初登場カンブルランの指揮で新しい時代の到来を告げた新星ピアニスト中川優芽花~兵庫芸術文化センター管弦楽団 第149回定期演奏会~

【PACファンレポート71兵庫芸術文化センター管弦楽団 第149回定期演奏会】兵庫県立芸術文化センターへは、雨模様の日でも阪急西宮北口駅から直結の屋根付き通路で快適。寒の戻りの冷たい雨が降る3月23日の兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)第149回定期演奏会も、その恩恵を受けてKOBELCO大ホールのいつもの席へ。

この日のソリストは、2021年クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールで優勝し、同時に聴衆賞も獲得して注目を浴びているドイツに生まれ育つ日本人ピアニスト、中川優芽花。弱冠21歳の新星が“ピアノとオーケストラの決闘”といわれるピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840-1894)のピアノ協奏曲第1番を奏でる。

PAC定期初登場のマエストロ、シルヴァン・カンブルランと一緒に舞台に現れた中川は、細身の黒のパンツスーツに身を包み、華奢な印象。ドレス姿でない女性のソリストを見たのは初めてだったが、ジェンダーフリーの多様性の時代の到来を目の当たりにした気がした。伝統を重んじると思われがちなクラシックの世界にも、新しい息吹は常に生まれ、物怖じしない果敢な挑戦が次の時代の扉を開いていくのだろう。

その中川の演奏は、スレンダーな体の一体どこから繰り出してくるのか、エネルギーに満ち溢れたパワフルかつ繊細な音の乱舞だった。ドラマチックな冒頭から、一つひとつの音がこぼれるように聞こえる美しい旋律まで、最初の緊張がほどけた中川がのびやかに繰り出す音色が心地よく響く。その演奏に応えるPACメンバーも、ともに曲を奏でる喜びを全身から発していた。

中川のアンコール曲はシューマン=リスト「献呈」。穏やかで美しい曲だった。帰ってから調べたところによると、シューマンの歌曲集「ミルテの花」の第1曲「献呈Widmung」を、リストがピアノ独奏用に編曲したものだそうだ。現在、ワイマールのフランツ・リスト音楽大学で研鑽を積んでいる中川ならではの選曲だったのかもしれない。

第152回定期演奏会(2024年8月)で演奏するシェーンベルクの交響詩「ペレアスとメリザンド」をテーマに、寺門孝之さんが絵本のように描き進める趣向の今シーズンのプログラムの表紙。3月は、2幕2場。落馬して大けがをしたアルモンド国の王子ゴローの世話をするメリザンドの指に、ゴローが贈った指輪がないことを見つけて……

オーケストラの曲はエクトール・ベルリオーズ(1803-1869)の幻想交響曲。

プログラムのインタビューでソリストの中川が、マエストロのカンブルランが「作曲家ごとの異なるスタイルを大切にしなくてはならない」と、あるインタビューで話していたと言っていたが、同時代に活躍したチャイコフスキーのスタイルと、ベルリオーズのスタイルはまるで別物。譜面に書かれたその個性の違いを、どう現出させるのか。私にとっては、PAC You Tubeで公開されている「わくわくOnlineオーケストラ教室」で、佐渡芸術監督と妖精パックが詳しく紹介してくれた印象深い曲だ。

総勢92人の大編成の若いオーケストラを率いるカンブルランの指揮は、アグレッシブで吸引力がある。失恋した芸術家の苦悩と慟哭、思いが深かった分だけ募る執心と復讐の思い……。熱狂のうちに一気にクライマックスに至った演奏に、惜しみない拍手が送られた。

 

ゲスト・コンサートマスターはアントン・バラコフスキー(バイエルン放送交響楽団第一コンサートマスター)。ゲスト・トップ・プレイヤーは、ヴァイオリンの桐原宗生(札幌交響楽団 第2ヴァイオリン首席)、ヴィオラの小野富士(元NHK交響楽団次席)、チェロの市寛也(NHK交響楽団奏者)、コントラバスの森武大和(ウィーン放送交響楽団次席)。

スペシャル・プレイヤーはバスーンの中野陽一朗(京都市交響楽団首席)、ティンパニの近藤高顯(元新日本フィルハーモニー交響楽団首席)。

PACのOB・OGはヴァイオリン5人、チェロとコントラバス、ホルン、トロンボーンが各1人参加した。(大田季子)




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