松田華音のプロコフィエフに陶酔、幸福な“気”に満ちた井上道義の「火の鳥」

【PACファンレポート㊼兵庫芸術文化センター管弦楽団 特別演奏会 燃えよ道義 炎の音楽】

PAC(兵庫芸術文化センター管弦楽団)とは何度も共演している日本を代表する指揮者、井上道義。6月19日(土)の特別演奏会は、2019年5月の第115回定期演奏会以来、約2年ぶりの登場だ。井上の演奏会は何かしらの趣向が用意されていて、いつもとても楽しい。この日も期待通りの楽しいパフォーマンスと素晴らしい演奏を満喫した。

 

この日の演奏会のプログラム

早めにホールに着いて3階席から舞台を見ると、目を見張るばかりの大編成!(プログラムで確かめたら奏者の数はなんと99人!)舞台中央前面に置かれたソリスト用のグランドピアノ(スタインウェイ)が圧倒的な存在感を放ち、これから無二の時間が始まるのだぞと告げている。6歳からモスクワに渡ってピアノの英才教育を受け、2013年9月、モスクワ音楽院に日本人初となるロシア政府特別奨学生として入学。19年6月に首席で卒業するなどの輝かしい経歴を持つ若き才能、松田華音がセルゲイ・プロコフィエフ(1891-1953)のピアノ協奏曲第3番を披露するのだ。

華やかな濃いピンクのドレスで現れた松田が繰り出すピアノの音は、十分な抑揚を効かせつつ緩急自在。音楽に革新を求め、並外れた技量を持ったピアニストでもあった作曲家が、自身が弾くためのレパートリーを開拓する意図で作ったという難曲を、見事に弾きこなしていく。予定調和を良しとしない、スリリングな展開ながら、空間にこぼれるピアノの音色は清冽で豊潤。時折のダイナミックな響きをアクセントに、超絶技巧を駆使したリリカルな調べに陶酔する。いつまでも聴いていたくなるような心地よい魅力にあふれた演奏だった。

何度も呼び戻された松田のアンコール曲はラフマニノフの楽興の時 第6番 ハ長調。このホールで、また新しい才能を知ることができた。

 

オーケストラの曲はイーゴル・ストラヴィンスキー(1882-1971)のバレエ音楽「火の鳥」(1910年原典版)。弦楽5部と4管編成のオーケストラ、ハープ3台、ピアノとチェレスタ、多彩なパーカッションで彩られた大作だ。

指揮者の井上は多才で、若き日にバレエダンサーになるか、指揮者になるか迷ったと、以前インタビューさせてもらった時に聞いたことがある。だからこそバレエ音楽に対する造詣や思いが誰よりも深いのだろう。前半のソリストの熱演に触発されたPACメンバーたちが紡ぎ出してくる様々な音に、物語の情景だけでなく、バレエシーンで登場人物たちが踊る時の情感までも載せていくのだとばかりに、全身を使って巧みにリードしていく。喜びにあふれた楽しそうな指揮姿が客席にも伝播し、ホールに幸福な“気”が満ちていく。指揮棒を持たない手が、まるで鳥のくちばしのような動きを見せた時、私は楽しさのあまり小さく笑ってしまった。

 

阪急西宮北口駅からの連絡通路に7月16日に開幕する佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ「メリー・ウィドウ」をアピールするのぼりが上がっていて待ち遠しい気分を盛り上げる

コンサートマスターは豊嶋泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの田中美奈(大阪フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席)、ヴィオラの百武由紀(東京音楽大学客員教授、愛知県立大学名誉教授)、チェロの富岡廉太郎(読売日本交響楽団首席)、コントラバスの吉田秀(NHK交響楽団首席)、トランペットの高橋敦(東京都交響楽団首席)。スペシャル・プレイヤーはPACのミュージック・アドヴァイザーも務めるヴァイオリンの水島愛子(元バイエルン放送交響楽団奏者)、ホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、ティンパニの久保昌一(NHK交響楽団首席)。PACのOB・OGはヴァイオリン7人、ヴィオラ2人、コントラバス、フルート、クラリネット、ホルン、トランペット、トロンボーンが各1人参加した。(大田季子)

 




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