映画が好きな人、時代遅れ(?)の仕事を愛する人、必見! リム・カーワイ監督「あなたの微笑み」関西で公開

関西での公開の初日には舞台挨拶も=11月8日、シネ・ヌーヴォの入り口で

大阪キタの街を舞台に、この街を行き交うアジアの人たちをビビッドに描いた群像劇「Come&Goカム・アンド・ゴー」 公開から1年。「新世界の夜明け」(2012)、「恋するミナミ」(2013)と前作の大阪3部作のほか、香港、中国、バルカン半島などで映画を製作してきた中華系マレーシア人のリム・カーワイ監督の最新作「あなたの微笑み」。11月東京での公開を皮切りに、関西での公開が12月3日のシネ・ヌーヴォ(大阪メトロ九条)から始まっている。1月14日(土)~27日(金)には元町映画館(各線元町)での上映も決定し、順次、京都、名古屋など全国で公開される。この映画の面白さをどんな言葉で紹介したらいいのだろう? そう自問自答しながらリム・カーワイ監督に取材した。

【リム・カーワイ監督インタビュー】

――とても面白く見たのですが、一言で言うと、どんな映画といえますか?

実在の映画監督が、自作の映画を上映してもらうために全国のミニシアターを歩き回るという話です。エンターテインメントとして見てもらいたいので、最初は笑いがあって、徐々に世の中のシビアさを知ってもらうことになり、最後は感動的なエンディングを用意しています。

コロナで渡航できなかった2021年夏、コロナで影響を受けているアーティストたちを支援する文化庁の「ARTS for the Future!」の助成金を得て撮影しました。

これまで僕は夏になると海外で映画を撮っていました。2年前からバルカン半島で撮っている映画の企画は、映画祭に招待された映画監督がある事件に巻き込まれて、トルコのある村まで行くというロードムービーです。海外に行けなくなったからそれを日本で撮ろうと。バルカン半島からトルコまでの距離は、日本の北海道から沖縄までの距離とほぼ同じ。日本でロードムービーを撮るとしたら、どんな話がいいかなと思って思いついたのが、この話です。2つの中身は全く違うけれど、映画監督のロードムービーというコンセプトは同じ。

日本で、芝居もできて存在感のある映画監督というと、知っている人では渡辺紘文(ひろふみ)さんしかいませんでした。栃木県の大田原に住み、低予算でモノクロ映画を作る以外は何もしていない(笑)。けれど、彼の作品は東京国際映画祭に5作品連続正式出品されています。僕も渡辺さんの映画はずっと見ていて、最近の作品では豚が出てくる「叫び声」(2019)が一番好きだったので、映画の中で取り上げました。

――チラシにある通り“世界の渡辺”なのですね。渡辺さんが着ている「天才ですから」のTシャツはご本人の私物ですか?

違います。文字が大きくデザインされたTシャツを着てほしかったので、撮影前日までに渡辺さんに通販で買ってもらいました。

普段の渡辺さんは物静かで礼儀正しい好青年で、映画の冒頭に出てくる、人に嫌われる、うざい感じの渡辺さんとは全く違う人です。

 

ドキュメンタリーとフィクションのはざまに生じるパラレルワールド

――そうなんですか⁉ 実在の人物が、違うキャラクターを演じている? どこまでが本当の話で、どこからがフィクションなのか、わかりませんね。

実在の人物をベースにして、その人の背景を生かしつつ、フィクションを作っていく手法です。自分にとって、このスタイルは面白い。というのは、映画は2つの性質を持っているものではないかと思うんです。

一つはドキュメンタリーという性質。役者さんを撮っていても、実際の風景の中で撮れば、そのプロセスはドキュメンタリー。だけど、登場人物が芝居したり、ちょっとカメラを意識しただけで恐らく真実を失って、フィクションになってしまう。

劇映画の場合は完全にフィクションと見えるけれど、撮影した時点では一つのドキュメンタリーになっているのではないか。その場の記録でもあるし、役者がその場所でどう動くかの記録でもある。

だから映画はドキュメンタリーとフィクションの間を揺れ動いているものだと思うんです。そういうことはあまり意識されていないけれど、こういう形で映画を作ると少しでも考えてもらえるのかなと。

沖縄で自分を主人公にした映画を撮れと渡辺監督に持ち掛ける金持ち男を演じる尚玄はリム・カーワイ監督作品の常連

―なるほど。

もったいぶっていた自己中心的な映画監督が、沖縄でさらに自己中心的な人物に出会って翻弄され、自作の映画を上映してくれる映画館を探す旅に出る。渡辺さんは演出で、観客が徐々に彼に同情していくように、芝居しています。

 

映画初出演・平山ひかるの大いなる魅力

――ああ、それでだんだん渡辺さんの感じが変わってきたのですね。別府でステキな女性に出会いますね。

はい。平山ひかるさんは映画初出演です。僕は脚本を作ってから撮るわけではなく、現場に行ってシチュエーションを決めて芝居してもらっています。

映画初出演の平山ひかるは、様々な役柄で登場する

――瞬発力が要求される現場ですね。

僕の映画の役者さんたちは慣れていますよ。最初、この作品には女優がいませんでした。尚玄さんが出る沖縄パートを撮影した後で、何か物足りないなと思って、急きょSNSで「女優さんを募集します」と発信したら、すぐにいろいろ連絡が来ました。その中で、あるプロデューサーから「まだ映画に出たことはないけれど、これから大女優になる逸材がいる」と連絡が来たので東京に会いに行きました。

それが平山ひかるさんです。本当にすごくステキな人で、フレッシュで、品もあり、イノセント。インパクトを与えられる女優さんでした。彼女の存在から、またアイデアが生まれた。彼女はミューズです。もともとダンサーなので、ダンスがうまい。それを映画に生かしたいと思いました。

――鳥取砂丘での幻想的なシーンもステキでした。豊岡の江原河畔劇場とか「とど兵」とか、縁があって知っている場所が出てくると、うれしくなります。

ロードムービーなので地方の美しさを見せたいと思いました。渡辺さんと一緒に旅して、地方の美しさや人情に触れる旅する映画です。

去年の夏の終わりから秋の初めごろでいったん撮影を終えて編集し、もう1回、どうしたらいいか考えて、北海道での撮影を追加しました。普段僕は追加で撮影することはないし、予算は使い果たしていたけれど、今年2月に一人でロケハンに行って、すごく辺鄙なところにある大黒座に行って、すごくいいなと思って、映画の結末を思いついたんです。こんなことは初めてでした。

――ラストシーンはグッときました。映画に出てくるミニシアターのうち、豊岡劇場は休館、首里劇場は閉館、小倉昭和館は旦過地区の火災でなくなってしまいましたね。

焼失した小倉昭和館の様子がスクリーンによみがえる

映画には首里劇場(沖縄県)、別府ブルーバード劇場(大分県)、小倉昭和館(福岡県)、ジグシアター(鳥取県)、豊岡劇場(兵庫県)、サツゲキと大黒座(ともに北海道)が登場します。だけど、自主映画とかミニシアターとか、普段映画を見ない人にはあまり通じない言葉だと僕は思っています。

一般の人が持っている映画監督のイメージは、華やかで金持ちで権力を持っている人でしょう。ハリウッドの映画監督や日本でメジャーな作品を手掛けている映画監督は別にして、実際の映画監督、特に自主映画の監督は貧乏で仕事もなくて、ほかの才能もなくて。それでも映画を撮っているんです。

だから、この映画は自主映画やミニシアターを知らない人にも見てもらって、映画にもいろんな種類があるし、映画監督にもいろいろあることを知ってもらえたらいいなと思っています。

――主演の渡辺さんは完成した作品をご覧になりましたか?

はい、見て気に入ってくれました。撮影中は僕もモニターを見ないけれど、役者さんにも見せないので、どんな風になっているか、不安だったと思います。喜んでもらえてよかったです。

 

好きなことをすることが人生を素晴らしくする

――タイトルの「あなたの微笑み」の意味は? チラシには「あなた」の横に「映画」とルビがありますが。渡辺さんが誰かの微笑みに会いに行く旅でもありますよね?

大黒座の館長に歓待される渡辺監督

タイトルの意味はお客さんに考えてもらいたいと思っています。

僕は、映画館は絶対になくならないと思っています。映画を作りたい人も、見たい人もずっといる。だけど一方で、誰も映画を必要としていない。たくさんの作品が生まれて、誰もすべての作品を見ることはできないし、ビジネスとしては成り立たなくなっている。

そんな風に社会の変化で世の中に必要とされなくなって、しかもコロナになってから生き残りが難しくなっている仕事をしている人たちがたくさんいます。そんな人たちに見てもらって、僕はそれでも、好きなことをしていくことが素晴らしいとわかってほしい。

――割に合わない仕事であっても、好きなことをしないと! だって、そのための人生ですものね。日本から海外に渡航できるようになりましたが、バルカン半島で続きを撮影されるのですか?

もう行きました。バルカン半島3部作も、もう今年撮りました。だから来年引退しようかと……

――えっ⁉

大変だから。でも、余裕があったら、また撮りたくなるんですよ(笑)。

――だまされちゃいましたね(笑)。ありがとうございました。(大田季子)

 

「あなたの微笑み」公式サイト https://anatanohohoemi.wixsite.com/official

 

©️ cinema drifters

 

 




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