佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ 兵庫県立芸術文化センターが魅せた「夏の夜の夢」

【PACファンレポート③ 佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ】

 今夏の佐渡裕芸術監督プロデュースオペラを千秋楽前日の7月30日に見た。阪急西宮北口駅の改札前には「完売御礼」のポスターが貼られ、根強い人気ぶりを物語る。

 演目は、20世紀を代表する英国人作曲家ベンジャミン・ブリテンの「夏の夜の夢」。

 

 公演プログラムの作品解説には、関西で初披露された1984年6月23日の二期会関西支部の公演の副指揮者に佐渡監督の名前があると記されていた。「ブリテンの天才を証明したい」と挑んだ佐渡芸術監督にとって思い出深い作品だったはずだ。夏の夜の不思議な物語世界を、舞台に見事に出現させた佐渡芸術監督は、オペラを“高尚”な芸術ではなく誰もが“親しみやすい”芸術とするミッションを、また一つ成功させた。

 狂言回しとなる妖精パックを演じた俳優・塩谷南は、切れのいい動きとよく通る声で物語をリード。森に棲む妖精たちを演じた日本人歌手は日本語で、人間たちの世界は、ロンドンのオーディションで150人の中から選ばれた個性豊かな英国人歌手たち10人を中心に英語で表現。二つの異なる世界が織り成す一夜の物語が、自然に了解される心憎い演出だった。

第1幕。森でいさかいを始めるティターニア(森谷真理)とオーベロン(彌勒忠史)。小2から中3までの選抜メンバーで特別編成された「ひょうごプロデュースオペラ児童合唱団」の歌声と演技も素晴らしかった(撮影:飯島隆)
第1幕。森でいさかいを始めるティターニア(森谷真理)とオーベロン(彌勒忠史)。小2から中3までの選抜メンバーで特別編成された「ひょうごプロデュースオペラ児童合唱団」の歌声と演技も素晴らしかった(撮影:飯島隆)
第2幕。パックのいたずらでロバの頭を被せられたボトム(アラン・ユーイング)にティターニアは恋をする(撮影:飯島隆)
第2幕。パックのいたずらでロバの頭を被せられたボトム(アラン・ユーイング)にティターニアは恋をする(撮影:飯島隆)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1幕終盤。森の中の工房のシーン(撮影:飯島隆)
第1幕終盤。森の中の工房のシーン
(撮影:飯島隆)

 回り舞台を活用した舞台は、セピア色の森の背景が幻想的なイメージを広げ、起伏の多い森の地面には倒木も横たわる。妖精たちの女王ティターニアが眠る白いベッドは夢見るように美しく、領主の婚礼の祝いのために寸劇を企画するアテネの職人たちの工房は写実的にリアルに描かれた。第3幕の劇中劇の場面の劇場は、シェイクスピアの時代の劇場もこのようなものだったのかもと思わせた。

 歌手たちの熱演はそれぞれに素晴らしく、妖精たちの王オーベロン(彌勒忠史)は、のびやかなカウンターテナーの美声を響かせ、ソプラノのティターニア(森谷真理)は妖艶な魅力を全開させた。今年2月の製作発表会に駆けつけて歌声を披露してくれたダブルキャストのオーベロン役(藤木大地)の舞台が見られなかったことは心残りだった。

第3幕。劇中劇のシーン(撮影:飯島隆)
第3幕。劇中劇のシーン
(撮影:飯島隆)

 公演前、シェイクスピアの顔を大きく描いた緞帳の前に登場した佐渡監督から「本公演2日目に舞台上でアクシデントがあり、ハーミア役のクレア・プレスランドさんが、ひどい捻挫をしてしまいました。骨にひびが入る重傷で、公演中止も考えたのですが、本人の強い希望で、演出の一部を変えて上演します」。彼女は時折足を引きずりながらも、キャスト同士が支え合って見応えのある舞台をつくり上げた。

 

 【ミニ情報】

8月11日(木・祝)14:00開演、不思議の国のアリスのクラシックコンサート「アリスの作曲☆大作戦」に、本公演のオーベロン役、彌勒忠史さんがアリスの家のお手伝いロボットとして声の出演をする。ソプラノ歌手(鵜木絵里)が扮するアリスの冒険とともにおくる子どもも大人も楽しめるコンサートだ。会場はKOBELCO大ホール。

予約・問い合わせは、芸術文化センターチケットオフィスTEL0798・68・0255。

http://www.gcenter-hyogo.jp/




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