【PACファンレポート68 兵庫芸術文化センター管弦楽団 第146回定期演奏会】11月18日の兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)第146回定期演奏会は、いずれもパリで初演された、とびきりオシャレなフランス音楽を、個人的な思い出とともに堪能した。当初出演を予定していた指揮者、アレッサンドロ・ボナートが来日できなかったため、世界的クラリネット奏者でソリストを務めるポール・メイエとオランダ在住の指揮者、阿部加奈子が指揮をした。
最初の曲はクロード・ドビュッシー(1862-1918)が作曲した「クラリネットと管弦楽のための第1狂詩曲」(1911年初演)。指揮者としてのキャリアも積んでいるポール・メイエがスマートに吹き振りで聞かせた。小編成の管弦楽が色を添え、ドビュッシーらしい夢見るような旋律を、膨らみのあるクラリネットの音色がたどっていく。心地よい時間だった。
次の曲は、現代フランスの作曲家、ティエリー・エスケシュ(1965-)が、本日のソリスト、ポール・メイエに献呈し、2012年に初演された「クラリネットと管弦楽のための協奏曲」。この曲を指揮するために、阿部加奈子がキリリとした黒のパンツスーツ姿で登場。日本初演の曲とあって、緊張感に満たされた会場の聴衆も耳をそばだてて聞き入った。
フランス音楽はよく「色彩豊か」と形容されることが多いが、それは様々な音色の楽器が、それぞれ絶妙なバランスで鳴ることに由来しているに違いない。現代曲だけに不協和音が多用されていたが、それがかえってスタイリッシュに響く。この曲もパーカッション含め多彩な音色が乱舞していた。
ソリストのアンコール曲はスティーブン・ソンドハイムの「道化師を出せ」(『リトル・ナイト・ミュージック』より)。青春時代のいつか耳にしたことのある懐かしいメロディーだった。
休憩後のオーケストラの曲からは、クラリネットを指揮棒に持ち替えてポール・メイエが指揮台に立った。
まずはジョルジュ・ビゼー(1838-1875)の「アルルの女」第1組曲と第2組曲。第1組曲の初演は1872年、第2組曲は不詳とされている。確か「アルルの女」は、小学校の音楽の教科書にも載っていた。それぐらい多くの人に親しまれている曲だが、生で聞くのは初めてかもしれない。
リズミカルで印象的な前奏曲が始まると、初めて聞いた小学生時代のわくわくする気持ちを思い出した。その後のドラマチックな展開は、メロディーメーカー、ビゼーならでは。第2組曲の有名な「メヌエット」は、フルートとハープが奏でる優美な調べだ。
この日、フルートのトップを務めた、地元・西宮出身のコアメンバー石原小春は、演奏会の最後に、マエストロと聴衆から大きな拍手をもらった。
最後はモーリス・ラヴェル(1875-1937)の「ボレロ」。バレエで初演されたのが1928年、演奏会形式では1930年に演奏されたという。20年ほど前になると思うが、シルヴィ・ギエムがこの曲を踊るのを、フェスティバルホールで見た記憶がある。
ごく微かなドラムの響きで始まる冒頭。弦楽集団の中央にいる、コアメンバーの森山拓哉が叩いているようだが、私の席からでは彼は静止しているように見える。
狂いなく正確に刻まれるリズム。楽器が入れ替わり立ち替わり同じメロディーを演奏し、無限ループのようでありながら、徐々に高揚していく。そして最後に一気にくずおれる。そのカタルシス感!
帰路の雑踏の中で、誰かが「ずっと聞いていたくなる音楽。不思議よね」と話していた。同感だ。
コンサートマスターは豊島泰嗣。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの戸上眞里(京都市立芸術大学准教授、元東京フィルハーモニー交響楽団第2ヴァイオリン首席)、ヴィオラの青木篤子(東京交響楽団首席)、チェロの長谷部一郎(東京都交響楽団副首席)、コントラバスの加藤正幸(元東京フィルハーモニー交響楽団副首席)。スペシャル・プレイヤーはバスーンの河村幹子(新日本フィルハーモニー交響楽団首席)、トランペットのオッタビアーノ・クリストーフォリ(日本フィルハーモニー交響楽団ソロ・トランペット)、トロンボーンのマシュー・ヴォーン(フィラデルフィア管弦楽団副首席)、ティンパニの菅原淳(元読売日本交響楽団首席)。PACのOB・OGはヴァイオリン3人、チェロ1人が参加した。(大田季子)