吃音の子を持つ親たちの手記を集めた「『吃音』の正しい理解と啓発のために―キラキラを胸に―」を編んだ堅田利明さん

 100人に1人の割合で、吃音(きつおん)を持つ人がいることを知っていますか?――。そんな書き出しのあいさつ文とともに編集部に1冊の本が送られてきた。

 「『吃音』の正しい理解と啓発のために―キラキラを胸に―」(海風社)。吃音のある子を持つ親や家族、保育園や小学校の先生、専門家ら吃音とかかわりのある人たち28人が、それぞれの立場から様々な思いをつづった手記形式の本だ。一人ひとりの切実な思いに触れて、これまで吃音のことをあまりに知らな過ぎた自分を恥じた。

 

 編著は堅田利明さん。言語聴覚士として約25年間、大阪市立総合医療センター小児言語科で吃音のある子どもたち1,000人以上とかかわり、3年前から関西外国語大学で准教授を務めている。堅田さんは2007年に吃音のある小学生・新一を主人公にした児童書「キラキラ どもる子どものものがたり」を、13年に思春期を迎えた新一を描く「キラキラ続編 どもる子どものものがたり 少年新一の成長記」を、ともに海風社から出版。吃音のある子や親、彼らを支えようとする教育現場の人たちに読み継がれ、読者を勇気づけながら版を重ね、キラキラは4刷、続編は2刷のロングセラーとなっている。新刊「キラキラを胸に」は、これらの本と出会った保護者や家族が、横のつながりを求めて大阪と長野で立ち上げた親の会メンバーが中心になって作られたものだ。

「吃音をオープンにして話せる環境が何より大切です。たくさんの人にこの本を読んでいただいて、吃音のことを知ってほしい」と話す堅田利明さん=関西外国語大学の研究室で

 キャンパスに堅田さんを訪ね、吃音のことを教えてもらった。

 「吃音は、就学前の2~5歳ぐらいに始まることが多く、約8割は自然に消えていきます。残り2割の子どもは吃音を持ちながら成長していくことになります。就学前なら、1クラス30~50人におよそ1人程度、吃音の子がいても不思議ではありません。世界中で研究を進めていますが、いまだに原因は明確になっておらず、確立した治療のガイドラインもありません」

 よくわかっていないにもかかわらず、吃音のある人には「ゆっくり落ち着いて話してみたら?」「あわてないでしゃべってごらん」「何かストレスがあるの?」などの“助言”が、いともたやすくされてしまう。その状況が、吃音の子と親を苦しめている。

 言葉を発し始めて「ボボボ僕ね」などの連発が出始めた子どもは、周りから「どうしてそんなしゃべり方するの?」と聞かれるが、最初のうちは自分の発する言葉の聞こえ方に無自覚で、何を言われているのかわからないのだそうだ。なぜなら、その子にとってはそれが自然でラクなしゃべり方だからだ。それを「しゃべり方に気をつけて」と注意喚起されると、言葉を発する際に身構えるようになる。構えてしゃべれば最初のうち「僕ね」と言えるようになることもあるが、やがてその状態に慣れてしまい連発が出そうになるのを回避しようと「ぼーくね」と音を伸ばす伸発、話そうとしても言葉が出て来ないなどの難発に進んでしまい、顔がゆがむ、体が小刻みに震えるなどの随伴症状が出てきてしまうのだそうだ。

 「吃音のある話し方の中でも連発は、本人にとって自然な話し方なので、聞き手は話し方に気を取られるのではなく話す内容を聞いてそのまま対話してほしいのです。どもり始めることを『発吃』と言いますが、2歳で発吃した子が、半年後に難発になった例を知っています。吃音の子はできるだけ早い段階で吃音の専門家に診てもらってほしいと思います。吃音でからかわれて、子どもが心に傷を負ったり、親が自分を責めたりする前に。医師だから吃音の専門家とは限りません。『それほど気になりませんよ。様子をみましょう』という専門家は、吃音の専門家ではありません。様子を見るというのは優しい言葉のようですが、何も手を打たないことに変わりはありません。大切なのは、吃音とは何かを、本人も親も家族もきちんと知って、周囲の理解を求め、安心して話せる環境をつくることです」

 

 では、改めて吃音とは何ですか? 「①人と話そうとする時にスイッチが入って起こるような感じでしょうか(復唱や独り言ではあまり起こらない)、②吃音が出ず、スラスラと話せる時とかなりつっかえてしまう時とがあって、それが波の様に変化する(そのため“治った”と誤解されてしまうこともある)、③口・耳・舌などの器官や本人の性格などに問題があって起こるのではない、④親のかかわり方や態度で発症することはない、⑤周囲の対応次第で症状がひどくなってしまう(吃音症状を注意したり修正したりすると症状が悪化する)。これらのことを、本人が自分の力で周囲に説明できるようになるまでは、親が本人に代わって幼稚園や保育所、学校の先生や友達に説明してほしいのです 。先生だけではなく周りの子ども達にも伝えておくことが大切です」

 

 「『吃音』の正しい理解と啓発のために―キラキラを胸に―」はA5判220ページ。定価:本体1,800円(税別)。問い合わせはTEL06・6541・1807、FAX06・6541・1808、海風社へ。

 

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カテゴリ: 教育