兵庫県丹波市の悲願 女子高校野球の決勝が阪神甲子園球場で

連日、熱戦が繰り広げられている第103回全国高校野球選手権大会。阪神甲子園球場に帰ってきた2年ぶりの「熱い夏」を待ちわびていたのは、硬式野球に打ち込む女子高校球児たちも同じだ。8月22日(日)、全国高校女子硬式野球選手権大会の決勝が、史上初めて阪神甲子園球場で行われるからだ。[編集部注=8月20日現在、23日(月)開催予定に変更されています。]

全国高校女子硬式野球選手権大会は1997年に第1回大会が開かれ、今年で25回目の開催。その歴史を着実に刻んできた女子高校野球界を、黎明期から有形無形のサポートで支え続けてきたまちがある。全国高等学校女子硬式野球連盟の本部がある兵庫県丹波市だ。連盟の会長を務める坂谷高義さん(75)は「全国の女子高校球児に、甲子園で決勝を戦わせてあげたいという私たちの夢がかなった」と喜ぶ。

 

両翼105㍍、中央122㍍の堂々たるスタジアム「丹波市立スポーツピアいちじま」は、兵庫県中東部・丹波市市島町にある。硬式野球を志すすべての女子高校球児にとっての「聖地」だ。毎年春に行われる選抜大会の会場として2000年から(15年から埼玉県加須市に移転)、夏の選手権大会の会場としては04年から現在に至るまで使用されている。

近年、女子野球の人気は高まり続けている。「今年の夏の選手権大会には40チームが出場しました。第1回大会の参加が5チームであったことを思うと、隔世の感があります」と坂谷さんは振り返る。知名度も普及度も今よりはるかに低い時代から20年以上にわたり、なぜ丹波市は町をあげて女子高校硬式野球界を下支えしてきたのか。

 

■女子高校野球の「聖地」を目指した取り組み

きっかけは00年、スポーツピアいちじまの完成までさかのぼる。当時、市島町(06年に6町が合併して現・丹波市)の体育協会会長を務めていた坂谷さんは「この野球場がオープンした時に、何か魅力ある催しを開きたい」と考えていた。97年からすでに夏の女子野球全国大会が東京で開かれていることは知っており、男子と同じように女子も春、夏と全国大会を年2回開けないか。そして春は市島町の新グラウンドを舞台に開けないかを計画。夏の全国大会の創設者であり、全国高等学校女子硬式野球連盟の事務局長を務めていた四津浩平さんをはじめ関係各所にアプローチしたところ「女子野球の発展につながり、春と夏、2回の大会があれば生徒たちにも張り合いが出る」と快諾された。

町の事業として行うとなると、問題は費用だ。各チームの交通費や宿泊費、運営費などを捻出する必要がある。400~500万円と試算した金額を予算化するため、坂谷さんは当時の町長と奔走。「スポーツピアいちじまのオープニングイベントに、春の女子硬式野球選抜大会を」と訴え、総務課長や町議会の理解と協力を得た。すべての人に共通するのは「女子高校野球を、わがまち活性化の起爆剤に」「丹波を、ゆくゆくは女子高校野球の『聖地』にしたい」の思いだったという。念願かない00年4月、スポーツピアいちじまで開催された第1回の選抜大会への出場校は8校。各地から選手と応援団が駆け付け、市島町はひとときの熱気に包まれた。

 

■野球がもたらした、女子球児と住民の絆

町あげての運営と熱意、そして実績が認められ、これまで東京や埼玉で開催されていた夏の全国大会も、04年の第8回大会から市島町で行われることとなり、丹波市のスポーツピアいちじまは名実ともに女子高校球児があこがれる「聖地」となった。「丹波市の人たちは情が深い。人情のまち」と坂谷さんが話すように、小さなまちならではのコミュニティーの強さを生かし、人情の厚さで全国からの女子高校球児を毎年迎え続けている。球児たちがいかに市島町や丹波市を大切に思っているか、坂谷さんはそれを物語るエピソードを披露してくれた。14年8月、市島町を中心に丹波市が未曾有の豪雨に見舞われた「8.16丹波市豪雨災害」の時のことだ。

「家屋に打撃を受けた被災者から電話がありました。『今日、女子の野球部員が来てくれて、床下にたまった土砂を泥だらけになりながらスコップでかき出してくれた。ふだん野球で鍛えているからか、とても頼もしく見えて、本当によくやってくれた。ありがたかった』と。感極まっているようでした」。災害に苦しむ聖地を目にし、居ても立ってもいられなかった関西圏の女子高校野球部員が、ボランティアとして駆けつけてくれたのだ。野球を絆に女子高校球児と住民が結ばれていることを知り、坂谷さんは「私も胸が熱くなりました」と当時を振り返る。

 

 

■たくさんの人たちの夢 いよいよ甲子園球場で結実

女子高校球児が繰り広げる野球の魅力はなんだろう。坂谷さんは「仲間を思う優しさや相手を尊敬する思いが、グラウンドで自然と出ていること」だと言う。ワンプレーの力強さとともに、仲間を励ますベンチからの声、そしてあいさつなどの礼儀正しさを常に欠かさないことが見る人の胸を打つ。女子高校野球の聖地として、白球を追う球児を黎明期から支え続けてきた自負はあるものの「この子たちの夢である甲子園球場の舞台で、いつか思い切り戦わせてあげたい」の思いは根強かった。

地道な働きかけや関係各所の理解・協力も相まって、8月22日、第25回の女子選手権大会を勝ち抜いてきた神戸弘陵高校と高知中央高校が、阪神甲子園球場で決勝戦を戦う(※甲子園大会の日程消化状況により変更の場合あり)。

当日の閉会式で、坂谷さんは連盟の会長として「講評」を行う予定だ。「感極まって、うまく講評ができるかどうか、今から自信がありません」と笑う。生徒、保護者、そして丹波市で女子野球を盛り上げてきた関係者。たくさんの人たちの長年の夢がかなう瞬間を、しっかり見届けたい。(伊藤真弘)

※写真はすべて第23回選手権大会から




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