兵庫県下の公立中学1年生全員を招待する兵庫芸術文化センター管弦楽団「わくわくオーケストラ教室」14年目

 

【PACファンレポート番外編 わくわくオーケストラ教室】

 「多感な時期の子どもたちに生のオーケストラを聞かせたい」。佐渡裕芸術監督の熱い思いから、兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)は、兵庫県下の公立中学1年生全員をKOBELCO大ホールに招待する「わくわくオーケストラ教室」を開館の翌年(2006年度)から続けている。年間に40公演、今年で14年目となる息の長い取り組みだ。一体どんな様子なのか、10月11日金曜10時30分から行われた教室の様子を見せてもらった。

 

今年度の「わくわくオーケストラ教室」の小冊子。B5版12ページフルカラーで読みごたえもある

 10時過ぎに西宮北口駅前に着くと、県内各所からバスで到着した生徒たちが事前に配布された「わくわくオーケストラ教室」の小冊子を持って学校ごとに高松公園に並んで入場していた。小冊子にはプログラムや演奏曲や演奏者の紹介など楽しい内容が盛り込まれており、生徒たちは学校で事前学習をしている。今日は11校から1,031人の中1生と引率の先生108人が参加するという。

 

 ホール内では学校ごとに決められた座席へ。行儀よく座っている学校もあれば、ちょっとやんちゃかな?というにぎやかな学校も。開演前にはステージ奥のスクリーンで佐渡裕芸術監督が教室開催の意義や会場の兵庫県立芸術文化センターの紹介などを話すビデオが流れる。

 

 通常の演奏会のようにPACメンバーが順次登場し、拍手で迎えられる。この日コンサートマスターを務めるのは、コアメンバーのム・リンくんだ。オーボエの「ラ」の音に合わせてそれぞれの楽器が音合わせを終えると、指揮者が登場。今年度の「わくわくオーケストラ教室」の指揮者4人の中から、この日は中田延亮(のぶあき)さんがタクトを振る。京都生まれで2005年に渡欧。現在はスペイン・バレンシアに拠点を置いて活動する若手の有望株だ。

 

 1曲目は中学生でも多分知っているだろうポピュラーな選曲。ジョン・ウィリアムズ「スター・ウォーズ」組曲より“メイン・タイトル”でスタート。宇宙を舞台にした映画ではそれまで無機質な電子音楽が主流だったのに、ジョージ・ルーカス監督はなぜフルオーケストラの音楽を選んだのか? など、スクリーンには曲にまつわる興味深い逸話が紹介されて引き付ける。

 2曲目は黒布で覆われた謎の物体が登場。その正体は、なんとタイプライター! 中学生にとっては初めて見る珍品かもしれないが、スクリーンに映るタイピストたちのレトロなモノクロ映像で、その機械が欠かせなかった時代がうかがえる。アメリカの作曲家アンダーソンが1950年に作曲した「タイプライター」は、タイプを打つパチパチという音や次の行に移る時にシリンダーを戻す「シャッ」という軽快な音が打楽器のように組み込まれた楽しい曲だった。

 

 続いて指揮者の中田さんがステージ上の楽器を紹介。「オーケストラにはたくさん楽器がありますが、大きくは3つの仲間に分かれています。弦、菅、打。それぞれの楽器を演奏者に紹介してもらって、その音色を聞いてみましょう」

 楽器に詳しい人や耳のいい人はオーケストラで演奏する各楽器の音色を細かく聴き分けることができるかもしれないが、単独の楽器だけで演奏される小品を聴く機会は貴重だ。私自身もオーボエとクラリネット、バスーン(ファゴット)の微妙な音色の違いを改めて知ることができた(役得ですみません)。

 

 3曲目は「吹奏楽の自由曲としてよく演奏される曲ですね」と紹介されたリムスキー=コルサコフ「スペイン奇想曲」より「アルボラーダ」「シェーナとジプシーの歌」「アストゥリアのファンダンゴ」。部活動で吹奏楽をしている生徒たちには親しみ深い選曲で、もし同じ楽器をやっている生徒がいたら、演奏者に注目してワクワクして耳を傾けたことだろう。

 

 この日のメインはシベリウスの交響詩「フィンランディア」。ロシアの支配下にあったフィンランドの独立運動を支えた曲だ。「最初にいくつかの場面に区切って、人々の感情を作曲家がどのように表現したのかをみていきましょう」。

 重苦しい低音のハーモニーで始まる苦難のモチーフ。金管楽器のファンファーレによる闘争の呼びかけのモチーフにティンパニの賛同のリズムが加わり、フィンランディア賛歌のメロディーが人々を勇気づけ、最後に自由を勝ち取った喜びの歌に変わる……。細かい説明を経て通しで聴いた曲は、立体的な奥行きのある作品として生徒たちに浸透していくようだった。

 

 ここまで約1時間余り。最後は「オーケストラと一緒に歌おう」のコーナー。MCの伊藤敬子さんが「学校で練習してきた人、手を挙げて」と呼び掛けると、客席のあちこちで手が挙がる。全員で人気グループ嵐の「ふるさと」を合唱して穏やかに終幕かと思ったら、アンコールの拍手で呼び戻された指揮者の中田さんが「今度は手拍子で参加してください」と会場に呼び掛けて、ヨハン・シュトラウス1世の「ラデツキー行進曲」をアンコールで演奏。中田さんの指揮の身振りの大きさで手拍子の音を大きくしたり小さくしたり、会場が一体となって温かいムードに包まれ、約75分間の「わくわくオーケストラ教室」が終わった。

 

 「わくわくオーケストラ教室」を最初に体験した世代は、すでに20代後半。「僕たち中学生の時に西宮北口の大ホールでオーケストラを聴いたよね」。同じ体験をした子どもたちが層としてつながっていることで、音楽芸術のすそ野が確実に広がっている。佐渡芸術監督の見果てぬ夢は、コツコツと積み重ねて種をまき続けることで、さらに大きな実を結ぶに違いない。(大田季子)

 




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