「過労でウツ、両親のダブル介護、パーキンソン病に罹った私」が笑っている理由とは? 中日新聞記者・三浦耕喜さんの著書『わけあり記者』

 色っぽい話に限らず、縁は異なもの、味なもの。人と人のつながりから、思いがけない出会いが生まれることがあります。

「僕の荷物を、ちょっと軽くしてもらってもいいですか?」

 そんな言葉をさりげなく添えて、7月1日土曜日の午後に私のもとにやってきた本が、中日新聞記者・三浦耕喜さんの『わけあり記者』(高文研)でした。

書名の題字は三浦耕喜さん本人が書いた。四六判208ページ 定価1,620円(税込み)

 「知り合いの新聞記者が書いた本なんですが」と手渡してくれた人は、映画監督の溝渕雅幸さん。アサヒファミリーニュース社がこの春、初めて企画・編集した本『診療所の窓辺から』~いのちを抱きしめる、四万十川のほとりにて~(ナカニシヤ出版)の著者である小笠原望医師と四万十の風景をテーマとするドキュメンタリー映画を製作中の映画監督さんです。

★溝渕監督が製作中の映画について詳しくはコチラ https://www.inochi-shimanto.com/

 渡された場所は、カトリック大阪梅田教会で開かれた柏木哲夫さんの最新刊『恵みの軌跡――精神科医・ホスピス医としての歩みを振り返って』の出版記念講演会の会場。淀川キリスト教病院理事長でホスピス財団理事長、日本におけるターミナルケアの第一人者の柏木さんに、小笠原先生の『診療所の窓辺から』の帯の言葉を書いていただけたのは、溝渕監督に柏木先生をご紹介いただけたからでした。

 

 その溝渕監督が柏木先生の講演会に出かけておられ、偶然にも私の前の席に座っていらした……。偶然も重なると必然になるとか申します。三つぐらいの偶然をクリアして私の手元にやってきた『わけあり記者』の副題は「過労でウツ、両親のダブル介護、パーキンソン病に罹った私」とあります。三重苦ではないですか! この人、えらい目に遭ってはるわ~とページをめくり始めると、プロローグの「わけあり記者」宣言から、ぐいぐい引き込まれました。

 

 『わけあり記者』執筆の契機になったのは、2017年1月8日付中日新聞「ニュースを問う」コーナーに三浦耕喜さんが書いた記事「社会全体で長時間労働撲滅を 『わけあり人材』を生かせ」でした。電通社員の過労自殺をきっかけに、長時間労働が社会問題化する中で、三浦さんは自身の体験を踏まえて、日本社会に「わけあり人材」が活躍できる仕組みづくりが必要だと説きました。

 

 三浦さんは1970年岐阜県生まれ。京都大学経済学部を卒業し、92年に中日新聞社(関東地方では東京新聞を発行)に入社し、支局勤務を経て96年から政治部へ。2006~09年までベルリン特派員を経て政治部に帰任。特派員時代の取材をもとに、ドイツでも航空機による特攻が行われていたことを明らかにした『ヒトラーの特攻隊』(作品社)、自衛隊にもドイツの軍事オンブズマンのような仕組みが必要だと説く『兵士を守る』(同)を上梓……。第一線でバリバリ活躍してきた、絵に描いたような新聞記者が12年、過労でウツとなり、5カ月間仕事を休みました。

 復帰後、勤務時間制限がある中で政治部から生活部へ異動。そうこうするうちに、老老介護を担っていた母が認知症になっていることが判明し、遠距離介護に突入。両親の介護を理由に転属を申し出て、14年に岐阜支社デスク、15年に名古屋本社生活部に異動して1年後、脳神経系の疾患で、徐々に体の自由が利かなくなる難病、パーキンソン病の診断が確定……。ホンマにえらい人生です。

 

 にもかかわらず彼は、「私はいま笑っている」と書いています。その言葉に出会って、柏木先生の講演会で、先生が披露されたドイツのユーモアの定義を思い出しました。

 

 「ドイツのユーモアの定義には2種類あります。一つは、『にもかかわらず』笑うこと。もう一つは『ユーモアは、愛と思いやりの現実的な表現である』という言葉です」

 

 子育て中で残業できない人、介護離職せざるを得ない状況にある人、自分や家族の病気……。人生には、いろんな「わけ」が待ち構えており、誰も無縁でいることはできません。「つらい思いをしている人を、少しだけ元気にすることができたら」。そんな思いで書かれたこの本は、いろんな立場にある人の人生の重荷を、ちょっとだけ軽くしてくれる本なのかもしれません。(季)




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