熱狂の「トゥーランガリラ交響曲」で2017-18シーズン開幕~兵庫芸術文化センター管弦楽団第99回定期演奏会~

【PACファンレポート⑯第99回定期演奏会】

 兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)定期演奏会2017-18シーズンの開幕に、佐渡裕芸術監督が取り上げたのは、20世紀最大の作曲家の一人、フランス生まれのオリヴィエ・メシアン(1908-1992)の大曲「トゥーランガリラ交響曲」だった。

 一体どんな大曲なのか? 定期会員特典の一つに「公開リハーサルへの招待」があるが、一足先に予習のつもりで9月14日、初めて足を運んでみた。

 まず驚いたのは、意表を突くほどの大編成だということ。重低音を響かせるコントラバスが、なんと10台も並んでいる! 指揮台の手前、上手には電波楽器オンド・マルトノ、下手前列にはピアノを先頭にチェレスタ、ジュ・ドゥ・タンブル、ヴィブラフォンが並ぶ。ひな壇前の弦楽器群の椅子と椅子の間はわずかな隙間を残すのみ。ひな壇の木管楽器、金管楽器の後ろには様々な打楽器がしつらえてある。

 演奏機会が少ない曲とあって興味津々の会員が多いのか、開放された1階通路後方の席はほぼ満席で、期待の高さを物語る。その客席を見て驚いたのは、ピアノ独奏を務める長身のロジェ・ムラロ。客席に向かっておどけた仕草をした後で、佐渡芸術監督に声を掛けていたのは「リハーサルなのにこんなに人が来るの?」とでも聞いたのか。佐渡芸術監督は満面の笑みで応えていた。そのちょっとしたやりとりにも“わが街のオーケストラ、わが街の芸術監督、わが街の劇場”を誇りたいような気持ちになる。

 

 私が聴いた本番は9月16日、いつもの土曜日だ。前日には兵庫県立芸術文化センターの公演入場者数が600万人を突破して記念セレモニーも行われたと、演奏前のトークで佐渡芸術監督が報告。続いて、今シーズン開幕にこの曲を選んだ意図を次のように語った。

 「来年2018年が、僕の師匠であるバーンスターンの生誕100年ということで、今シーズンから世界中のオーケストラでバーンスタイン・イヤーが始まっています。実はメシアンの『トゥーランガリラ交響曲』世界初演はバーンスタインが指揮したのです。1949年、オーケストラはボストン交響楽団でした。そんなゆかりもあっての選曲でしたが、当時彼は30代になったばかり。今回僕も格闘した分厚い音符の羅列の楽譜を前に、若きバーンスタインがどれだけ興奮したか、追体験するような気持ちになりました。

 通常の交響曲は4つの楽章からなりますが、この曲は全10楽章。演奏時間も優に1時間を超えます。オーケストラの人数は110人。打楽器だけでも10人必要なのです。

 新しいシーズンを迎えて、PACには新たに19人のメンバーが加わりました。初めてモンゴル、キューバからもメンバーを迎え、先日赤穂で合宿を行いました。アカデミーとしても様々な音楽家たちの協力を得て、優秀な演奏家が育っていっています。僕にとって想定外でしたが、とてもうれしいのは、このような大編成のオーケストラが必要な時に、卒団したメンバーたちが多く集まって来てくれること。今日も名古屋フィルで首席ヴィオラ奏者を務めているOGを含め18人が参加してPACの音を作ってくれます」

寺門孝之さん(画家・神戸芸術工科大学教授)が描く2017年9月のプログラムの表紙は2015-16シーズンに続き「ひびきくん」が再登場して「響き」をめぐる物語絵本を綴るシリーズに。第1回は「ひびきくん、みみをすます(その1)」

 そして、今回ピアノと並んで独奏する珍しい楽器オンド・マルトノの奏者・原田節を舞台に招き入れ、その音色と楽器についての解説トークを楽しんだ。

 オンドはフランス語で「波・電波」の意味。第1次世界大戦でフランス軍通信兵として従事していたモリス・マルトノが、通信機の三極真空管が発するピュアな音に注目して1928年に楽器として世に出した時の名は「オンド・ミュジカル(音楽的な電波)」だったが、発明者マルトノへの親しみを込めて、「オンド・マルトノ」と呼ばれるようになったという。

 佐渡芸術監督が「一人の演奏家が一生に一度演奏するかしないかレベルの大曲」という「トゥーランガリラ交響曲」の演奏に不可欠な楽器演奏の第一人者とあって、原田は世界各地で、すでに320回ほども演奏を重ねているそうだ。

 

 待望のオーケストラの演奏は、筆舌に尽くしがたいほど多彩な音色とリズムの熱狂的な乱舞だった。タクトを振る佐渡芸術監督も、まさに今この瞬間を心から楽しんでのめりこんでいるように見えた。「トゥーランガリラ」はサンスクリット語で、「トゥーランガ」は「走り、流れる時間」を、「リラ(リーラー)」は「遊ぶ、演奏、愛」であると作曲家自身が述べているとプログラムノートにあった。だからこれは、「愛の賛歌」なのだと。

 都会の交差点の騒音にも似た不協和音が、不穏に、しかし微かな一筋の調和を保ちながら自律的に躍動する。ガムランのようにうねる打楽器の音が祝祭感を一気に盛り上げる。

 分厚い音の連なりの間から時折、水琴窟から響くような透明な魅惑の音の滴りが顔をのぞかせる。そこからもたらされるのは、しびれるほどの圧倒的な幸福感……。

 メシアンとも面識があり、コンセルヴァトワール(パリ国立高等音楽院)でその夫人に師事したムラロは「緻密に練り上げられた作品が、ただの音の洪水に陥らないよう、作品に込められた“歓び”を伝える理想的な響きのバランスを創り上げたい」と抱負を語ったそうだが、ピアノパートがない場面では、オーケストラの方を向いて、その音の響きを全身で確かめているかのようだった。

 

 演奏終了後、割れるような拍手がホールを包んだ。ムラロと原田のアンコール曲は、メシアンの「未完の音楽帖 オンド・マルトノとピアノのための4つの小品」より第1組曲だった。

 

 ゲスト・コンサートマスターはウェイ・ルー(ベルリン・ドイツ交響楽団第1コンサートマスター)。ゲスト・トップ・プレイヤーには田中美奈(大阪フィルハーモニー交響楽団第二ヴァイオリン首席)、ヴィオラの石橋直子(名古屋フィルハーモニー交響楽団首席)、チェロのオーレン・シェヴリン(ケルン放送交響楽団ソロ首席)、コントラバスの河原泰則(元ケルン放送交響楽団首席)、オーボエの藤井貴宏(元PACコアメンバー)が参加。

 スペシャル・プレイヤーには、PACのミュージック・アドヴァイザーも務めるヴァイオリンの水島愛子(元バイエルン放送交響楽団奏者)と、バスーンのライナー・ザイデル(バイエルン放送交響楽団奏者)、ホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、トランペットのヴィム・ファン・ハッセルト(フライブルク音楽大学教授、元コンセルトヘボウ管弦楽団奏者)、パーカッションのミヒャエル・ヴラダー(ウィーン交響楽団ティンパニ首席)が参加した。(大田季子)




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