山から山へ旅を続ける人たちが見ていたものを感じてほしい~「山歌(サンカ)」5/13(金)関西で公開

「山歌(サンカ)」監督・脚本・プロデューサー 笹谷遼平さん =3月18日、大阪市内で

初の長編劇映画「山歌(サンカ)」が今年3月、第17回大阪アジアン映画祭でJAPAN CUTS Award を受賞した笹谷遼平監督は1986年生まれ。京都府向日市で育った。現在は神奈川県川崎市に住んでいるが、3月の大阪アジアン映画祭で来阪した機会にインタビューした。

関西での上映は5月13日(金)からシネ・リーブル梅田、20日(金)からアップリンク京都で公開される。

――ようやく公開が決まりましたね。

はい。「山歌(サンカ)」は、大賞受賞作が映画化できる「第18回伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞」を2018年に受賞した「黄金」(旧題)を映画化したもので、2019年7月に撮影しました。その後、コロナ禍になって全く動けず。受賞を機にようやく人様の目に触れることができてうれしい半面、もう編集することができないのかと寂しい思いも感じました。

前作のドキュメンタリー映画「馬ありて」を見てくれた人が、大阪での初上映を見てくださってTwitterに「期待以上だった。死ぬことも生きることも地続きだということが腑に落ちて、気持ちよくなれた」と投稿されていて、とてもうれしく思いました。

――最初と最後の山に響く足音のシーンが呼応していますね。

実際には耳に聞こえない足音が宇宙まで響いていたように描きました。そこには、日本人の自然に対する思いを反映しています。

自然という言葉は、明治以降 nature の訳語として知られていますが、それ以前は「じねん」と読み、人間以外のもの、人がコントロールできないものを表す言葉でした。そしてそれらは全部つながっている。

――キャスティングは、どのようにされたのですか?

存在感あふれる山窩の家族の父・省三は渋川清彦が演じた

山窩(サンカ)のおじさんは大好きな渋川清彦さんに演じてほしいと決めていました。アソシエイトプロデューサーの松岡周作さんを通じて依頼して、引き受けてもらえました。

東京からやって来る中学生・則夫役の杉田雷麟(らいる)くんと山窩の娘ハナ役の小向なるさんは2019年4月に実施したオーディションで選びました。

杉田くんがオーディション会場に入ってきた時、彼だけが違って見えた。変な例えですが、影が2mぐらい伸びているような。最初のシナリオでは、もっと素朴な少年という設定だった則夫を、彼が演じるにあたって陰影のある役に書き変えました。

小向さんは目に惹かれました。目の強さが山窩の娘のすべてと言っていい。その目の強さがある上に可憐さ、身体能力も要求される。ロケでは一番過酷だったと思いますが、シナリオを読んで「気に入った」と言ってくれ、トレイルランのトレーニングを積んで、現場では200%の力を発揮してくれたと思います。

則夫の祖母役の内田春菊さんは以前からの知人、ハナの祖母役の蘭妖子さんは知り合いのつてで、天井桟敷の舞台を見てオファーしました。

 

本作が初主演作となった杉田雷麟

ロケは2019年7月20日から2週間、群馬県の四万温泉近くで行いました。その年は梅雨明けが遅く、全然晴れてくれない。晴れ間を狙って撮影するのですが、ヒルが多い現場で出番待ちの間もヒル除けの傘をさして、役者さんたちは全くリラックスできなかったと思います。渋川さんは「これまでで一番きつい現場だった」と言われました。

川べりの山窩の生活拠点・瀬降りでの撮影は、前日に用意したセットが大雨で流され、撮影当日にその辺りにある木の枝などを使って大急ぎで作りました。その意味で、実際の山窩の人たちが作っていたものと同じ作り方になったと思います。

 

――ロケ地は群馬県だったのですね? 映像を見た時は東北なのかなと思いましたが。

そうですか。私は北日本の文化に影響を受けているので、そう思っていただけると嬉しいです。実際に山窩の人たちが多かったのは西日本で、それは暖かい所でないと暮らせないから。

「遠野物語」(柳田国男)にも多くの山人が出てきますが、木地師、遊行僧、マタギなど、山を移動しながら生きる人たちはかつて日本にはたくさんおり、特別なことではなかった。それを特別なことにしたのは現代人だと思います。所有が利益を生むという資本主義的な考え方が背景にあると思います。

――物語の時代は1965年ですね。1986年生まれの監督が、なぜその時代を選んだのですか?

【ものがたり】日本が高度成長へひた走る1965年。受験勉強のため東京から山奥の祖母(内田春菊)の家にやって来た中学生・則夫(杉田雷麟)は、山から山へ旅を続けながら生きる山窩(サンカ)の家族と出会う。川のほとりで山の恵みを糧に生きる父・省三(渋川清彦)、娘ハナ(小向なる)、祖母タエ(蘭妖子)の姿に則夫は……。

ある人から1965年を境に日本人はキツネにだまされなくなったと聞きました。私の祖母は昔、「妹がキツネにだまされて3日間家に帰ってこなかった」と話していました。昔の日本には人がコントロールできない何かがあり、人はそれに翻弄されて当たり前という感性があったと思います。

私の父は1949年生まれで、今気づきましたが則夫とほぼ同い年。

父が過ごした昭和の上り調子の時代をうらやましく思ってきました。私の育った時代は面白いとは思えなかったけれど、2011年の東日本大震災を機に少し考え方が変わりました。

父の時代の熱気、高度経済成長をうらやましいと思ってきたけれど、本当にそれでよかったのかと。

彼らが信じて頑張ってきたものは、本当に正しかったのかと疑問を抱くようになりました。

1965年を舞台に選んだのは、自分の中で実感がわく、自分がつかめるギリギリの時代だからかなと思います。

――小道具に素晴らしいものを使われていますね。

私は民藝、柳宗悦に影響を受けています。生活の中で自然のものを使って作られたものがいかに美しいか。1965年で山窩をモチーフにするなら、美しくないものは極力出したくないと思いました。

渋川さん演じる省三の衣装は山間部に自生する藤ヅルを糸にして織った「藤布の衣」。戦前に仕立てられた野良着を借りました。小向さん演じるハナが首に掛けたり髪を結ったりしている赤い布は「紅花板締め裂(きれ)」です。

――監督の今の活動は、哲学を学んだことと関係がありますか?

ささたに・りょうへい●「六字映画機構」主宰。同志社大学文学部哲学科在学中の2007年に秘宝館のドキュメンタリー映画「昭和聖地巡礼~秘宝間の胎内~」を監督。09年、道祖面(道祖神のお面の民芸品)のドキュメンタリー映画「ファニーフェイスの哭き歌」を監督。蝋人形職人のドキュメンタリー映画「蝋塊独歩」(10年)は宝塚映画祭入選。バイブレーション(性玩具)のドキュメンタリー映画「すいっちん-バイブ新世紀-」(11年)はパリの日仏会館で上映され、クィア映画祭に招待上映。15年に劇映画のシナリオ執筆を開始。短編劇映画「カミカゼという名の塹壕」(17年)はオーストラリアの映画祭My Rode ReelでBest Japanese賞を受賞。北日本の馬文化に密着したドキュメンタリー映画「馬ありて」(19年)は、ワシントン・ナショナル・ギャラリー「THE LIFE OF ANIMALS IN JAPANESE ART」展で特別招待上映され、同年11月に劇場公開。制作する映画はすべて「自然の中で人間がいかに生きるか」がテーマになっている

つながってはいますが、私は西洋哲学は理解できませんでした。今思うと、実感が全くないんです。エロティシズムなどを学びましたが、実感のない中で、2つ以上の概念を重ねることが難しかった。

前作の「馬ありて」を制作している時、古くから日本に流れているものに、実感と共に触れる機会がありました。 伐採された木を馬で運ぶおじいさんを取材した時、高齢の彼が体で馬とつながって会話している、その力強さ、身体能力に圧倒されました。現代人の自分には程遠いものでしたが、昔の人が当たり前に持っていた身体能力、感覚につながっていきたいと思いました。

「山歌」のシナリオもそういった気持ちで書きました。山窩の人たちが見てきたものに何とか近づけないかなと。今でもわからないですし、本当に山窩の人たちがこの映画を見たら違うと言われるかもしれないけれど。

――監督の言う「実感がある」は「肌でわかる」みたいなことですか?

そうです。「自然の中で人間が生きる」って言葉でいうとわからない。だけど、どこかの山に入った瞬間に、こういうことかな、と。何となくわかる。腑に落ちる。

――監督の主宰する「六字映画機構」の六字は月森俊文さん(日本民藝館職員)が「大いなるものに帰依すること」と書いておられますが、「南無阿弥陀仏」のことですよね?

はい、そうです。意味は「大いなるものに帰依すること」で、その通りなのですが、それで映画機構なんて、本当はあまりにもおこがましい。言葉では知っているけれど、自分はまだまだ。けれども一応、意思表示として使わせてもらっています。

――ベクトルはそちらに向いていると。

はい。何かを撮るたびに「これは六字なのか?」。何かを編集するたびに「これは六字映画機構の映画としてちゃんと成立しているか?」。自戒を込めて。

――いつも立ち返る場所なのですね?

そうです。道を逸れるのはすごく簡単なので、弱い自分だからこそ、常に戒めをもっていなければいけないなと。

――ありがとうございました。

「山歌(サンカ)」公式ホームページはコチラ

ⓒ六字映画機構

 

 




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