試行錯誤しながら劇場から音楽を届けたい

兵庫県立芸術文化センター
芸術監督 指揮者
佐渡 裕 さん
6月19日、KOBELCO大ホールで撮影

演奏家にとって音楽をする場が失われたことは非常につらいことでした。兵庫芸術文化センター管弦楽団(PAC)メンバーの顔すら見ていなかった中で今日、デモ演奏ができたことは大きな喜びです。奏者間に今までにない距離ができて「音が集まってこない」「隣の奏者の音が聴こえない」などの課題はありますが、自分たちができる最良の音を求めていこうという気持ちが強くなりました。

今回、自分たちの劇場に自分たちのスタッフがいる意味を改めて考えました。心の広場であるべき劇場から何か発信できるものはないか。会議をした時、スタッフやメンバーからこんなことができます、こんなことがしたいと希望が出ました。無人のホールで僕が指揮し、PACメンバーが自宅で演奏した動画を編集した「HPACすみれの花咲く頃プロジェクト」では、一般から約400人の投稿があり、全32編を発信。約1カ月半で約21万人が視聴してくれました。ピアニストの菊池洋子さん、ニュウニュウさん、さだまさしさん、立川志の輔師匠も動画を送ってくれました。メンバーの自選曲を無観客演奏した動画を配信する「Meet‐HPAC リサイタルホールから」も週1回以上届けるなど、SNSやネットでの配信にも力を入れていきます。

休館中にはもっとわかりやすく発信しようと、「みなさんにホールでお会いできる日を心待ちにしています」というポスターを商店街に貼ってもらい、高松公園には横断幕を掲げました。今月公演予定だったオペラ「ラ・ボエーム」の中止には、「すごく残念です」という手紙も随分もらいました。イタリアで作っていた舞台装置と衣装が完全にストップして間に合わない、合唱の練習ができない、海外からの歌手たちが来日できない、と厳しい中での苦渋の決断でした。「ラ・ボエーム」は2年後に上演する予定です。

僕自身は5月から夏にかけて、ウィーンで演奏会やヨーロッパ各地で音楽祭の予定がありました。でも今は芸術監督をしている兵庫で、こういう時だからこそ発信したいとの思いを強くしています。音楽はどんな時も人を励まし、癒やします。今年はベートーべン生誕250年の記念イヤー。奏者間に距離をとることが必要になりましたが、大ホールの4面舞台を生かせば、「第九」のような大編成のオーケストラができるかもしれない。スタッフやメンバーと試行錯誤しながらファンの人たちと一緒に音楽会を考えていきたい。この劇場に満席のお客さんを迎える幸せな日が再び来ることを願いながら。


高松公園の横断幕は6月いっぱい掲出された




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