【précieux 京都】#27
清水焼を鑑賞しながら、噂のかき氷を

precieux京都

お茶と酒 たすき 近藤悠三記念館=京都府京都市東山区清水1-287

緩やかに清水寺門前まで続く、ちゃわん坂。坂の終点手前に近藤悠三記念館がある。悠三作の世界最大の梅染付大皿(直径126㎝、重さ100kg)が正面ウィンドウに

 

目前に人間国宝らの作品が

東山通りから清水寺に続く茶わん坂を歩く時、決まって過ぎ去った遠い日々を思い出すのは何故だろう。緩やかな登りが人生の歩みに似ているからか……てなコトを考えていると、右手にモダンな佇まいの近藤悠三記念館が見えてくる。

現在、記念館が建つ地で1902年に生まれた陶芸家・近藤悠三氏は、富本憲吉に師事し、修業を重ね、古くから伝わる「染付」を独自の技法で新しい芸術を生んだ。重要無形文化財保持者(人間国宝)の認定を受け、その作品は陶磁器染付の最高峰と称される。記念館には、その作品に加え、長男の豊さん、次男の濶さん、そして孫の高弘さんの作品も展示されている。

墨黒が基調の展示ギャラリー

展示作品を見ながら、現代風にアレンジされた、かき氷を食べる。過去と向き合い、時代の変化の中にいる自分を感じるひととき

現在の当主である高弘さんが、玄関口で迎えてくれた。4年前にリニューアルした記念館の1階ギャラリーは墨黒を基調とした、とてもモダンな造り。高弘さんは、メトロポリタン美術館やギメ美術館などの有名美術館が作品をパブリックコレクションするなど、世界のアートシーンで名の知れた美術作家でもある。その美意識が反映されているのだ。

もはや芸術品。圧巻の、かき氷

そのギャラリーに「お茶と酒 たすき 近藤悠三記念館」が誕生したのは昨年9月。祇園新橋伝統的建造物群保存地区の観光名所的な存在になったセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」(6年前にオープン)に併設されている喫茶「お茶と酒 たすき」の3号店だ。日本の古くから伝わるレガシー(遺産、継承すべきもの)や美意識を大切にしつつ新しい喫茶のあり方を提案している。「水」がテーマの記念館で、近藤さんの工房で生まれた器や京都の工芸品を使って、かき氷や日本茶を提供する――というコンセプト。記念館の展示ギャラリーの、ほぼ中央に12席。記念館は入場無料で、作品を見るだけで帰っていく人もいる。

「一人では食べきれないかもしれないけど、コレ、おいしいよ」と高弘さんが勧めてくれたのが、かき氷「清水極み抹茶氷 近藤悠三記念館限定」(税込1,958円)。

近藤さんの工房から生まれたブルーの器に盛られた「清水極み抹茶氷 近藤悠三記念館限定」

店長の奥村祥太さんが、かき氷を作りながらこだわりを話してくれた。まず、氷。「日本中のいろいろと試したんですが、仙台の青葉冷凍さんの氷に決めました。かき氷機で削る際に手に響く感覚が格別。さらに、うちが手作りするシロップの浸透具合が一番良かった。氷は使う前に常温に戻して使います。削りが安定して、ふわふわ感が違うのです」

なるほど。

「氷のコンディションが毎日違うので、刃は、その都度、調整します。削る時は氷の重心を意識して、氷の形とスピードを考えます。『清水極み抹茶氷 近藤悠三記念館限定』は3層になっていて、微妙に削り方を変えます。スタッフは、そうですね、100時間くらい練習すると、できるようになります。」

凄すぎる。

「清水極みの場合、黒豆が乗ったクリームソースは、豆腐と西京味噌を合わせたもの。蜜は宇治の抹茶に黒蜜。求肥、アイスクリーム、グレープフルーツの微妙な味のコンビネーションが自慢です。フルーツ以外は、うちのオリジナルです」

うわー、早く食べたい。

もはや、芸術品。月に何度か通うファンもいる

口に含むと、お茶、氷、味噌、豆腐など、それぞれの素材が持つエネルギーを感じる。生菓子ともいうべき完成度。子どもの頃に食べたかき氷とは違う、現代のかき氷。けれど懐かしい。目前に約100年前に生み出された情熱の塊である陶磁器がある。なんと、ぜいたくな時間だろう。「ほうじ茶みつ きなこ練乳付き」、(税込1,210円)、ドリンク「生姜ほうじミルク」(税込682円)なども人気。

近藤高弘さん(左)と、奥村祥太さん。生まれ育った清水をいつか共に盛り上げようと考えているそうだ

 

幸せを感じながら

横で、かき氷を食べていた高弘さんが「お父さん、元気か?」と店長の奥村さんに聞いた。いま29歳の奥村さんは、記念館から歩いて10分ほどの金剛寺庚申堂の住職の長男。寺には人生に悩む人が大勢やってくる。寺は、いずれは継ぐだろうけれど人をハッピーにする術を学びたい、と親に告げて就職した。選んだ会社は、あこがれの人・遠山正道さんが代表取締役社長を務める株式会社スマイルズ(東京都)(現在、同店は株式会社スープストックトーキョーが運営)。「生活価値の拡充」という理念を遠山さんと同社は、7月にテレビ番組「日経スペシャル カンブリア宮殿」で取り上げられ、大きな反響を呼んだ。奥村さんは、薫陶を受けながら、静岡、名古屋、東京と転々とし、偶然にも生まれ故郷・京都の、しかも実家のそばに配属された。清水は観光客が減り、茶わん坂の店舗や窯も苦境に立つ。大好きな会社の仕事と寺を兼業して、自ら身の丈にあった幸せを感じ、縁ある人々を幸せにできたら、と考えている。

取材を終えて、記念館から茶わん坂を下る時は、未来を思った。こだわりのかき氷を食べることができた幸せ。尊敬する人の理念から自分の生き方を模索する青年の思いを知れた幸せ。清水が誇る陶磁器の名品に座ってじっと対峙できた幸せ。小さな幸せを感じて喜び、重ねることこそが、未来に繋がる。

 

※お茶と酒 たすき 近藤悠三記念館
来館の際は事前に連絡を。
〒605-0862 京都府京都市東山区 清水 1-287
TEL:075-744-6883
11:00-18:00
水曜定休。

https://tasuki.pass-the-baton.com/store/kondoyuzo-kinenkan


◆Writing / 澤 有紗

著述家、文化コーディネーター、QOL文化総合研究所(京都市上京区)所長。

京都、文化、芸術、美容、旅や食などなどをテーマに雑誌・企業媒体誌などの編集・執筆を担当するほか、エッセイなどを寄稿。テレビ番組や出版のコーディネート、国内外の企業の京都、滋賀のアテンドも担当。万博の日本館にて「抗加齢と日本食」をテーマに食部門をプロデュースするなど、国内外での文化催事も手掛ける。コンテンツを軸に日本の職人の技や日本食などの日本文化を「経済価値に変える」「維持継承する」ことを目的に、コーディネート活動を行っている。

主催イベントとして、日本文化を考える「Feel ! 日本 -日本を感じよう-」と、自分を見つめ直しQOLを高める「Feel ! 自分 – QOL Terakoya Movement‐」を定期開催。
https://www.qol-777.com

https://www.247select-kyoto.com

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