音楽の多彩な楽しさを堪能させたカーチュン・ウォンと小曽根真~兵庫芸術文化センター管弦楽団 第145回定期演奏会~

【PACファンレポート67 兵庫芸術文化センター管弦楽団 第145回定期演奏会】10月28日の兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)第145回定期演奏会は、ムーディーでおしゃれな曲から、パワフルな音の絵巻まで、音楽の楽しさを堪能できる豪華な演奏会だった。

指揮は2019年11月の第119回定期演奏会で初登場して以来、共演を重ねているシンガポール出身の気鋭の指揮者、カーチュン・ウォン。ウォンは、今秋から日本フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者とドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者に就任。来シーズンからは英国マンチェスターに本拠を置くハレ管弦楽団の首席指揮者兼アーティスティック・アドバイザーへの就任も決まっている。PACメンバーにとって彼は、背中を追いかけたくなるような “良き兄貴”的な存在なのではないかと、私は勝手に想像している。

 

最初の曲はドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906-1975)が作曲したピアノ協奏曲第1番。ソリストにジャズピアニストとして第一線で活躍する、神戸ゆかりの小曽根真が登場。ピアノ協奏曲といいながら、自由奔放に疾駆し、跳ね回るピアノを、独奏トランペットが追い越し、追いかける、エネルギーにあふれた曲だ。

プログラムのインタビューで、小曽根は、9月の東京でこの曲を共演した井上道義から「ショスタコの1番は小曽根さんのためにある曲と言われた」と明かしているが、作曲家が26歳という若さで、これほど多彩な音の連なりの微妙なバランスを緻密に構築し、不協和音の美しさを追求した曲を作ったという事実に驚愕するしかない。

独奏トランペットは、PACのOBでもあるイタリア出身のオッタビアーノ・クリストーフォリ(日本フィルハーモニー交響楽団ソロ・トランペット奏者)。スタイリッシュな演奏姿で小曽根と見事にコラボレートし、この曲の魅力を余すところなく聴衆に伝えた。

興奮冷めやらぬ聴衆に何度も呼び戻された小曽根とクリストーフォリが、オーケストラと演奏したアンコール曲は、小曽根自身が作曲した「Mo’s Nap(モーツァルトの昼寝)」。激しかった演奏が一転、美しい調べでいつまでも余韻に浸っていたくなるジャジーな曲だった。

第152回定期演奏会(2024年8月)で演奏するシェーンベルクの交響詩「ペレアスとメリザンド」をテーマに、寺門孝之さんが絵本のように描き進める趣向の今シーズンのプログラムの表紙。10月は森の奥の泉の傍で泣いていたメリザンドに、アルモンド国の王子ゴローが声をかけるシーン

オーケストラの曲はグスタフ・マーラー(1860-1911)の交響曲第5番。指揮のウォンは2016年のグスタフ・マーラー国際指揮者コンクールで優勝して、世界に名を知られただけに、マーラーの演奏には大いに期待が高まる。

コントラバス8台が舞台奥の壇上にずらりと並び、総勢95人の大編成のオーケストラが、豊かな曲想で繰り広げられる起伏に富んだ全5楽章をのびやかに奏でる。ホールに響き渡る音に身を任せる陶酔感。河原史弥のトランペットが、ルーク・ベイカーのホルンが、トロンボーンのパブロ・ティティアイエフが、存在感のある演奏を聴かせた。

コンサートマスターは田野倉雅秋。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンのイ・ジヘ(バイエルン放送交響楽団第2ヴァイオリン第一首席)、ヴィオラの柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ)、コントラバスのサイモン・ポレジャエフ(大阪フィルハーモニー交響楽団首席)。スペシャル・プレイヤーはフルートのフィリップ・ブクリー(元バイエルン放送交響楽団首席)、クラリネットのロバート・ボルショス(名古屋フィルハーモニー交響楽団首席)、バスーンの河村幹子(新日本フィルハーモニー交響楽団首席)、ホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、独奏も披露したトランペットのクリストーフォリ、パーカッションの岡田全弘(読売日本交響楽団首席)。

PACのOB・OGはゲスト・トップ・プレイヤーのコントラバス、スペシャル・プレイヤーのクラリネット、トランペットのほかに、ヴァイオリン5人、ヴィオラとチェロ、ホルン、パーカッションが各1人参加した。(大田季子)

 

【PACのクラウドファンディングの報告】「世界へ羽ばたく音楽家たちにご支援を」と銘打って10/31まで行われた兵庫芸術文化センター管弦楽団のクラウドファンディングは、第一目標金額の500万円を超え、最終日にNEXT GOALに設定した1,000万円も超えた。佐渡裕芸術監督は「ご支援いただいた皆様には心から御礼を申し上げます」とコメントしている。

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https://readyfor.jp/projects/hpac2023

 




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