「治す」のではなく「認める」――「こどもの吃音症状を悪化させないためにできること―具体的な支援の実践例と解説」出版

ある日、子どもが「あ、あ、あ、あ、あのね」と吃音を伴う話し方をしていると気づいた時、多くの親や周囲の人たちは「あわてないで、ゆっくり話してごらん」などと言ってしまうのではないだろうか。(実はそれは間違った情報に基づく対処の仕方なのだけれど)

初版発行は2022年4月25日。日本吃音・流暢性障害学会理事長の長澤泰子さんが帯に書いた推薦文が本体カバーにも表示されている。定価2,000円(税別)

新学期が始まって1カ月あまり。子どもの吃音に悩む保護者や先生たちに読んでもらいたい本が今春、出版された。「こどもの吃音症状を悪化させないためにできること―具体的な支援の実践例と解説」(海風社)だ。

言語聴覚士として約30年にわたって臨床現場で吃音のある子ども(中には成人した人も)や親を支援してきた堅田利明さん(関西外国語大学短期大学部准教授)が「大切な内容をまとめ上げることができた。たくさんの人たちに読んでほしい」と話す、A5判290ページの力作だ。

「はじめに」で堅田さんは問いかける。

吃音のある子を見守る親や先生が「大丈夫」「何も問題はなさそうだ」と感じている、そのこと自体、「本当に大丈夫でしょうか?」と。子どもの心の動きや葛藤が、将来に及ぼす影響を見据えたうえでのことですか? と。

3部構成で、最初は堅田さんによる解説編。「吃音をどのようにとらえて、これから何をしていくとよいのでしょうか」「吃音のある子どもに保護者ができること」「吃音のある子どもと保護者への専門家による支援と協働」の3つの方向からまとめている。

保育所や幼稚園、学校など、子どもの吃音について相談した先から「あまり気にしないで、しばらく様子を見ましょう」と言われた時、そのままにすると悪化してしまうことがあると警鐘を鳴らす。

 

続く実践編は、吃音のある5組の親子や学校現場などで支援を続けてきた先生や専門家たちの手記を集めたもの。

吃音とひとくくりに言っても、様々な現われ方があるし、当事者である子どもやその家族の感じ方や考え方も違う。支援を続ける中で、先生や専門家自身が目を見開かれていった過程も記されている。

最後の資料編は、「吃音理解授業」を行う際に、実際に使われているプリントや進行案、スライドなどを紹介。学校現場で今すぐ役立てることができそうだ。

★  ★  ★  ★  ★  ★  ★  ★

この記事の冒頭で紹介した典型的なエピソードを続けてみよう。

吃音で話す子に「あわてないで、ゆっくり話してごらん」と声を掛けるのがなぜ、間違った情報に基づく対処の仕方なのか?

言われた子どもは、あわてて話したつもりはない。自然に話したら吃音になっただけ。

(なぜ、吃音が起こるのか。世界中で研究されているが、原因はまだ特定されていない)

 

だから子どもは最初、何を言われたのかわからなくて、きょとんとしてしまう。

しかし、そんな経験が度重なると、子ども本人が「自分の話し方がヘンだと思われている」ことに気づき始め、そう思われないように、話し方に注目されないよう工夫して話し始める。

(「あ、あ、あ、あのね」のように話す連発から、「あーのね」と音を伸ばす伸発になったり、何らかの動きを伴って話そうとしたり)

 

その工夫はうまくいくこともあれば、うまくいかないこともある。

うまくいかないと、だんだん話すことがおっくうになり、

意識せず自然に出ていた吃音症状が、煩わしく、苦しいものになってしまう――。

(話そうとしても言葉が出てこない状態を難発という。

自然に話すことができなくなると、本人は心理的に傷ついて、自尊感情が低下したり、

誤解されて、対人関係がうまく結べないなどの「2次障がい」が起こりがち)

 

そんな“負のスパイラル”に陥らないために必要なのは、

「自然に話して出てくる吃音は、そのまま出して話すこと」。

そのためには、本人も家族も周囲も吃音を正しく理解することが欠かせない。

 

だからこそ、この本を手に取って読んで、吃音の理解の輪を広げていってほしい。

そうすることで、吃音のある人たちがラクに話せる社会が近づいてくる。(大田季子)

 

堅田利明さん=2018年6月撮影

【参考URL】

堅田先生のロングセラー本「『吃音』の正しい理解と啓発のために―キラキラを胸に―」出版時のインタビュー記事はコチラ

 




※上記の情報は掲載時点のものです。料金・電話番号などは変更になっている場合もあります。ご了承願います。
カテゴリ: 教育