【précieux 京都】#30
リスクを取らず、自分の夢を実現。
小さなプラント(植物)ベースケーキ専門店

precieux京都

オ・プチ・フォロ・パティシエール=京都市中京区西ノ京池ノ内町20-75

超慎重なのに、単身パリへ

阪急大宮駅から歩いて約10分。レトロな雰囲気が漂う三条商店街から北に入った路地に、小さなプラント(植物)ベースケーキ専門店「オ・プチ・フォロ・パティシエール」がある。店が開くのは月に3~5日程度。それ以外はカフェやイベントでのポップアップ出展が時々。お誕生日用のホールケーキは予約制で、クッキーや冷凍ケーキを少しネット販売という、ゆったりしたペース。にもかかわらず、3年前にオープンして以来、着実にファンを増やしてきた。

国内のホテルや、パリで培った技術と知識をベースにして、酒粕を使ったキャロットケーキ、植物ベースのショコラなどを生み出す中谷さん

オープン・デーと呼ばれる開店日には、ラインで予約した人、開店の告知を楽しみに待っていた人たちが次々とやってくる。レモンタルト、ガトーショコラ、0%チーズケーキ(乳製品が0%なことから命名。乳製品不使用で豆乳ヨーグルトを使用して作られている)、キャロットケーキ、イチゴティラミス…日によって作るアイテムは違うが、乳製品や小麦粉、白砂糖を使わず、生菓子に使う果物などは可能な限り無農薬もしくは低農薬のものを選ぶ。見た目は、普通のケーキとあまり変わらない。価格は1つ650円(税込)から。生クリームやバターなどを使わずに作ったケーキは、本当に美味しいのか? 口に含むと味は普通のケーキと、予想以上に変わらない。チーズケーキにチーズも生クリームも使ってないのに、なぜ? 何という技。何というこだわり。ケーキにはオーナー兼パティシエールの中谷美佳さんの人生が詰まっている。

ホールのケーキはリクエストに応じてデザインされる。15cm 4700円(税込)から

京都府南丹市生まれ。両親は共働きで、父親が1日しかない休みの日に、いつも焼いてくれるパンケーキを食べるのが楽しみで仕方なかった。ハレの日にはいつもペコちゃんでおなじみの不二家レストランで食事。料理が来る間に店内を見渡すと、ケーキを食べている人の誰もが笑顔だった。そして何より自分自身が、ケーキを食べている時が一番幸せだった。製菓専門学校を卒業して就職先に選んだのは京都ロイヤルホテルの製パン部門。その後、2つのホテルで働いた。

転機は結婚して1年半が過ぎていた29歳の時。7回出して通らなかったワーキングホリディービザ(30歳までが期限)が最後の年に降りた。「本場パリで製菓を学びたい」と燃える妻を、夫は「あかんとは言えへん。行って来たらいいよ」と送りだしてくれた。1年半も留守にするにもかかわらず。

この日を楽しみにしているファンが次々とやってくる。遠くは姫路から通う高校生もいる

伝手がなく、受け入れてくれる修業先が決まらずに渡仏する、という少々無謀な挑戦だったが、超慎重派なのに、なぜか何とかなると思っていた。結婚前に数か月間、パリに居た関係で、日本人コミュニティに知り合いがいて、山崎パンのパリ店に空きが出たと教えてくれた。働きながら時間をみつけては『パリの有名パティスリー100』という本に載っている店に電話して「働かせてもらえませんか?」と聞いた。25件目に「面接に来てもいい」という返事をもらえた。その店はかつて日本でも数店舗を展開していた「ジェラール ミュロ パリ」(現在は撤退)。オーナーのミュロさんが親日家ということもあり、奇跡的に正社員として働けることに。

帰国後はケーキ店でアルバイトをした後、「オ・プチ・フォロ・パティシエール」を開業。続けて2人の子どもを授かり、3年間は知人に頼まれてお誕生日ケーキを作ったりするに留まっていたが、2018年に祇園の有名な日本料理店「祇園さゝ木」から和食に合うデザート作りを依頼され、週3回3年間働いた。この時に得た和食の技術や、職人たちの取り組みが、後にくず粉や餡の使い方につながった。

大好きなケーキから離れなければいけない危機。だからこそ生まれたもの

「祇園さゝ木」に通い始める前ごろから、体調の悪さを自覚するようになった。湿疹が体中に出て、だるい。いつもどんよりとした気分だ。血液検査では何も出てこなかった。皮膚科医の診断は「遅延型アレルギー」。洋菓子に使う乳製品や小麦粉のアレルギーが2週間ほどたってから症状として出てくる。食べるのはもちろん、肺に入ると内臓を痛めるからケーキ作りは止めたほうがいい、と言われた。そしてコロナがやってきた。

「自分の人生と共にあったケーキが遠い存在になりました。あの時のショックを表すことができる言葉が見つからなかったくらいです。ここで諦めるのか。いや、全てを変えてみよう、と自分で自分を奮い立てました。続いてコロナ禍になりましたが、ここはジャンプする前にぐっと沈んで弾みをつける、あの感じなのだと」と中谷さん。ヒントは主治医の皮膚科医が運営する「子ども食堂」にあった。以前に子どもが診てもらった関係で、月に1度、「子ども食堂」にクッキーを届けていた。乳製品や卵がダメな子もいて、いろいろと対応してきたのだ。数カ月にわたって台所に籠り、試作を作り始めた。スポンジは米粉とコーンミール、チーズの代わりに豆乳ヨーグルト、試作を食べた友人や子どもが笑顔になった。

いろいろな食物アレルギーがある人の間で、あっという間に人気が広がった。
「子どもがアレルギーで、いつもは我慢させていたお誕生日のホールケーキを生まれて初めて食べさせることができる」と涙ぐむ母親もいた。デザインも1回ずつ、やりとりをして決める。心から笑ってほしいから。

定番は0%チーズケーキ(760円、税込)とキャロットケーキ(630円、税込)。季節などによって作るケーキは変わるが、店頭には20種類のレパートリーの中から7~8種類が用意される

コロナ禍の真っ最中の2021年に小さなケーキ工房を作った。資金をつぎ込んで本格的な店を持つことを考えた時期もあったが、コロナを体験して自分も変わった。無理なことはしない。無理して付き合う人間関係は止めよう。自分らしく、好きなことを極めたいと中谷さんは考えている。

 

※オ・プチ・フォロ・パティシエール
〒604-8375京都市中京区西ノ京池ノ内町20-75
開店日などは以下のホームページで確認を。

https://petitforeau.stores.jp/

※情報は取材時のものです。

 


◆Writing / 澤 有紗

著述家、文化コーディネーター、QOL文化総合研究所(京都市上京区)所長。

京都、文化、芸術、美容、旅や食などなどをテーマに雑誌・企業媒体誌などの編集・執筆を担当するほか、エッセイなどを寄稿。テレビ番組や出版のコーディネート、国内外の企業の京都、滋賀のアテンドも担当。万博の日本館にて「抗加齢と日本食」をテーマに食部門をプロデュースするなど、国内外での文化催事も手掛ける。コンテンツを軸に日本の職人の技や日本食などの日本文化を「経済価値に変える」「維持継承する」ことを目的に、コーディネート活動を行っている。

主催イベントとして、日本文化を考える「Feel ! 日本 -日本を感じよう-」と、自分を見つめ直しQOLを高める「Feel ! 自分 – QOL Terakoya Movement‐」を定期開催。
https://www.qol-777.com

https://www.247select-kyoto.com

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