【précieux 京都】#23
私たちの立誠小学校が生まれ変わった その(1)

precieux京都

立誠ガーデン ヒューリック京都
京都市中京区蛸薬師通河原町東入備前島町310番2

新しく建設された「Main棟」。手前の芝生が敷き詰められた「立誠ひろば」ではイベントや地域事業が行われる

 

高瀬川に面する正面玄関はロマネスク様式の旧校舎の面影が残っている

 

地域に愛されてきた小学校

花街・先斗町のすぐ西側の木屋町、高瀬川沿いにあった元立誠小学校が複合施設「立誠ガーデン ヒューリック京都」に生まれ変わった。

「人に対して親切にして欺かないこと」という意味から名づけられた立誠小学校は特別な存在だった。1869年に番組小学校として開校。番組小学校とは、明治維新後に当時の自治組織であった「番組」を単位にした小学校のこと。日本最初の学区制小学校として地域の人に愛されてきた。現在の場所に移転し、小学校としては日本初の鉄筋コンクリートの校舎を建てる、その莫大な費用も主に市民の寄付で賄われるなど、常に地域と共にあった。

前年度入学者ゼロだった1993年春に閉校となった後も映画や演劇、展示会など文化的なイベントや祭りが地元の人の熱意で行われた。長い歴史の中で、これは乗り越えられないかもしれない、と思う難局がいくつもあった。それでも人が懸命に力を合わせて乗り越えてきた事実が、次の壁に向かう力となる。その営みの“象徴”とされてきた立誠小学校への京都人の思いは深く、卒業生で無くとも木屋町通りを通る際に、そこに校舎があるだけで温かい気持ちになった。

 

あのヒューリックが手掛ける「THE GATE HOTEL 京都高瀬川 by HULIC」

その元立誠小学校が耐震問題で活用が不可能になり、ホテルを中心とした複合施設になるという噂が出始めたころ、京都では「またホテルか」という声が多かった。しかし、ヒューリック株式会社が手掛けるとわかった時、あっ、これは面白いものができる、大丈夫と確信した。同社は全保有物件のうち7割以上の物件を東京23区内に保有していることもあり、関西ではあまりなじみが無い不動産会社だが、財閥系の三井不動産、三菱地所、住友不動産に次いで不動産業界第4位の時価総額を誇り、耐火木造建築ビルなどの環境に配慮した建物づくりや、日本将棋連盟ほか芸術文化への支援(藤井聡太七段が最年少タイトルを獲得したのはヒューリック杯棋聖戦)にも取り組んでいる。

施設の中核となるホテル「THE GATE HOTEL 京都高瀬川 by HULIC」は2018年に設立した自社ブランド「THE GATE HOTEL」としては全国で3店舗目、関西初進出。外資系のホテルと違い、従業員教育などすべて自社で賄う日本発のホテルとして注目を集めてきた。社員が地域に入りだしたのが2014年。祭りや高瀬川の川掃除といったイベントに参加するなど、地元の人達と親交を深めながら信頼関係を築き、地域の歴史、文化を維持することの意味を探ってきた。時を重ね、慎重に、大切に進められてきたプロジェクトなのだ。

 

元の人が「ええモンができた」と喜んだ

ホテルは新築の「Main棟」(8階建て、164部屋)と貴重な近代建築である校舎を保存・再生した「Schoolhouse棟」(3階建て、20部屋)に分かれている。その接合部分1階にあるホテルのエントランスから8階へ。エレベーターから降りてすぐ目前に広がるのが東山を臨むロビーラウンジ&バー。早くも地元で“名所”となりつつある。床から天井まで続くガラス窓から見る東に広がるパノラマの風景は京都に住む身でも見たことがないスケール。右奥に長く続くオープンテラス、ダイニングレストランとすべての場所でこの風景が楽しめる。

 

8階、エレベーター降りてすぐのロビーラウンジ&バー。東山まで、さえぎるものなし。

 

夜は眼下に夜景が広がる。抜群のロケーション

 

レストラン&バー「Anchor Kyoto」では宿泊者でなくても朝食が楽しめる。「打田漬物」など京都の食材を使った和食膳(全18品)が限定30食。ほうじ茶などのドリンクがついて一般客は3,300円

 

すばらしかったのは校舎をリニューアルさせた「Schoolhouse棟」。一緒に館内を巡った地元の主婦・仲田里美さんが、踏み入れるなり立ち止まり胸の前でグッと両手を握り合わせて「学校が残っている。けどヨーロッパにいるみたい。本当にうれしい。うれしい。ええモンができた」と感極まったほどだ。

ここに立ち、仲田さんは喜んだ

 

白を基調にした「Schoolhouse棟」は古き時代が生きる最新のモダン建築といった感じ。
「Lab-Stone Box-」と名付けられた部屋353号室は彫刻家の樂 雅臣(らく まさおみ)さんの石の彫刻「Stone Box」や絵画が詰まった“アートルーム”。樂さんは千家十職の茶碗・樂家の十五代目樂吉左衛門さんの次男で石彫の気鋭彫刻家だ。「ホテルは出会いと記憶の場所。この作品は鳥のくちばしを表しています。一度、この部屋に泊まった方が、また戻ってこられた時に、前回の五感の思い出をしまっておき、取り出して欲しい」と樂さん。

 

そして、同じ3階には、歴史を未来につなげて託そうという地域とホテルの思いが現れている圧巻のスペースが。立誠小学校時代に道徳や礼儀作法を教育する場として使われていた「自彊室」を宿泊者がホテルのイベントや地域との交流を楽しめるスペースとして保存・再生した「Retreat Room」。子供たちは、60畳のこの座敷で何が本当に大切なことか、自分を大切にするとは、どういうことかを学んだ。そのざわめきや真剣なまなざしが心にわいてくるような厳粛な空間が、なぜ生きるか、なぜ旅するかを対する者に問うてくる。

「自彊室」が、ほぼそのまま残された。旅人はここで何を思うのだろう

※立誠ガーデン ヒューリック京都

京都市中京区蛸薬師通河原町東入備前島町310番2
「THE GATE HOTEL 京都高瀬川 by HULIC」
https://www.gate-hotel.jp/kyoto/

 

 


◆Writing / 澤 有紗

著述家、文化コーディネーター、QOL文化総合研究所(京都市上京区)所長。

京都、文化、芸術、美容、旅や食などなどをテーマに雑誌・企業媒体誌などの編集・執筆を担当するほか、エッセイなどを寄稿。テレビ番組や出版のコーディネート、国内外の企業の京都、滋賀のアテンドも担当。万博の日本館にて「抗加齢と日本食」をテーマに食部門をプロデュースするなど、国内外での文化催事も手掛ける。コンテンツを軸に日本の職人の技や日本食などの日本文化を「経済価値に変える」「維持継承する」ことを目的に、コーディネート活動を行っている。

主催イベントとして、日本文化を考える「Feel ! 日本 -日本を感じよう-」と、自分を見つめ直しQOLを高める「Feel ! 自分-QOL Terakoya Movement ? 」を定期開催。
https://www.qol-777.com

 

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