沖縄の風習と家族描く10年ぶりの長編 照屋年之監督(ガレッジセール・ゴリ)特別インタビュー
映画「洗骨」 2月9日(土)公開

 ガレッジセール・ゴリが本名の“照屋年之”名義で監督・脚本を務めた映画「洗骨」が、2月9日(土)から全国の劇場で公開される。沖縄出身の照屋監督の長編2作目となる今作は、沖縄本島から北西約60㌔に位置する粟国島(あぐにじま)が舞台。主演の奥田瑛二をはじめ、筒井道隆、水崎綾女、大島蓉子といった個性的なキャストが集結した。一度土葬や風葬で遺体が骨となった後、その骨を海水や酒で洗い再度埋葬する島の風習「洗骨」を題材に、ある家族の再生と絆を描く。照屋監督が今作に込めたメッセージや制作秘話などを語った。

自身11作目、長編2作目の映画となる「洗骨」について熱く語る照屋年之監督(ガレッジセール・ゴリ)

 

祖先から受け継ぐ“命のバトン”
自分が今ここにいることへの感謝の気持ち

 

―今回の映画が誕生したきっかけについて

 2006年に監督デビューして、短編8作目で同じく洗骨を題材にした「born、bone、墓音。」を制作しました。この映画がショートショートフィルムフェスティバル&アジアのジャパン部門・優秀賞に選ばれるなどたくさんの短編映画祭で賞をいただくことになって。「これは面白いから長編映画にした方が良い」と映画関係者からチャンスをいただいて10年ぶりに長編映画を撮ることになったんです。もっと表現したいことは色々とありましたが、短編映画なので無理矢理25分にしていただけに、長編の話が来た時は本当に嬉しかったですね。

 

―“洗骨”を題材に選んだ理由とは

 「born、bone、墓音。」のロケ地が粟国島に決まったところ、プロデューサーが「粟国島ってまだ洗骨って残ってますよね」と言われたのが、風習を知ったきっかけです。愛する人の骨を直接手で洗うことで、命をつないでくれたことへの感謝の気持ちが現れているように感じます。

 

―今作で監督が伝えたかったメッセージは

 「祖先から受け継がれ続けてきた“命のリレー”」を表現したかった。数年前に、僕の母が亡くなった影響も大きく、母のことを思いながら脚本を書きあげていきました。母親、その母親を産んだ祖母と、命のバトンが絶えず続いてきたからこそ、今の私たちが存在できていることを映画を通じて改めて伝えたい。

©『洗骨』製作委員会

 

お客さんの一言で気付いた“沖縄らしさ”
甘やかさず、突き放さずの精神がキャラに宿る

 

―監督が特に印象に残っている役は

 信綱(奥田瑛二)の姉・信子(大島蓉子)や優子の恋人・亮司(鈴木Q太郎)など、個性的で面白い人物に目がいきがちですが、あえて近所に住む女性のマキ(前原エリ)を押したいですね。というのも、先行上映で観て下さった女性のお客さんたちが彼女が一番印象に残ったと教えてくれたんです。信綱の娘で急に妊娠して帰ってきた優子(水崎綾女)に対して、マキは「島に帰って島で産んだら」「私たちも一緒に育てるよ。私の子どもと遊ばせたらいいじゃない」と話しかけます。こうした彼女の包み込むような優しさに魅力を感じてくれたようです。

 

―沖縄出身の監督ならではの人物の描き方にも感じました

 甘やかすわけでもなく、でも決して突き放すわけでもない、この絶妙なバランスは私の沖縄での近所付き合いでよく目にしてきた関係です。僕自身は自然なセリフとして言わせたつもりですが、それが自然と沖縄らしさを演出することになっていたのかもしれません。お客さんに言われてハッと気づかされましたね。

記者が作品を褒めると「もぉ~そんな風に言ってくれて、今日はうれしいな~」と芸人の顔もちらりとのぞかせていた

―タイトルとポスターからは想像できない、ほっこりとした映画でしたが…

 そうなんですよ!前半はコメディで始まり、物語が進むにつれて泣ける場面もありますが、どちらかといえばコメディ要素の方が強いと思います。タイトルの字体だけ見るとホラー映画みたいに感じてしまいますよね。タイトルを決める会議の時にこれだけ楽しい映画だから「骨とYシャツと私」みたいにしちゃおうみたいな話もあったんですよ。
 でも、この風習を知ってもらう映画だから、シンプルにインパクトのある”洗骨”でいいんじゃないかと勝負に出ました。見てもらえて「笑えて泣ける」良い作品だと感じてもらえれば、お客さんがきっと広告塔として口コミで広げてくれるだろうと。まぁ、本当は上手くいくかどうか怖かったんですけどね~。

 

―関西のお客さんに向けて、メッセージをお願いします

 僕、実は小学校1年から5年まで阿倍野区に住んでいたんです。当時、大阪の大正区に沖縄出身の方が大勢住んでいて、それ以来勝手につながりをずっと感じていました。関西に住んでいる沖縄出身の方にも観てもらいたいですし、関西の方にはこの映画がきっかけで沖縄に遊びに来てもらえるとうれしいです。

「観られた方はSNSで映画のことをバンバンと発信してくださいね」とお客さんへのアピールも

物語のあらすじ

 沖縄の離島である粟国島・粟国村に住む家族、新城家。主人公・信綱(奥田瑛二)の妻である恵美子(筒井真理子)が亡くなり、東京の大企業で働く長男・剛(筒井道隆)と名古屋で美容師をしている長女・優子(水崎綾女)が葬儀のために帰ってくる。信綱は最愛の妻を亡くした悲しみを忘れるため、酒に溺れてしまう。

 そして、母の死から4年後。荒れ果てた生活を送っていた信綱のもとに、洗骨の儀式のために剛と優子が再び帰ってくる。しかし、彼らもそれぞれ言えない悩みを抱えているようで――。

©『洗骨』製作委員会

 「洗骨」は2月9日(土)より大阪ステーションシティシネマほか全国にてロードショー。




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