【précieux 京都】#9 手ぬぐいと風呂敷を世界に。創業404年の綿布商を背負う14代目当主
永楽屋 細辻伊兵衛商店【本店】 = 京都市中京区室町通三条上ル役行者町368

precieux京都

 細身で長髪。黒ずくめのファッションで身を包み、黒い眼鏡を片手でちょっと上げる仕草。日本最古の綿布商として404年の歴史を持つ「永楽屋」の14世細辻伊兵衛さんは、京都ではちょっとした有名人だ。商売の延長とはいえども花街、パーティーやレセプションの常連であり、昼夜を問わず神出鬼没。テレビ出演も多く、インスタやFacebookなどで、その姿を見ない日はないほどだ。
「伊兵衛さん、ちゃんと仕事しておいやすのか?」と行き先々で聞かれても飄々としているこの人が、実は婿入り先のひっ迫した商売を立て直した辣腕の持ち主であるということを知っている人は、そう多くはない。

 

永楽屋14世細辻伊兵衛さん
永楽屋14世細辻伊兵衛さん。写真に写る時はいつもこのポーズ。中国など海外から老舗経営の基礎を細辻さんに聞くツアーも組まれるほどになった

 

 文献によれば江戸時代初期の元和元年(1615年)に綿布商として創業し、織田信長の御用商人として仕えた。自動車メーカーのエンジニア、アパレル店経営など、全く違うフィールドにいた細辻さんが、13代目の長女と結婚したのは28歳の時。「入社して初めて経営危機であることを知りました。結婚して3か月で義母、翌年に義父を亡くし、起死回生が自分の役目だな、と模索している時に、明治から昭和初期にかけての染織原画の膨大なコレクションを目にしました。どれも素晴らしかった。これを現代によみがえらせ、手ぬぐいや風呂敷にしようと決めました」と細辻さん。

 手ぬぐいにする小幅木綿を現在も作っているのは日本に数社しかない。京友禅の職人に「木綿のキメがもっと細やかだと、色がさらに美しくなる」と言われ、コーマ糸を使ったオリジナルの生地も作った。図案をもとに型紙をつくり、生地の上に置いて染める「型友禅」は、一色につき一枚の型で染めるので、多色使いの場では何枚もの型を必要とする。数々の工程と手間をかけ仕上がる手ぬぐいを「町家手拭」と名付けた。

 

細辻さんデザインの手ぬぐい。
細辻さんデザインの手ぬぐい。「葵、時代、祇園の京都三大祭を入れ込んだ図柄は珍しいと思います」と細辻さん

 社運をかけて2000年に初の店舗を開くと、すぐに珍しい日本てぬぐいの専門店としてメディアに取り上げられた。日本の風土や意匠、季節や行事と共に生きる文化が図柄に盛り込まれ、1枚1枚、丁寧に熟練の職人が仕上げられる品が2,000円もあれば自分のものに。気軽に額に入れて飾りたいという人や、日本らしいお土産を探していた外国人観光客などが店につめかけた。ある日、店で接客している際に気が付いた。手ぬぐいは単に飾ったり手を拭いたりするだけでなく、アレンジの面白味もある。使い方、楽しみ方を提案すべきだ、と。そこから、ラッピングとして活用する場合の包み方、ストールとしての巻き方などを提案し、異業種とのコラボレーションも積極的に行ってきた。

 

本店1階にずらりと並ぶ、手ぬぐい。店舗は本店ほかに8店舗ある
本店1階にずらりと並ぶ、手ぬぐい。店舗は本店ほかに8店舗ある
本店2階は帆布などを使用したバッグなどの小物を売る「伊兵衛 Ihee」
本店2階は帆布などを使用したバッグなどの小物を売る「伊兵衛 Ihee」

「町家手拭ギャラリー」では、歴史的価値がある手ぬぐいコレクションを見ることができる
「町家手拭ギャラリー」では、歴史的価値がある手ぬぐいコレクションを見ることができる
14世自らデザインした現代図柄の手ぬぐいも人気
14世自らデザインした現代図柄の手ぬぐいも人気。写真は昭和の図柄「チャップリン」を復刻させ、14世の直筆サインが入っている手ぬぐい

 

 永楽屋では先々代の時代に給料袋に印刷されていた家訓でもある「教訓大黒舞」を全員で読み上げている。「大黒舞」は七福神の大黒天が、打ち出の小づちを振りながら、健康で、苦しい時も笑って繁栄をめざし、世の中をよくしよう、と歌う、京都から全国に広がった旅芸人の口上。それをわかりやすくオリジナルにした。

 先代は「世のために役立つ生き方を」と、国立国際会議場建設の際に通信業務の拠点が必要だと頼まれ、所有する烏丸三条の一等地を差し出した。その精神が細辻さんの心に今も、ある。「世界に町家手拭を知らしめるのが夢。確かに商売は大切です。しかし、それだけではアカンと、自分たちにできることをいつも考えています。京都の伝統工芸を取り巻く状況は厳しい。職人の育成も急務。自社の商売の繁栄だけを追求することはできません」。

※永楽屋 細辻伊兵衛商店 → http://eirakuya.jp/

 


◆Writing / 澤 有紗
QOL文化総合研究所(京都市上京区)代表。
文化、医療・美容、旅や食などのライフスタイル、京都などをテーマに雑誌・企業媒体誌などの編集・執筆を行うほか、エッセイなどを寄稿。テレビ番組や出版のコーディネート、国内外の富裕層旅行客の京都、滋賀のアテンドも行う。2010年の上海万博日本館の京都ウィークにて「抗加齢と日本食」をテーマに食部門をプロデュースするなど、国内外での文化催事も手掛ける。
主催イベントとして、日本文化を考える「Feel ! 日本 -日本を感じよう -」と自分を見つめ直しQOLを高める「Feel! 自分‐ QOL Terakoya Movement – 」を定期開催。生まれ育った京都の文化や街並みの保存・継承、町おこしに注力している。
https://www.qol-777.com

 

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