映画「渇水」 本日6/2(金)全国公開
髙橋正弥監督「子どもの未来に大人ができることを」

作家・河林満の同名小説を原作に、料金を滞納する家庭の水道を止めて回る水道局員と、たった二人で家に残された幼い姉妹、そして停水執行をきっかけに巻き起こる様々な心の物語を描く映画「渇水」が、6月2日(金)から全国で公開される。孤独を抱えながらも姉妹との出会いを通して心に潤いを取り戻す水道局員を生田斗真が熱演。門脇麦、磯村勇斗、尾野真千子ら実力派俳優も顔をそろえた。

監督は根岸吉太郎や宮藤官九郎の監督作で助監督を務めてきた髙橋正弥。重厚な人間ドラマを生み出してきた白石和彌がプロデュースし、カリスマ的人気の向井秀徳が音楽を手がけるなど、さまざまに話題を集める今作について、髙橋監督に話を聞いた。

©「渇水」製作委員会

「渇水」が小説として世に出たのは1990年。監督は2011年頃にこの小説を読んで、滞納者の水道の元栓を締めて回る仕事に専従する人がいることを初めて知った。「貧困や格差、児童虐待などがニュースとして表に出てきた時代です。しかし停水の仕事はずっと以前からあり、20年が経っても問題が解決されず、事態は良い方向に向かっていないと感じました。私が原作を読んで感じたことを、映画を見る人にも感じてほしいと思ったんです」と映画化のきっかけを振り返る。

「渇水」の撮影にあたる髙橋正弥監督

水道局に務める岩切俊作(生田斗真)は、同僚の木田(磯村勇斗)とともに、水道料金を滞納する家庭を訪ねては水道を止めて回る毎日を送る。妻(尾野真千子)や子どもとの関係も行き詰まり、生活は渇き切っていた。折りしも、地域に給水制限が発令されて渇いた街で、岩切は二人の姉妹、恵子(山﨑七海)、久美子(柚穂)に出会う。二人の父は蒸発。母(門脇麦)も家に帰ってこない状況下、停水が刻々と迫る。葛藤を感じつつも岩切は規則に従い停水を執行。その時から渇いていた岩切の心に変化が起き始めるのだった。

「滝のロケ地探しにはこだわった」と髙橋監督は明かした

「水という誰にも身近で必要な題材を、どう表現するか考えました。蛇口から出る水、川を流れる水など、映画の前半では水を強調せず、極力描かないようにしました。それが後半にかけて、水が跳ねたり、ホースから大量に撒かれたり、滝のように勇ましく上から下へ流れ落ちたりする。心の迷いや揺れ、変化を水でどのように映し出すか、そこにこだわりました」と髙橋監督は明かす。

©「渇水」製作委員会

他人が関心がなく、覇気もないまま淡々と停水の仕事を進める主人公・岩切を生田斗真は演じる。「生田さんだったら我々が求める岩切像を表現できると、脚本の及川さん、企画プロデュースの白石さんとも三人が一致してお願いしました」と髙橋監督。依頼に訪ねたのはコロナ禍の最中だったといい、「マスクをした生田さん眼力がすごくて。私たちの話を聞いてくださっている間も、その見返してくる目がとても強いんです。この眼力をどのように生かすか考えました。物語の出だしでは、力ない目をしている青年が、後半になると大胆に『小さなテロ』を起こすまでになる。十二分にすばらしい演技をしていただいたと感謝しています」と称える。

©「渇水」製作委員会

厳しい家庭環境に置かれながらも、映画前半では子どもらしく、屈託のない表情を見せる姉妹が、大人や社会の複雑な事情に巻き込まれ、後半にかけて生活や心情が変化していく様子も見る人の心をざわつかせる。「二人は感受性豊かで、姉妹の関係性をうまく作ってくれたと思います。社会性のあるテーマなので、セリフの説明も重視しましたが、意図をきちんと理解してくれて、とてもいい表現をしてくれました」と髙橋監督は手応えを話す。

©「渇水」製作委員会

映画の冒頭では「太陽の光と空気はタダ。水もタダでいいんじゃないのか」とのセリフが登場。普段は常識と思っている事柄の根っこが実はもろく、同じ世界の知らないところで多様な境遇に置かれている人がいることに気づかされる。社会性のあるテーマを取り上げる背景について、髙橋監督は「角川映画でいうなら『人間の証明』のような作品を10代の頃から見て、その時々の気分を汲み取ってきました。声高に変化を訴えるのではなく、子どもたちのような社会的に弱い人たちにフォーカスを当てつつ、このままじゃいけないんじゃないかという気持ちがずっとあります」と力説する。

企画プロデュースの白石和彌(左)と髙橋正弥監督

特に大きな影響を受けたと明かすのが、上京後、映画学校に入った頃に名画座で見たフランソワ・トリュフォー監督の「大人は判ってくれない」。親に恵まれずに育つ子どもが主人公の名作。映画の最後を、原作と異なり、生きることへの希望を感じさせるシーンで締めたのにも子どもたちへの思いを込められているように映る。「あの映画があったから『渇水』があるとも言えます。コロナや災害など、何かと不安材料が多い時代。未来を担う子どもたちに不安がない社会を提供するために、大人は何ができるのか。そんなことを少しでも感じ取ってもらえればうれしいです」と髙橋監督は語った。

■作品情報
出演:生田斗真
門脇麦 磯村勇斗
山﨑七海 柚穂/宮藤官九郎 池田成志
尾野真千子
原作:河林満「渇水」(角川文庫刊)
監督:髙橋正弥
脚本:及川章太郎
音楽:向井秀徳
企画プロデュース:白石和彌
配給:KADOKAWA
©『渇水』製作委員会

映画「渇水」については下記WEBサイトへ。
https://movies.kadokawa.co.jp/kassui/