「その話、天草だったらありえるよ」で始まった京都芸術大学「北白川派」第7弾「のさりの島」6/11公開

「真冬の天草で長期間のロケを引き受けていただいた原知佐子さんには本当に感謝しています。完成試写会にご招待したけれど体調不良で来られず、DVDを送って見ていただけたと安心していたけれど、手違いで見ないままに亡くなられたと聞きました。それは非常に残念です。藤原季節さんは気に入ってくれたそうです」と話す山本起也監督=5月10日、大阪市内で

映画学科(映画製作コース・俳優コース)のある京都芸術大学(旧・京都造形芸術大学)が、持てる機能を駆使しながら、プロと学生が協働して1年で1本の映画をつくって劇場公開を目指すプロジェクト「北白川派」第7弾「のさりの島」(山本起也監督)が、6月11日(金)から京都シネマで公開される。心地よい風に身を委ねたような余韻が残る作品は、シネ・リーブル梅田で7月16日(金)から、シネ・リーブル神戸でも7月23日(金)から公開が予定されている。

山本起也監督は、北白川派第3弾、高橋惠子主演の「カミハテ商店」(2012年)から2度目のメガホン。映画のタイトル「のさりの島」は、京都芸術大学副学長で本作プロデューサーの小山薫堂さんが撮影に入る直前に提案したものだという。「薫堂さんは僕と天草をつないでくださり、5度にわたって書き直した脚本にも、その都度アドバイスをいただいた。自分一人ではこの本は書けませんでした」

山本監督が最初に熊本県を訪れたのは2017年11月。「薫堂さんの大学から来た者です、と名刺を出して、県のくまモンチームを訪ねて映画の話をしたら親身になって話を聞いてくれ『薫堂さんの故郷の天草に行かれたらどうですか?』と紹介されて行ったのが最初です。翌年3月に薫堂さんが地元の人と集まる機会を作ってくれ、大体の筋を話したら『天草だったらそんな話あり得るかもしれない』と言われたので、ここでやるしかないと。そこから1年足らずでクランクインなので、脚本も資金も相当頑張って作りました」

コロナ禍で公開延期の1年でしっくりきた「のさり」の意味

撮影は2019年2月後半から3月にかけて19日間のロケを行い、年末に完成。当初は2020年7月に公開予定だったが、コロナ禍で約1年延期された。静岡県出身の山本監督は公開が延期された間に、なじみのなかった「のさり」という天草地方に伝わる古い言葉が、やっとしっくりくるようになったという。

「僕が作ったのは、のさっている人たちの映画だったんだな、と思えてきたんです。天草の人たちは例えば、ある人が競馬で当てたら『のさってるね』と言う。また、ある家で不幸が続いたら『あのうちはのさっとるばい』と言う。ついていることも、ついていないことも同様に『のさっとる』。大きなものの中に生かされている人が、来るもの、訪れるものに出会う。すべての出会い、出来事には意味があって、大きなものの中でもたらされている。コロナで公開が延期になった状況も『これものさりばい』と思うと、大きい気持ちでいられた。つらいのは自分だけじゃない、と」

オレオレ詐欺の旅を続けている若い男(藤原季節)がフェリーでたどり着いた天草のさびれた商店街の入り口。案内板にある店の電話番号に「もしもしばあちゃん、俺だけど……」と掛けた電話に「あぁ、将ちゃん、早く帰っておいで」と応じたのは楽器店を営む老女(原知佐子)。招じられるままに男は楽器店2階の自宅に上がり込み……。

遺作となった原知佐子の名演技

これが遺作となってしまった原知佐子の演技が秀逸だ。天真爛漫な少女のような表情を見せるかと思えば、ひょっとしてボケてる?と思わせたり、極めて冷静でまっとうな言動を見せたり……。見る者は「見ず知らずの男を孫と間違えてしまうことなんて、本当にあるんだろうか?」と疑いながらも引き込まれてしまう。

「映画で使われている大火の記録映像は、リサーチ時に地元の人が『こんなん出てきたけど』と見せてくれた映像です。すごいのが映っていた。地元の8ミリ愛好家が大火の様子だけでなく、復興の様子も撮って1本の作品にしていた。その方はすでに亡くなられていて、ご遺族も天草にいらっしゃらなくて、映像は市の映像アーカイブに寄贈されていたので使うことができました。地元でも映像の存在を知らない人が多くて、映画館でのイベントのシーンでエキストラの地元の皆さんに見ていただいたら、本当にびっくりされ、涙を流す人も。大火で家が全焼した人もいらしたので」

山本監督は、ロケ地である天草を脚本に寄せて撮ったのではなく、監督自身が天草に距離を詰めて行って映画を作った感覚があるという。

「普通だったら映画は、現実にあるものを架空の嘘話に捻じ曲げて作ると思うが、映像が見つかったことで大火の話も入れることができた。あったものが一瞬にしてなくなった。逆に、シャッターだらけの商店街で耳をそばだてていると、息遣いが聞こえてくる気がする。

僕たちは、ものごとがあるかないか、マルかバツか、情報に追い立てられて右往左往しているけれども、もっと感じることで豊かになる世界があるのではないか。世界はそこにあるのではなく、僕たちが感じているだけ。感じている自分の世界を豊かにすることでしか、世界は豊かにならない。

そういう感覚でいると、本当と嘘の境目がなくなっていく。本当の話をたどっていくといつの間にか嘘になったり、嘘の話が本当になったり。すべてが地続きになっている世界観を描いてみたいというのがありましたね」

柄本明が言った「迷子の映画」の意味とは

山本監督は、宮地岳で案山子づくりを指導する能面師の役で出演した柄本明さんが語った映画の感想を人づてに聞いてうれしかったという。「僕は好きだよ、と言ってくださったそうです。どんなところが?と、その人が聞いたら『迷子の映画だからだよ。迷子って気になってずっと見ちゃうだろ? この映画見ちゃうだろ?』って言ってくださったそうです。天草でのロケの間も柄本さんはずっと楽しそうにされていた。数シーンしか撮影はなかったのに。撮影時に柄本さんから聞いた言葉で面白かったのは『本番!』って言われた途端につまんなくなるという言葉。結局、理詰めで構築していくものはつまんないんでしょうね。コロナで人とのつながりが難しい状況だからこそ、この映画で『のさり』という精神的な豊かさを感じてもらえたら」

 

プロデューサーの小山薫堂さんはプレスシートで「のさり」という言葉が示すものを「自分の今あるすべての境遇は、天からの授かりものである、という考え方。目の前にあるものは否定せずに受け入れる――天草の優しさの原点がそこにある」と解説している。

「のさりの島」公式サイトはコチラ www.nosarinoshima.com

©北白川派

 




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