ドラマチックで劇的なチャイコフスキーを堪能~兵庫芸術文化センター管弦楽団第121回定期演奏会~

【PACファンレポート㊴第121回定期演奏会】

 2週間前にベートーヴェン生誕250年の演奏会を聴いたばかりだったが、2月15日土曜は、兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の第121回定期演奏会。西宮北口の駅から通い慣れた連絡通路、時節柄、マスク姿の人が多い気がする。

 この日はオール・チャイコフスキー・プログラム。指揮はPACの定期演奏会では6度目の共演となるブルガリア出身のロッセン・ミラノフ。アメリカのコロンバス交響楽団、シャトークア交響楽団、プリンストン交響楽団と、スペインのアストゥーリアス交響楽団の音楽監督を務め、今シーズンからスロベニア放送響の首席指揮者にも就任したという。

寺門孝之さん(画家・神戸芸術工科大学教授)が描く2020年2月のプログラムの表紙。小さな横穴に飛び込んだペット妖精ミミの後を追いかけたい妖精Pacですが、穴が小さすぎて……

 最初の曲は有名な「ピアノ協奏曲第1番」。ソリストはヨーロッパ育ち、パリ在住の日本人ピアニスト児玉桃。1991年ミュンヘン国際コンクールで最年少最高位に輝いてからキャリアをスタートさせ、ヨーロッパを中心に世界で活躍しているという。

 管楽器が大音量で奏でる冒頭のダイナミックで華やかなフレーズは、クラシックファンでなくてもおなじみ。これから始まるピアノとオーケストラの激しい“対決”を荒々しく告げる。低音域から高音域まで、鍵盤の上を縦横無尽に駆け巡るピアニストの両手を見ていると、だんだん魔法にかけられていくような気分になる。右手と左手が異なるリズムを織り交ぜながら紡ぎ出していく複雑な音のタペストリー。求められる技量とパワーが圧倒的にすごすぎて、素人目にもこの曲を演奏する難しさがわかる。

 情熱的な曲想に合わせて緋色のローブ・デコルテで現れた華奢なソリストは、約35分に及ぶ演奏を見事に果たし、何度も舞台に呼び戻された。そして奏でたアンコール曲は、ドビュッシー「亜麻色の髪の乙女」。湧き出る泉のような清らかな音が、熱狂した聴衆の心に静かにしみ込んでいった。

 

 オーケストラの曲は「マンフレッド交響曲」。友人の作曲家から、イギリスの詩人バイロンの叙事詩劇「マンフレッド」(1817年発表、1824年初演)を音楽にしてみないかと持ち掛けられたチャイコフスキーが1885年に作曲、翌86年に初演された曲という。

 物語はアルプス山中のユングフラウの城郭を舞台に、人間でありながら神のような万能感を手に入れたマンフレッドと魔女や精霊たちとの対話を描くもの。マンフレッドは自身の裏切りによって愛する恋人を自殺させてしまった苦い過去を持つ男だ。

 アルプスをさまよい、苦悩するマンフレッドを描写する第1楽章。多彩なオーケストラの音色でアルプスの山の霊を幻想的に表現する第2楽章。のどかな山村で束の間の休息を味わう主人公を牧歌的に描く第3楽章。ティンパニ、大太鼓、シンバル、タムタム、タンブリン、トライアングル、鐘と、パーカッションを駆使した第4楽章は、アルプスの邪神の地下宮殿で繰り広げられた魔の饗宴で恋人の霊と再会したマンフレッドの結末までを暗示する……。

 随所にチャイコフスキーらしい悲哀をにじませながら、きわめて演劇的な骨格で迫ってくる音楽は壮大かつ濃密。前のめりになって聴いた後の満足感は、心地よい疲労を伴った。

 その疲れを癒すかのように奏でられたアンコール曲は、あの名曲! バレエ「白鳥の湖」より第2幕第10番の情景。PACコアメンバー、オーボエの上品綾香が魅了した。

 

 コンサートマスターは豊嶋泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの田尻順(東京交響楽団アシスタント・コンサートマスター)、ヴィオラの柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ)、PACのOBでもあるチェロの西谷牧人(元東京交響楽団首席)、コントラバスの山本修(東京都交響楽団首席)。スペシャル・プレイヤーはパーカッションの安藤芳広(東京都交響楽団ティンパニ&打楽器首席)。チェロの西谷のほか、PACのOB・OGはヴァイオリン8人、ヴィオラ2人、コントラバス1人が参加した。(大田季子)




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