少女の成長物語をオール青森ロケで描く横浜聡子監督最新作「いとみち」6/25公開

「俳優 亀岡拓次」(2016年)などでも知られる横浜聡子監督(左)と主演の駒井蓮さん=6月15日、大阪市内で

3月に開かれた第16回大阪アジアン映画祭でグランプリと観客賞をダブル受賞した横浜聡子監督の最新作「いとみち」が6月25日(金)からテアトル梅田、イオンシネマシアタス心斎橋、京都シネマで、26日(土)からは元町映画館でも公開されている。原作は越谷オサムの同名小説「いとみち」(新潮文庫)。コロナ禍の昨年9月16日からの3週間、オール青森ロケで制作した作品が審査員や観客のハートを射止めた一番の要因を、横浜監督は「俳優がいい!」と言い切る。主役の相馬いとを演じた駒井蓮さんと監督に話を聞いた。

 

初めて触った津軽三味線を見事に演奏

顔合わせ前の駒井さんの印象を、横浜監督は「出演作『名前』などを見て、まだ都会のアーバンな感じに染まり切っていない、青森で育っていた痕跡がちゃんと見える方だと思った」という。会って驚いたのは背の高さ。原作のいとは小柄でチャキチャキしているキャラクターだが、駒井さんは身長168㎝。「自分の長い手足をどう生かしたらいいかわからなくて、でくのぼうのようにその空間に立って困っている、いとの姿が浮かんだ。それで手足が長いのも、新しいいと像として面白いなと思った」。

「それ、言われたことがあります。ある舞台のオーディションで、手足をまだ使いこなせていない、そのぎこちなさがいいなと思ったって。いまだによく使いこなせていないかも」と笑いながら応じた駒井さんは映画で、その長い手足を使って見事な津軽三味線の演奏を披露する。

「弾いたのは初めてでした。音楽は好きなので、楽器を演奏する役をやってみたいなと思っていたんですが、津軽三味線は予想外でした。全く触ったことがなかったので未知で、何が良しとされているのか、そんな基準もわからなかった。なので、そこから学びました。

祖母ハツヱ役の西川洋子さん(名人・高橋竹山の一番弟子)は、自分が若い時と弾き方が似ているとおっしゃってくださった。『ちょっとせっかちなところも似ているから、もうちょっとゆっくり弾きなよ』とアドバイスをもらい、私を見ていると自分が若い時に三味線持って弾き始めた頃のことを思い出すともおっしゃってました」

一度三味線の練習から遠ざかったいとが再び撥(ばち)を手にして弾き始め、祖母と2人でアイコンタクトを取りながら楽しそうに「津軽じょんがら節」を演奏するシーンも印象的だ。「一緒に弾きながら、西川さんの人生をすごく感じていました。どういう人生を歩んできて、どんな思いで三味線を弾いてきたか。直接お話ししていただいたし、私も知ってはいたんですけれど、相馬家のハツヱという人を通しながら、西川さんが津軽三味線と一緒に歩んできた人生が重なりました」と駒井さん。

横浜監督は「祖母役は、三味線を弾けて津軽弁をしゃべれる人でないといけなかったので、西川さんしかいなかった。だから私は、西川さんと駒井さんが会って、どういうふうに二人が関係性を作っていくのかを、じっと見ていただけ」と話す。

青森出身者でも「聞き取れるが、しゃべるのは難しい」といわれる津軽弁。まして、関西人にはなじみがない。冒頭に紹介した観客賞の受賞は、そのハンデが邪魔にならなかったことの証明でもある。「俳優は言葉だけで表現しているのではなく、全身を使って何かを伝えようとしています。全体を見れば正しい意味ではないかもしれないけれど、何かは伝わる。正しい意味のわからなさが物語を損なうことはないだろうと考えました。間違って受け止められても、私は全然いい。正しさだけが正義じゃないので」と横浜監督。

父親役は豊川悦司「役も本人もお互い頑固」と駒井

幼い時に母を失ったいとは、祖母・相馬ハツヱと東京生まれの民俗学者の父・相馬耕一(豊川悦司)と母の実家で暮らしている。青森のメイド喫茶でアルバイトを始めた娘を父は心配するが……。「豊川さんとは、いとと父親という関係もあり、現場ではあまり話しませんでした。でも、一緒に撮影している時に、お互い頑固なんだなと思いました。役柄でも頑固ですが、豊川さん自身も私も。芝居しながら互いが頑固なんだなということはとてもよくわかりました」と駒井さんは言う。その頑固な父と最後に岩木山に登るシーンは、いろんな人や出来事との出会いを糧に、いとが成長したことを象徴している。彼女の手足はゴツゴツした岩をつかんで、たくましい。

あっぱれな女性たちとの出会いでたくましく

もう一つの印象的なシーンはメイド喫茶でのライブの前、先輩メイドのシングルマザー幸子(黒川芽以)にいとが髪を梳いてもらっているシーン。だんだん変わっていくいとの表情を横浜監督は長回しで丁寧に撮影した。監督は「どのように表情が変わっていくのかは、シナリオを書いている時にはわからなかった」と言うが、駒井さんの演技は見事だった。

「私の中では、いととお母さんとの関係がいつもテーマにありました。津軽三味線とか津軽メイド喫茶とか、いろんなものが盛りだくさんな映画なので、そこに(取材で)触れられることはあまりありませんでしたが、撮影している時も、いとの頭の中には常に母親のことがありました」と話し始めた駒井さんの横で、監督は目を見張って主役を見つめた。

「いとは母親の記憶があまりない子なので、自分の想像でしか母親の存在を埋められない。いとの不安定さ、いろんな欠けている部分が、いろんな出会いの中で埋まっていく。そこを通して、母親との関係自体もだんだん埋まっていく。それは何か人が成長する時に必要なもので、いとが本当に欲していたものなんじゃないかなと。あのシーンを黒川芽以さんとやれたのは本当に良かった。ライブシーンを撮り終わった後、深夜3時ぐらいに撮ったんですけれど」

そう、これは “Girls Be Ambitious!” 少女いとの成長物語。登場するあっぱれな女性たちに感化されて、未熟ないとがたくましく育っていく。

登場人物だけでなく、メガホンを取った横浜監督も、いと、ひいては駒井さんを成長させたあっぱれな女性たちの一人といえるだろう。

物語の冒頭に出てくる青森空襲の話は、青森出身の横浜監督が映画で付け加えたサイドストーリーだ。「青森空襲は今、地元の人も知らない人がすごく多い。体験者もだんだん高齢になって語り継ぐ人もいなくなるので、事実として皆さんに知らせたいという思いがあった。原作でメイドカフェがある青森市内の場所も昔、空襲で被害があった場所だった。それで、なんとなく、やんなきゃ、と。いとが知らない世界を劇中で取り入れたいということももちろん思っていた。物語の運びとは全く別のストーリーライン、別の何かをゴロンと映画の中に紛れ込ませたいなというチャレンジでもありました」

作品づくりへのその意欲的な姿勢が「いとみち」全編にみなぎり、役者たちのいきいきとした演技を引き出して上質なエンタメ映画を生み出した。

 ©2021「いとみち」製作委員会




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