11周年の日に「元町映画館ものがたり」出版~人と街、映画のつながりを鮮やかに描く労作

元町映画館の入り口。ロゴには神戸のシンボル、六甲山とポートタワーが。映画ファンは親しみを込めて「元映」と呼ぶ

神戸・元町商店街4丁目にある元町映画館は、大の映画ファンで小児科医だった堀忠さんが発起人となり、賛同者が一般社団法人を作って2010年8月にオープンした。66席+車いす席1席、1スクリーンのミニシアター。コロナ禍の昨年、10周年を機に出版プロジェクトが始動。11周年を迎えた8月21日に「元町映画館ものがたり 人、街と歩んだ10年、そして未来へ」(四六判304㌻、神戸新聞総合出版センター、定価2970円)が出版された。

「一番苦労したのは校正です」と江口由美さん。校正はなんと6校に及んだという。本の表紙イラストは映画「花束みたいな恋をした」のイラストを担当した朝野ペコさん

責任編集にあたったのは、宝塚市在住の映画ライター、江口由美さんだ。「どのようにまとめたらいいのか悩んでいました。ヒントになったのは、本の帯を書いていただいた濱口竜介監督が昨年末、恒例の『ハッピーアワー』上映前の対談(全文は本に収録)で『映画館も結局は人』とのご発言。林未来支配人をはじめ、6人の専従スタッフのライフヒストリーを盛り込み、コロナ禍での奮闘や人と街のつながりを多角的に書くことができました」と話す。

濱口監督が2015年に発表した「ハッピーアワー」は、13年から活動拠点を神戸に移して、ワークショップ参加者たちと週末の稽古と撮影を重ねて製作した5時間17分に及ぶ長編映画だ。ロカルノ、ナント、シンガポールなど各国の映画祭で主要賞を受賞し、フランスでは10万人以上動員したヒット作の封切館は元町映画館だった。そんな縁で、元町映画館では年末の「ハッピーアワー」上映が恒例となっている。

書籍「元町映画館ものがたり」刊行を記念して8月21~27日に濱口竜介監督の初期作品の上映とトークイベントが行われた。25日には濱口監督、林未来支配人、書籍責任編集の江口由美さんが登壇。濱口監督は神戸在住時に何度も元町映画館に映画を見に来ていて、林支配人はじめスタッフがドキドキしていたという話や、子育て時代の江口さんは、支配人になる前の林さんが出身地の西宮周辺でカフェやギャラリーで行っていた上映会に参加して映画の魅力に取りつかれた話などが披露された

同館からは、京阪神の大学生が参加する映画チア部も誕生。映画監督で甲南女子大学教授の池谷薫さんのドキュメンタリー塾を母体に、市民制作者集団「元町プロダクション」もでき、19年には中北富代監督「海の日曜日」が、昨年は京大大学院生の髙木佑透監督「僕とオトウト」が「地方の時代」映像祭で優秀賞を受賞。「僕と~」は今秋、京都みなみ会館、元町映画館、シネ・ヌーヴォで公開される予定だ。

また、新進監督が同館に10周年記念作品を贈るプロジェクトも。昨年末に全編元町でロケした劇映画「まっぱだか」(監督:安楽涼、片山亨)は、同館が配給して京阪神先行ロードショーが始まっている。

それらすべての動きを克明に記し、かかわる人たちの思いがギュッと詰まった労作の詳細は特設サイトで確認できる。元町映画館が人と人、人と映画、人と街をつなぐ場所だということがよくわかり、心を豊かにしてくれる。

 

「元町映画館ものがたり」特設サイト https://motomachieigakanstory.amebaownd.com/

元町映画館公式サイト https://www.motoei.com/

 




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