。入退場時に少し猫背気味に歩くのはシャイな性格の持ち主だからだろうか、思いがけず繊細な音を紡ぎ出してくる。

 彼の独奏中は、アルミンクも指揮する手を止め、耳を澄まして聞き入る風情。演奏家たちが互いの音を聴き合って創り上げる、言葉通りの“協奏”を堪能した。

 子どものころに習っていたピアノの先生から「ベートーヴェンの指は太くて短かったそうよ」と聞いた記憶があるのだが、パイクの指は私の思い描く作曲家の指に似ていた。

 アンコールはリスト「忘れられたワルツ第1番」。華麗な調べを繊細に響かせた。

 ブラームス「交響曲3番」は、哀調を帯びた旋律が忘れがたい第3楽章が映画音楽などでも多く使われている名曲だ。木管楽器がそれぞれの持ち味を生かした多彩な音色を響かせ、曲に豊かな抒情性と膨らみをもたらしていた。

 コンサートマスターは豊嶋泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーに桐朋学園大学講師の田中晶子(第2ヴァイオリン)、仙台フィルソロ首席の井野邉大輔(ヴィオラ)、「アンサンブル・ベルリン」メンバーのクレメンス・ヴァイゲル(チェロ)、九州交響楽団首席の深澤功(コントラバス)、近藤高顕(ティンパニ)が加わり、PACメンバーの演奏を鼓舞した。

  オーケストラのアンコールでは、ブラームス「ハンガリー舞曲第5番」を演奏。緩急のメリハリを見事に効かせた演奏だった。

 しかしながら……本日の私の教訓。「家を出る前に必ず、チケットを持ったことを確認しよう!」。皆様が私の失態の二の舞をすることがございませんように。(大田季子)

【お知らせ】サー・ネヴィル・マリナー氏の逝去に伴い調整中だった第97回定期演奏会(2017年6月)の出演者とプログラムが、下記に決定した。

出演者/ヤン・パスカル・トルトゥリエ(指揮)

神尾真由子(ヴァイオリン)

プログラム/モーツァルト:歌劇「後宮からの誘拐」序曲

      チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調

      ブラームス:交響曲第4番 ホ短調

 




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