この夏、親子で読んでほしい越水利江子さん最新作「ガラスの梨 ちいやんの戦争」おすすめの理由とは?

 もうすぐ終戦記念日が来る。

 当時、子どもだった人がこの日をどんな思いで迎えたのか、戦時色が濃くなる中で市井の人々の暮らしがどう変わっていき、戦後はどのような暮らしを送ったのか――。大阪に住む「ちいやん」と呼ばれる一人の少女、笑生子(えいこ)の曇りのない澄んだ視点で書かれた越水利江子さんの最新作「ガラスの梨 ちいやんの戦争」(ポプラ社)は、この夏、ぜひ多くの人に読んでもらいたい本だ。

定価1,500円(税別) B6判・360ページ

 作家生活25周年を迎えた京都府在住の越水さんは、あさのあつこ、八束澄子、いとうみく、宮下恵茉ら人気作家を輩出している「季節風」同人。太平洋戦争中に大阪大空襲に遭った実母をモデルに、そのすさまじい戦争体験を、巻末に挙げた68冊もの参考書籍・戦時資料を読み解くことでさらに深掘りし、平易な文体でリアリティーあふれる骨太の物語に仕上げた。小学校高学年以上向けの児童文学ながら、ずしりと豊かな読みごたえがある。作者自身も「現代の幸せなお母さんやお父さん、子どもたちに向かって、わたしは、この物語を書きました。(中略)おとなと子どもが一緒に読んで話し合ってほし(い)」と、あとがきに記している。

越水利江子さん(撮影:野寺夕子)

 物語は1941(昭和16)年の夏の終わり、笑生子の弟の春男が1匹の子犬を拾ってきたことから始まる。犬を飼うことをめぐって繰り広げられる家族の会話は、いま平穏に暮らす家族の会話とあまり変わらない。しかし、「ちいやん」と呼んで笑生子を可愛がってくれていた次兄の成年(なるとし)が出征した1943(昭和18)年1月ごろから、暮らしの様相は徐々に変わっていく。成年が手伝っていた天王寺動物園が閉鎖され、笑生子の仲良しだった子が建物疎開で遠くへ行ってしまい、市電の車掌だった次姉の雅子は出征した運転士に代わり運転士見習いになり、学童疎開で春男と笑生子も徳島へ。

 そして卒業を前にした笑生子が疎開先から戻った1945(昭和20)年3月13日、大阪大空襲の日がやって来た。空襲警報が鳴り響き、焼夷弾が雨のように降り注ぎ、御堂筋が火の川となった日の緊迫した描写は克明で、容赦なく続く攻撃に逃げ惑う人々の姿にハラハラさせられる。そこに描かれているのは、国家間の戦争に巻き込まれた“銃後”の人々の姿だ。脳裏に浮かぶその姿に、今年の春、シリアの空爆で犠牲になった市民の姿がだぶって見えてくる……。戦争は決して過去の物語ではない。

 

 力のこもった物語の挿絵は、牧野千穂さん。やわらかく詩情あふれるタッチで作者の気持ちに寄り添い、物語の世界をやさしく包み込む。大切にしたい本が、また1冊増えた。(大田季子)




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カテゴリ: ライフ&アート

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