「どう教えるか」市民と学ぶ教員たち~2018年度から小学校で、19年度から中学校で「道徳」が「特別な教科」に

 文部科学省は、頻発するいじめ問題に対処し、情報化が加速する社会での「情報モラル」にまつわる課題に対処するため、来年4月から小学校で、翌2019年度からは中学校で、道徳を「特別の教科」に格上げし、記述式の評価を課す。すでに小学生が使用する「道徳」の検定教科書も出そろい、教育現場では「何を、どのように教え、どのように評価するか」を巡って、各地でさまざまな取り組みが進んでいる。

 その一端を知ろうと、8月末の土曜日、大阪・梅田の大阪市立文化交流センターで行われたシンポジウムに足を運んでみた。シンポジウムのテーマは「人権の視点で『道徳』は可能か」。

 2010年から大学教員や市民が有志で企画・開催している「市民のための人権大学院~じんけんSCHOLA(すこら)」第8期のプログラムの一つだ。約80人の参加者のうち過半数が、実際に小中学校で教えている教員だった。九州から駆け付けた教員もいた。

参加者の過半数は現役の教員

 最初に大阪市立大学大学院文学研究科哲学研究室の土屋貴志さんが「哲学の立場からみた『道徳』と人権」と題して講演。「結論から言うと、人権の視点で『道徳』は可能です」と口火を切った。

 歴史的にみると、戦前・戦中に学校の道徳教育を担っていた「修身」科は、国家主義的・軍国主義的であるとして、日本の民主化を進めるGHQが授業を停止した経緯がある。週1回の「道徳の時間」は1958(昭和33)年に始まり、学校教育全体を通じて学ぶ道徳を補充・深化・統合する時間と位置付けられてきた。

 倫理学を専門とする研究者の土屋さんは「本来の意味での道徳は『規範』の一種で、道徳教育は学校だけで行うものではなく、社会のあらゆる場所と場面で誰もが日常的に行っているものだ。『特別の教科』となっても道徳教育の内容項目は、人権教育の内容項目に翻訳できる。私は『道徳を教える』とは、道徳について考えることを教えることだと捉(とら)えている。何をすべきなのか、なぜそうするのか、理由を自分で理解することが大切だ。子どもたちの本音を引き出し、本気になる授業を実践しよう」と呼びかけた。

会場では、土屋さんが持参した復刻版の「修身」の教科書が回覧された。「道徳」の検定教科書は読み物資料中心の作りだが、これは「修身」教科書と同じだ。土屋さんは「読み物資料中心の教科書には違和感を覚える。なぜなら、事例としての物語は常に特定の解釈を超えていくからだ」とコメントした

 

 続いての講演は、天理大学人間学部総合教育研究センター教職課程研究室の冨田稔さんが「若い教員に伝える『人権教育』と『道徳教育』」をテーマに、教育学の立場から話した。

 教科書会社8社の検定教科書の特色を分析した資料を示し、「道徳教育では、教材研究と教材解釈が命だ。同じタイトルの読み物でも各出版社によって内容が大きく違うものもあることを知っておいてほしい」と話した。

 さらに「道徳教育をはじめ学校教育活動では、教員自身の言動が“隠れたカリキュラム”になる。多文化・人権尊重の学校文化が個と集団を育てる。子どもたちに居場所を保障し多様な価値観を共有できるよう、学校文化について人権の視点から見直してほしい」「おかしさに気づく感性を養うことが大切だ。批判的な思考力と自ら疑問を生み出す力を養っていくことも大切だ」と話した。

 

 最後の講演は、長く小中学校で教員を務め、現役を退いてからは、三木市人権・同和教育協議会副会長を務める春川政信さんが「人権学習 Here and Now」と題して、兵庫県下で培われてきた人権同和学習を「道徳」でも行うためのエッセンスを熱く語った。

「私とあなたが一緒に生きる人間として、ともに問題を解決していこうという姿勢が大切」と語りかけた春川政信さん

 「授業中に建前の意見が子どもから出てきた時に、それを揺さぶっていくことが肝心だ。ペアや班を上手に使って、全員が意見を交わし合い、どうするのが一番いいのかを全体で考えていく授業をしてほしい。絶対に避けてほしいのは教員が上から『いいか、差別はあかんのやで。わかったか』と居丈高に言うこと。子どもらには伝わりません」

 

 司会を務めた関西大学の上杉聡さんは「今日のシンポジウムでは、本質的な話から、具体的なところまで深い話が出された。国が『国家主義的な道徳』を進めていこうという意図を秘めていたとしても、教員たちは『より普遍的な道徳』を目指し、闘う道徳を展開することができる」と結んだ。

 

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カテゴリ: 教育

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