第29回写真の会賞を受賞! ハッと胸をつく写真に出合える太田順一写真集「遺された家-家族の記憶-」

「物を持たないで暮らすミニマムな暮らし方が注目されていますが、暮らしは本来、雑多なもの。そこに個性が出るものだと思うんです」と太田順一さん

 「親の家の片付け、どうする?」。そんな問いかけがハウツー本の題名となり、雑誌の特集に組まれる時代だ。奈良市在住のカメラマン太田順一さん(66)は、2010年から主が不在となった空き家の撮影を続けてきた。そのうちの14軒を昨年末、1冊の写真集に編んだ。

 

 きっかけは、知人女性が月に一度郷里の母を見舞う際、他界した祖父母の家を掃除しているという話を聞いたことだった。

 その家は母の生家。知人女性も子ども時代から親しんできた場所だ。掃除に訪れると、部屋の中に植物の蔓が侵入していたり、台所にサワガニの死骸があったりすると太田さんに話した。主がいなくなった家に、小さな生き物たちが活動している。「主はいないけれども、建物は死んではいない。その家を撮りたい」。

 希望がかなえられ、2カ月に一度、四季の移ろいの中でその家の様子を撮影するうちに、もっと他の空き家も撮りたいと思うようになった。

 

 「つてをたどって、もぬけの殻にはなっていない空き家を紹介してもらったのですが、『古民家を撮りたがっている』『廃屋を撮りたがっている』と誤解されて、なかなか思うような家に出合えませんでした。けれども、いったん撮影に出向くと、実はあそこも空き家だ、ここも空き家だと聞かされて。思った以上に空き家が増えている実態を知りました」

 

 これまでにハンセン病療養所や神戸市長田区の菅原商店街などで、人々の暮らしを物語る写真を多く撮影してきた太田さんは、身の回りのものが十人十色の暮らしぶりを伝えることを肌で感じてきた。「遺された家」でも、温かなまなざしで、空き家に暮らしていた人たちの痕跡を見事に切り取っている。

 

 丁寧に掃き清められた畳の部屋の壁にかかる穂先がちびた掃き箒、黒光りする土間に渡された洗濯ロープ、壁に貼られた昭和のアイドルや映画スターの写真、引き出しの中の細々とした道具類、仕分けした衣類に挟まれたメモ書き……。すべてがその家で丁寧な暮らしを営んできた主たちの面影を宿している。

  「撮影に入ると、その家の仏壇にまず手を合わせ『撮らせてもらいます』と挨拶しました。僕は無信心なのですが、その家を見守っている存在があるような気がして」

 

 撮影した14軒のうち、すでに4軒が撮影時の状況をとどめていない。写真撮影に協力した家族たちは「撮っておいてもらってよかった」と口をそろえるそうだ。

 

 阪神淡路大震災や東日本大震災を経験し、かけがえのない暮らしが一瞬のうちに崩れ去っていく可能性を秘めたものであることを、私たちは暗黙のうちに知ってしまった。失われてしまえば記憶の中にしか残らない、いとおしい暮らしの細部を写真にとどめ、記録に残した稀有な写真集だ。

 

 写真集『遺された家-家族の記憶-』(著者:太田順一、AB判・並製、144ページ、発行所:海風社)、税込み定価3,240円(本体価格3,000円)

【続報】2017年4月、この写真集は第29回写真の会賞を受賞しました。詳しくはコチラ http://shashin-no-kai.com/index.html




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