神尾真由子の見事なソロ、柔和な笑顔のマエストロは温かな演奏~兵庫芸術文化センター管弦楽団第97回定期演奏会~

【PACファンレポート⑬ 第97回定期演奏会】

 6月24日、兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の第97回定期演奏会は、父のポール・トルトゥリエ(往年の名チェリスト)を筆頭に音楽一家に育ったフランス出身の指揮者、ヤン・パスカル・トルトゥリエが初登場。指揮棒を使わず全身と両手を巧みに動かして表情豊かに楽団をリードし、終始にこやかな笑顔が印象的な温かみのある演奏会だった。

 

 1曲目はモーツァルト(1756-1791)の歌劇「後宮からの誘拐」序曲。モーツァルトらしいリズミカルに弾む音楽に、トライアングルやシンバル、大太鼓などのパーカッションがアクセントを添えているところが「トルコ風」。トルコの後宮を舞台にしたオペラ音楽のこの味付けは、16世紀前半と17世紀後半にオスマン・トルコ軍がヨーロッパへ攻めてきた時の軍楽を模したものと聞くと、大きな歴史の流れとその時代の音楽に相関関係があるのだなと、改めて思う。

 

 ソリストで登場したのは豊中市出身のヴァイオリニスト、神尾真由子。PACの定期演奏会には3回目の登場だ。上半身にスパンコールの付いた青のスリットロングドレスの足元はピンヒール! 難曲と言われるチャイコフスキー「ヴァイオリン協奏曲」を見事に演奏して聴衆を魅了した。

  “粘り”としか形容しがたい複雑な音色。しかもそれはウエットではなく、乾いたまま倍音を響かせて物悲しく、深い哀愁の世界に聴く者を引き込んでいく。セピア色の荒涼とした風景の中にたたずむ孤独な魂を感じながら私は、初めて生で聴いたソリストの姿が思い出されてならなかった。

 それは2004年大阪国際フェスティバルに登場したユリア・フィッシャー。その時に聴いたのは確か、ベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲」だったと記憶しているが、美しいメロディーを奏でるだけではないヴァイオリンという楽器の奥深さに目を見張り、衝撃を受けたことを覚えている。

 指揮者ヤン・パスカル・トルトゥリエは、自らも若いころはヴァイオリニスト。彼に見守られながらの神尾の演奏は、その時の衝撃を思い出させる演奏だった。鳴り止まぬ拍手に応えてのアンコールは、パガニーニ「24のカプリース 作品1より第24番」。あれだけの力の入った演奏をした後に、さらに難易度の高い選曲で、技量の高さを印象付けた。

2017年6月のプログラムの表紙。寺門孝之さん(画家・神戸芸術工科大学教授)はブラームス「交響曲第4番」のはじまりの部分に触発されて「神秘」へのあこがれを描いた

 

 オーケストラの演奏はブラームス(1833-1897)の「交響曲第4番」。輪郭のはっきりした壮大な交響曲の演奏者の中から、見覚えのあるPACメンバーの顔が少しずつ消えているのに気づいて少し寂しさを感じた。逆に懐かしいOGたち8人が弦のメンバーに加わっている。通常であれば6月でそのシーズンの定期演奏会は終了する。大規模修繕があった今年は、7月の佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ「フィガロの結婚」の後、8月にも定期演奏会が控えているが、そろそろ卒団していくメンバーがいるのだろう。

 楽曲に似つかわしい手堅い演奏で十分に満足したが、サービス精神旺盛なマエストロは、アンコールにブラームスの「ハンガリー舞曲 第5番」を演奏。高揚した気分とともに会場を出ていく足取りもグンと軽くなった。

 

 コンサートマスターは豊嶋泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーとして、ヴァイオリン戸上眞理(東京フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席)、読売日本交響楽団からは柳瀬省太(ソロ・ヴィオラ)と石川滋(ソロ・コントラバス)、チェロのマーティン・スタンツェライト(広島交響楽団首席)、ホルンの安土真弓(名古屋フィルハーモニー交響楽団首席)、ティンパニの中谷満(元大阪フィルハーモニー交響楽団首席)が参加。スペシャル・プレイヤーにホルンの五十畑勉(東京交響楽団首席)、バス・トロンボーンのブレア・ボリンジャー(フィラデルフィア管弦楽団奏者)が加わった。(大田季子)




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