三浦文彰の熱演を軸に、英国音楽の魅力を届けた下野竜也~兵庫芸術文化センター管弦楽団 第141回定期演奏会~

【PACファンレポート63兵庫芸術文化センター管弦楽団 第141回定期演奏会】2023年5月の兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)の定期演奏会。4月に定期演奏会がなかったので、センターへは2カ月ぶり。少し間が空いただけだけど、なんだか懐かしい気持ちになる。この日はPACとは何度も共演している下野竜也の指揮でオール・イギリス・プログラムだ。

 

最初の曲はウィリアム・ウォルトン(1902-1983)の「スピットファイア」前奏曲とフーガ。壮麗なファンファーレで始まる軽快な曲だ。英国空軍の戦闘機の設計者を主人公にした1942年のイギリス映画の音楽(監督・主演はレスリー・ハワード!だそう)をもとにした、演奏会用の編曲版だという。約8分と短い間だったが、五月晴れの空を自在に飛ぶ飛行機の姿が脳裏に浮かぶ、楽しい時間だった。

 

寺門孝之さんが「風」をテーマに描いたプログラムの表紙。5月は六甲山系の新緑が風の強い日に起こす「青嵐(あおあらし)」をイメージ

次は三浦文彰をソリストに迎えてのエドワード・エルガー(1857-1934)の「ヴァイオリン協奏曲」。三浦と下野は、2016年のNHK大河ドラマ「真田丸」のオープニングテーマ曲で共演し、クラシックになじみの薄い人たちの間でも話題を呼んだコンビだ。近年、指揮者としても舞台に立ち始めた三浦は、「尊敬する音楽家の一人」である下野にアドバイスをもらうことも多いとプログラムのインタビューにあった。

自身の演奏が始まるまでの間、三浦はオーケストラを見渡しながら、その音色を全身に浴びていた。まるでオーケストラの奏でる音に自身を同化させようとするかのように。その後、おもむろに始まった独奏は、時にスリリングに、時に優しく、ストラディバリウス(1704年製作“Viotti”)の妙なる調べを響かせた。

約55分という長い演奏の間ずっと気を張り詰め、集中し続けた三浦は、インタビューで語っていたように「オーケストラとの複雑な絡みを徹底的に意識する」ことを注意深く実践していると感じられた。三浦の熱演に応えてPACも、このロマンチックで美しい曲を、丁寧に心を込めて演奏した。第2楽章アンダンテの終盤、下野が、美しい演奏が終わってしまうのを惜しむように左手で小さく円を描いて演奏を閉じた姿が目に焼き付いた。

音楽は耳で聴くものではあるが、演奏会に足を運び、演奏する人たちの様子を目のあたりにすることで、そのひとときがいっそう忘れがたいものになる。そんな宝物が一つひとつ増えていくことが定期演奏会という場にいることの醍醐味なのだと思った。

 

最後の曲はエルガーの「エニグマ(謎)変奏曲」。作曲家の周りにいた親しい14人をスケッチした曲は多彩で、それぞれ短い中にも変化に富んだ音楽を味わわせてくれた。

 

佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2023「ドン・ジョヴァンニ」ののぼりが掲げられていた

コンサートマスターは豊嶋泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの白井篤(NHK交響楽団第2ヴァイオリン次席)、ヴィオラの柳瀬省太(読売日本交響楽団ソロ・ヴィオラ)、PACのOBでもあるチェロの西谷牧人(元東京交響楽団首席)、コントラバスの吉田秀(NHK交響楽団首席)、フルートの長谷瑞(元九州交響楽団首席)、クラリネットの梅本貴子(関西フィルハーモニー管弦楽団首席)、トランペットの佐藤友紀(東京交響楽団首席)。スペシャル・プレイヤーはホルンの五十畑勉(東京都交響楽団奏者)、トロンボーンの倉田寛(愛知県立大学教授)、ティンパニの久保昌一(NHK交響楽団首席)。

PACのOB・OGはヴァイオリン7人、ヴィオラ1人、チェロがゲスト・トップ・プレイヤー1人を含め2人が参加した。(大田季子)




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