花の都パリにちなんだエスプリに富んだ選曲を堪能~兵庫芸術文化センター管弦楽団第114回定期演奏会~

【PACファンレポート㉚第114回定期演奏会】

 4月20日土曜、阪急電車の車窓から晴れわたる青空を眺めながら向かった兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の第114回定期演奏会の指揮は、フランス国立ロワール管の音楽監督を務めるパスカル・ロフェ。PACの定期演奏会は2017年8月の第98回以来2度目の登場だ(ラヴェルゆかりの曲を演奏した前回の記事はコチラ)。

 

 長身で手足の長いマエストロが選んだ今回のプログラムには、パリにゆかりの4人の作曲家の作品で、パリで初演された曲が並ぶ。プログラムを読んで4日前にノートルダム寺院の尖塔が失火で崩落したニュースが頭をかすめたのは私だけだっただろうか……。

 

 冒頭はイーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)のバレエ音楽「プルチネッラ」組曲。題名のプルチネッラはイタリアの道化師のことで、町の娘たちを虜にする彼をめぐる恋愛ドタバタ喜劇という。1920年オペラ座でバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)が初演したオリジナルは、ソプラノとテノールのソロも入って18曲あったそうだ。8曲からなる組曲版は、24年にストラヴィンスキー自身が作り、47年に改訂したそうで、この日の演奏もこの改訂版だった。

 細かく急ぐ弦、晴れやかに響く金管、ユーモラスな木管のおしゃべり、男同士で豪放に笑い合っているかのようなトロンボーンとコントラバスの掛け合い……。いきいきとした軽快な描写、躍動感に富むメロディーは、舞台で踊るダンサーたちの優美な姿を想起させて、うっとりと楽しかった。

 

 ソリストは1979年にパリ国立高等音楽院を一等賞で卒業してから、世界各地で高い評価を得ているフルート奏者の工藤重典が定期初登場。ジャック・イベール(1890-1962)がフランスの著名なフルート奏者マルセル・モイーズに献呈し、1934年にモイーズがフィリップ・ゴーベール指揮のパリ音楽院管弦楽団と初演した「フルート協奏曲」を、とてもスマートに気持ちよく演奏した。独奏シーンでは今更ながら、フルートは“笛”なんだなあと感じ入った。笛は少し影のある貴公子が似合う楽器だ。明るい音色の中に、ほのかな寂しさが同居している。

 唐突だが、「源氏物語」宇治十帖の主人公・薫は、光源氏と女三宮の子とされているが、実は笛の名手だった柏木と女三宮の間に生まれた子だ。柏木は密通の事実が源氏に知られるのではないかと恐れるあまり、心身を病み早世してしまう。亡くなる前に乳きょうだいの弁の尼に「いずれ息子に渡してほしい」と託したのが、彼の愛した笛だった……。

 ソリストのアンコール曲は、本日の最後の演奏曲にちなんで、ドビュッシー「シリンクス」。半音を駆使した曲調と緩急の飛躍が、いかにもドビュッシー。月明かりの下で聴いてみたい小粋な曲だった。

 

画家で神戸芸術工科大学教授の寺門孝之さんが使用中のパレットをモチーフにした2019年4月のパンフレットの表紙絵は華やかな赤が印象的

 休憩の後、オーケストラは大編成に。ポール・デュカス(1865-1935)の代表作、交響詩「魔法使いの弟子」だ。初演は1898年という。聞いていると、ディズニー製作のアニメーション映画「ファンタジア」(1940年、アメリカ)の愉快なシーンがよみがえってきた。

 

 そして最後は、クロード・ドビュッシー(1862-1918)の交響詩「海」。初演は1905年だったそうだが、当時のパリの人たちは一体どんな風に受け止めたのだろうか? 私が初めて聴いた若い時は、ハープの音色に魅了されるとともに、なんて不思議な予測がつかないメロディーが途切れなく続いていくんだろうと驚いた記憶があるが、この曲は聴くたびに新鮮に感じさせる不思議な魅力があると思う。

 大太鼓、グロッケンシュピールなど様々なパーカッションを含めた多彩な楽器を駆使して描かれる海の多彩な表情を、PACは懸命に表現した。永遠にたゆたい、揺れる波ときらめく陽光、大海原を吹き渡る風……。フランス印象派音楽の傑作といわれる理由は、汲めども尽きぬ海の水のような魅力にあるのに違いない。

 

 PACのアンコール曲は、マスネの歌劇「バザンのドン・セザール」第3幕から「セビリャーナ」。パスカル・ロフェは「スペインの色男(?)の話なんだけど、作曲したのはフランス人なのさ」というようなことを、英語とフランス語で笑いながら前置きして演奏に入った。今回のソリストの工藤重典に、きっと多くのことを学んだだろうPACコアメンバーのフルート奏者、大久保祐奈と知久翔が大活躍した曲だった。

 

 コンサートマスターは四方恭子。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの白井篤(NHK交響楽団第2ヴァイオリン・フォアシュピーラー)、ヴィオラのユルゲン・ヴェーバー(元バイエルン放送交響楽団首席)、チェロの北口大輔(日本センチュリー交響楽団首席)、コントラバスの黒川冬貴(京都市交響楽団首席)、オーボエの橋詰恵梨香(東京フィルハーモニー交響楽団契約首席[2018年10月-19年3月]、トランペットの高橋敦(東京都交響楽団首席)、ティンパニの近藤高顯彦(元新日本フィルハーモニー交響楽団首席)。スペシャル・プレイヤーは、ホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、トロンボーンの倉田寛(愛知県立芸術大学教授)、パーカッションの坂上弘志(元大阪フィルハーモニー交響楽団奏者)。PACのOB・OGは、ヴァイオリンで7人、ヴィオラで2人、チェロとクラリネットで各1人が参加した。(大田季子)




※上記の情報は掲載時点のものです。料金・電話番号などは変更になっている場合もあります。ご了承願います。
カテゴリ: PACファンレポート