75歳、ひとり暮らしの桃子さん。田中裕子が15年ぶりに主演の映画「おらおらでひとりいぐも」が“あっぱれ”な理由とは?

沖田修一監督=10月21日、東京で撮影(提供写真)

【沖田修一監督インタビュー】田中裕子15年ぶりの映画主演作「おらおらでひとりいぐも」が11月6日(金)から全国で公開される。原作は第54回文藝賞(2017年)、第158回芥川賞(18年1月)をW受賞した若竹千佐子の「おらおらでひとりいぐも」(河出文庫)。受賞当時「63歳の新人作家登場!」と大きな話題を呼んだ60万部超のベストセラーの映画化に挑んだのは「南極料理人」(09年)で商業映画にデビューし「横道世之介」(13年)、「滝を見にいく」(14年)、「モリのいる場所」(18年)などヒット作を連発する沖田修一監督。孤独の先に圧倒的な自由を手に入れた“あっぱれ”な桃子さんは、シニア世代の希望の星なのか? 公開を前に、沖田監督に話を聞いた。

【STORY】 1964年、日本中に響き渡るファンファーレに押し出されるように故郷を飛び出し、上京した桃子さん。あれから55年。結婚し子どもたちを育て、夫と2人の平穏な日常になると思っていた矢先、突然夫に先立たれ、ひとり孤独な日々を送ることに。図書館で本を借り、病院へ行き、46億年の歴史ノートを作る毎日。しかし、ある時、桃子さんの“心の声=寂しさたち”が、音楽に乗せて内から外へと沸き上がってきた! 孤独の先で新しい世界を見つけた桃子さんの、ささやかで壮大な1年の物語。

 

――本作との出会いは?

実家の母が一人暮らしになったタイミングで映画化の依頼を受け、不思議な縁を感じた。

母が買って実家に置いてあった原作を読んだが、映画にするのは難しいだろうなというのが第一印象だった。主人公・桃子さんの一人語りで話が進んでいるし、原作では柔毛突起として描かれる桃子さんの心の声をどうやって映像化するのか。脚本を書き進める前に、その辺りを考える時間がだいぶあった。そもそも柔毛突起はCGじゃないと表現できないわけだけど、どうしようかなと考えていた時に、今まで自分がやってきた「俳優さんが演じるのを撮る」という方法で何とか撮れないかなと考えて浮かんだのが、白雪姫と7人のこびとのイメージだった。寂しさ、どうせ、さとりなどの桃子さんの気持ちをキャラクターにすると考えた時に、誰が寂しさを、どうせを、さとりを演じるだろうと考えていたらワクワクしてきて、それが入り口になったのかなと思う。

――寂しさの擬人化では、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎というキャラクターの違う個性的な3人が登場しますね。なぜ3人だったのでしょう?

イメージしたのは白雪姫と7人のこびとだけど、画面に7人が登場すると多すぎて何を見ていいのかわからなくなる。茶の間で、ちゃぶ台を囲んで桃子さんと会話ができる人数なら3人がいいなと。いろんな選択肢がある中で、それを選びました。寂しさは桃子さんであると衣装でもわかってほしかったから、衣装さんに無理を言って同じものを4人分用意してもらいました。

――チラシで桃子さんが着ているベージュの毛糸の手編み風のチョッキ、印象的でした。寂しさたちが言う「おらだば、おめだ」という言葉もジャズのセッションのようで耳に残りました。

東北弁のイントネーションは確かにジャズっぽいですよね。

――主演の田中裕子さんは、どのように出演を快諾いただけたのですか?

いくつか気にされたシーンをどう描くのかということを説明した後で、それだったらということで出てもらえることになりました。実年齢65歳の田中さんに75歳の桃子さんを演じてもらいましたが、実年齢が近い他の誰かにお願いするよりも田中さんに演じてもらう方が絶対に魅力的な映画になると確信していました。「いつか読書する日」(2005年、緒方明監督)、北海道テレビ放送の開局40周年記念スペシャルドラマ「歓喜の歌」などで拝見した生活の機微のにじませ方にほれ込んでいましたので。

幸い、ご本人も面白がって演じていただけました。病院でもらう湿布薬を上手に貼る桃子さんを画(え)にしたら面白いなと思ったら、田中さんがもはや名人芸のような演技をしてくださった。すごい枚数を家に持って帰って、どんなふうに貼ったら一人暮らしの桃子さんらしいか、何度もトライされたそうです。図書館で少年と目が合うシーンも忘れ難いですね。

自分の映画に田中さんが出ていることが、僕は単純にうれしかったです。映画の中でチャレンジングなことをいっぱいやる中で、田中さんが僕の道化みたいなことに付き合ってくださった。この映画のために僕が体を張った部分を田中さんはわかってくれて、それに乗ってくださった。ここに映画を作ろうとしている若い監督さんがいると温かく見てくださっていたのではないかなと思います。

撮影中の沖田修一監督

――プレスシートの田中さんのコメントに「監督が撮影中に一喜一憂される姿が目に焼き付いています」とあります。どんな場面で一喜一憂されていたのですか?

(照れながら)僕は結構顔に出ちゃうんですよ。現場でもゲラゲラ笑いながら撮影したりとか、自分が登場人物になったような感じになっちゃうので、よく俳優さんから気持ち悪がられます。若い時の桃子さんを演じる蒼井優さんと夫になる周造さん役の東出昌大くんのプロポーズのシーンでは、カメラ横でプロポーズの言葉をうっとりして聞いて(笑)、うんうんとうなずいたりして。そういう無意識にやってしまう感情移入を、田中さんが近くで見ていて面白がっていらしたんじゃないかなと思います。

田中裕子の歌声も楽しみ

――田中さんは続いて「私のこれからの日々に監督のあの姿を思い出してニヤニヤできる事が、私にとっての小さな春になりそうです」とコメントしています。年を取って昔の些細なことを思い出してニンマリすることが増えることは、私自身も実感していて悪くないなと思っていることなのですが、監督が作詞された主題歌、ハナレグミが歌う「賑やかな日々」に出てくる「この家は寂しさで賑やかだ」という言葉に通じるものがありませんか?

あの言葉は、撮影が終わった後で、ふと浮かんできた言葉なんです。宣伝コピーに使えませんかと提案したりもしていました。

この映画は心の中のできごとを中心的に描いた作品なので、行動範囲が広くない。病院や図書館、墓参り、それだけです。その中で、心の葛藤みたいなものを映画にするのに、ふすまを開けるとディナーショーが始まるというような、脳内エンターテインメントみたいな雰囲気にすると面白そうだなと思って、田中さんには歌も歌ってもらいました。それらも含めて「寂しさで賑やか」なのかな、と。

20代の桃子さんは蒼井優が演じた

――20代、30代の桃子さんは蒼井優さんが演じていますね。

キャスティングには本当に満足しています。蒼井さんの声がいいんです。尊敬する田中裕子さんと同じ人を演じるということで、現場で蒼井さんは田中さんの顔を見ながら演じていました。75歳の桃子さんの脳内の声も、スタジオ録音ではなく現場で蒼井さんが当てていきました。そんなふうにできたらいいなと思っていた通りにしてくださった。宮藤官九郎さんが「セットの隅っこで台本片手にうずくまっている蒼井さんの姿に涙が出そうになった」とコメントしてくれていますが、ふと目をやると「あ、蒼井さん」ってそこにいることに驚いたり。蒼井優さんが、ですよ。

――原作者の若竹さんは「この映画は若い人たちにぜひ見てほしい」と言っていますが、沖田監督はどんな人たちに見てもらいたいですか?

どの世代の人が見てもいいと思います。僕は息子の視点だから、桃子さん世代の母を持っている人たちに見てほしい気持ちはありますが。自分でやりたいようにやった作品で、いろんな楽しみ方がある映画だと思っています。いろんな角度から桃子さんを見た意見が出てくると思う。全然わかんないという人も、すごく沁みたという人もいるだろう。反応が楽しみですね。

――ありがとうございました。

公式ホームページはコチラ https://oraora-movie.asmik-ace.co.jp/

©2020 「おらおらでひとりいぐも」製作委員会(配給:アスミック・エース)




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