想田和弘監督観察映画第9弾「精神0」5/2(土)からネット上の[仮設の映画館]で公開

【速報:5月18日】緊急事態宣言が部分的に解除されて関西の劇場も今週末の5月22日(金)から再開されることが決まった。「精神0(ゼロ)」は5月22日から第七藝術劇場でリアル公開されるが、引き続き仮設の映画館でも公開されている。

 

新型コロナウイルスの影響で、全国の映画館が休館を余儀なくされている。観察映画という独自の手法で、新鮮な視点からのドキュメンタリー映画を撮り続けている想田和弘監督の最新作「精神0(ゼロ)」(観察映画第9弾)が、5月2日(土)からインターネット上の[仮設の映画館]でデジタル配信される(有料)。www.temporary-cinema.jp/

■ネット上でも観客が入場料で劇場・配給・製作者を支える

スカイプでの取材に応じる想田和弘監督

最新作の劇場公開を5月2日に控え、普段住んでいるニューヨークから3月25日に帰国した想田監督は、4月13日にスカイプを使った取材に応じて、次のように語った。

「僕たち映画製作者にとって劇場は発表の場。このままだと映画館は本当に潰れてしまいます。今回、[仮設の映画館]で公開しようと決めたのは、劇場に生き残ってもらわないと困るからです。最初は僕も公開延期を考えましたが、例えば1年延期して、その時に劇場がみんな潰れていたら延期した意味もなくなります。自分が生き残ろうと思うのであれば、みんな一緒に生き残ってもらわなければならない。そんな単純なことに気づかされて、配給会社の東風と相談して、出てきたアイデアが、配信で公開はする、そして観客からは1,800円という劇場で見る時と同じ料金をいただく。配信ではあるが、劇場公開時と同じパーセンテージ(大体5:5ですね)で、劇場にも配給・製作者にも還流するシステムを一緒に思いついて、その仕組みを作ることができたんです」

「[仮設の映画館]での公開は、最初に『精神0』が決めましたが、基本的に東風の配給作品は同じように公開されていきます。他の作品の配給会社や製作会社からもいろいろ問い合わせが入っているようで、うまく広がってくれるといいなと思っています(すでに6つの配給会社と10作品が参加決定)。新型コロナウイルスによる影響は結構長引きそうで、1年ぐらいこの状態が続く可能性もあります。劇場に直接寄付するのもいいんですけれども、それだと単発、一過性で終わる可能性もあります。やはり観客が入場料で、劇場・配給・製作者を支えていくという普段の枠組みを維持できれば、持続可能性が高いと思うんです。だからこれは、うまく行ってほしい。うまく行けば、映画界全体が生き残る可能性も高まると思うんですよ」

■「精神0」は今だからこそ見てほしい愛の物語

©2020 Laboratory X, Inc

「精神0」(2020年)は、こころの病とともに生きる人々を鮮烈に描いて大ヒットした観察映画第2弾「精神」(2008年)に登場した精神科医・山本昌知さんに再びカメラを向けた作品だ。第70回ベルリン国際映画祭で「人間が持つ力と愛する者へのケアの価値を描いた感動的な映画」と評価され、フォーラム部門エキュメニカル審査員賞を受賞した。想田監督自身も「期せずして“純愛映画”になった」とコメントしている。

「この純愛には、いろいろな解釈が成り立つと思うんです。山本先生と妻の芳子さん、ご夫婦の純愛はもちろんですが、山本先生と患者さんとの間にも純愛みたいな関係があるし、僕と山本先生にだってありますよ(笑)」

想田監督が「精神」を撮ったのは2005~07年、今回の「精神0」は2018年。山本先生と芳子さんは70代から80代になった。精神科の地域医療で患者と誠心誠意向き合ってきた山本先生を長年支えてきた芳子さんは認知症になり、82歳になった山本先生は3月に引退することを決めた。

「今回の撮影で、山本先生はそれほど変わったとは思いませんでしたが、芳子さんは変化されました。病を抱えておられるので、病を抱えていない人よりは激烈に変化する部分があるんじゃないでしょうか。そのため2018年時点の芳子さんだけだと、僕らの知っている芳子さんと違う。違うというか、何か十分でない気がしました。それで、『精神』の時に撮っていた2007年の芳子さんの映像が残っているのを思い出して、モノクロのフラッシュバック映像を時々はさんで編集しました。僕らの記憶にある芳子さんの映像を使うことで、何となく僕らの知っている芳子さん像に近づくところがありました」

©2020 Laboratory X, Inc

誰にとっても時間は不可逆で、映画を見た人は「何年後かの自分を見た」気になるのではないだろうか。

「はい、僕もそうですよ。今年僕は50歳になるんですけれども、山本先生たちの姿は、遠そうで、すごく近いですよね。老いや死を逃れられる人は一人もいない。先生と芳子さんの関係性は僕にとってはものすごく参考になりました」

その日の診療を終えた山本先生が、芳子さんにとても印象的な言葉を優しく投げかけるシーンがある。

「お二人の人生の過程の中で、今がそういう時期なんだろうなと僕も思いますよ。恐らくずっと山本先生はおうちを空けて、朝も昼も患者さんの支援に奔走されていて、帰ってきてもすぐ出て行ってしまう生活をずっとされていたと思うんですよ。芳子さんは芳子さんで、先生が連れてこられた患者さんのケアをしている。だから、お二人が夫婦として過ごす時間はきっと限られていたんだろうなと想像はします。物事にはやはり必ず光と影の部分があって。芳子さんが病まれるというのは大変きつい影の部分かもしれないんですけれども、同時に病まれることによって山本先生との時間を回復したという側面もあるのかなと僕には感じられました」

認知症になってしまった芳子さんは、自分の言葉であまり伝えられない状態になっている。だが、両の手をさすり合わせる仕草や言いよどんでいる感じで何かが私たちに伝わってくる。

「その辺が映画というメディアの強みです。私たちのコミュニケーションは、普段、言葉だけでしているように錯覚していますけれども、全然そんなことはない。声のトーンだとか間だとか表情だとか、非言語的なことで、ものすごい情報量を伝えているんですよね。だから、今回、取材は全部このようにスカイプを通じてやらせてもらっているのですけれども、やはりどこかもどかしいのは対面でお会いする時と比べて情報量が少ないからですよ」

「映画というのは人間の非言語的なコミュニケーションを克明に記録し、表現することが可能なメディアなので、芳子さんの声なき声みたいなものを、表情やたたずまいやモードみたいなものから読み取ることができる。これが映画でよかったなと思います」

だからこそ、本当は大きなスクリーンで見たい、見てほしい作品ですね。

「おっしゃる通りです。だから今回のデジタル配信で見ていただいて、コロナの状況が改善して映画館が再開したら、ぜひとも劇場でもう一回見てほしい。配信か劇場かではなく、両方とも見てほしい。今回は本当に劇場に生き延びてもらうためのつなぎの措置ですから。今回見て気に入ってくださった方は、もう一回、劇場で、必ず公開しますから、見てほしいんですよね」

■人と出会い、集まって話す時間の素晴らしさを再確認

新型コロナウイルスが終息した後、コミュニケーションの現場は変わるでしょうか?

「僕自身は、実際にお会いしたり集まったりすることの良さを痛感する日々なので、これによってオンラインで全部済ませる世の中になるのではなく、逆のことが起きるのではないかと思っています。人と実際に会うということは、何て素晴らしかったのだろう、映画館に行くということは、何て楽しく、愛おしいことだったのかということを、今皆さん痛感する日々なんじゃないでしょうか。僕自身がそうだから」

「一期一会。ドキュメンタリー映画を撮っていると、それはいつも思うことです。『精神0』という映画は、この時期に、この出会いでないと撮れなかった映画です。すべて本当に1回限り。だからこそ一つひとつの出会いや瞬間を、大事に大事に生きないといけないんだなということを、毎度毎度思い知らされます。いつまでもあると思っていてはいけないんです。現実は、毎秒毎秒変化する。繰り返しはないんです」

©2020 Laboratory X, Inc

想田作品によく出てくる動物は猫。今回も例によって猫が登場している。

「あの猫、結構、警戒心が強い猫だったんですが、悠々としているところがすごいなとリスペクトしていました。山本先生ご夫妻とも重なり合うというか、恐らくは高齢で、恐らくは患っている部分があって、でも飄々(ひょうひょう)と、堂々と生活をしている。ああいう猫にバッタリと道端で会ったんですが、これもご縁だなあと思いました」

■次回作(観察映画第10弾)に出会うためにも

次の作品はもう準備されていますか? 「実は、観察映画第10弾の撮影はもう終わっています。後は編集するだけです。次回作を公開するためにも、この作品がうまく行ってくれないと。第10弾は、観察映画第8弾『ザ・ビッグハウス』撮影のためにミシガン州デトロイトにいた時に、たまたまの出会いで50年ぶりに刑務所から出てくる人の存在を知り、その人が刑務所から出てくる瞬間からカメラを回させてもらいました。1967年に刑務所に入っておられるので、60年代のシャバしか知らない。そういう人と一緒にいながらカメラを回すことが本当に不思議でした。撮影中の僕を見て、その方ももちろん不思議がっていて『SF映画のようだ』と言っていました。撮影した素材はニューヨークの自宅にあるので、編集に手を付けることはできません。帰ったら編集を再開します」

想田監督の次回作に出会うためにも、映画にかかわる人たち全員がこのコロナ禍を生き延びてほしいと願わずにはいられない。(大田季子)

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