音楽と歌声で平和な未来へ大きな虹を
神戸文化ホール開館50周年 「ガラ・コンサート」で開幕

神戸市中央区の神戸文化ホールで5月19日、同ホール開館50周年記念事業の幕開けを飾る「ガラ・コンサート『神戸から未来へ』」が開かれた。世界的に活躍めざましい指揮者の山田和樹を迎え、同ホールを拠点とする神戸市室内管弦楽団と神戸市混声合唱団が、約2時間半にわたって祝宴にふさわしい熱い演奏と歌声を響かせた。

武満徹「系図-若い人たちのための音楽詩-」に乗せて、宇田琴音が語りで聴衆を引きつけた ©小澤秀之

公演の冒頭、舞台に登場した山田和樹は「神戸から未来へ大きな虹をかけたい」とこの日の公演にかける意気込みを披露。武満徹「系図-若い人たちのための音楽詩-」を楽団が大田智美のアコーディオンとともに演奏し、俳優の宇田琴音の谷川俊太郎の詩を楽曲に乗せて語りかけた。詩には終盤に海の情景が描かれ、宇田の透明感のある語りが、ホールを神戸らしい空気で包んだ。

続いては、大澤壽人の「ベネディクトゥス幻想曲」が聴衆をひきつけた。

重厚なスケール感で聴衆に迫った「ベネディクトゥス幻想曲」 ©小澤秀之

戦前から戦後にかけて活躍した神戸市出身の作曲家が戦時下の1944年に書いた約30分にわたる大曲。早くから欧米で才能を評価されながらも、戦争が影を落とし、戦後にラジオ番組(公開収録を含む)で演奏された以外は長く演奏される機会がなかった曲だったが、大澤も教壇に立った神戸女学院の生島美紀子非常勤講師らの研究によってよみがえり、今回、単独の演奏会では世界初の上演が実現した。

高木和弘がバイオリンで魅了した ©小澤秀之

オーケストラに、バイオリンの独奏、さらに混声合唱が加わる重厚な曲には、楽団首席コンサートマスターの高木和弘がバイオリンソロで参加。機敏で情感あふれるバイオリンの響きに、ミサの典礼文を読み上げる合唱団の力強い歌声が組み合わさり、大澤の心の叫びが平和への願いとなってホールにこだまするようだった。

演奏を前に山田は「1940年代に日本人がこんな曲を書いていたとは驚きました。彼のバイタリティーと、そんな名曲を一生懸命に掘り起こしてくださった方々に頭がさがります」と告白。音楽を作るのが人間なら、それを受け継いでいくのも人間。脈々と続く人の営みの大切さ、そんなかけがえのない日常を壊す戦争の愚かさを考えた。

前半の最後は合唱団による武満徹「『うた』より」。そして後半の最初は、神戸出身の作曲家・神本真理が書き下ろした「暁光のタペストリー」を楽団が初演奏して始まった。神本が「幼少期に音楽と出会った時の感覚を大切にしました。音楽にふれると面白い世界があることを知ってほしい」と紹介した通り、金管楽器や打楽器を効果的に使った、遊び心と色彩感覚に満ちた曲に聴衆は聞き入った。

最後は子どもたちの元気な歌声で締めくくり、指揮の山田和樹も満足そうな表情を浮かべた ©小澤秀之

最後は、楽団が演奏する山本直純「えんそく」に合わせて、この公演のために特別編成された神戸文化ホール50周年記念児童合唱団が元気いっぱいに舞台に並んだ。表情豊かに、全身を動かして発せられる子どもたちの歌声はエネルギーに満ち、記念の夜を温かく和やかな雰囲気で締めくくってくれた。

山田は「ここ数年、コロナでずっと小さくなっていたので、山本直純さんの言葉を借りて『大きいことはいいことだ』と今こそ言いたい」と語り、子どもたちと手を重ねて、公演の成功を称え合った。確かに、子どもたちがマスクなしに声を張り上げているのを見たのは随分と久しぶり。歌が遠慮なく歌えて、気兼ねなく音楽に親しめる。そんな平和な日常のありがたさをかみしめながら、大きく膨らんだ心と一緒に会場を後にした。

ロビーでは10月に上演される「緑のテーブル2017~神戸文化ホール開館50周年記念Ver.~」の紹介があり、特別出演する貞松融さん(左)も駆けつけた

記念事業は今年度は「港町讃歌」、24年度は「劇場讃歌」、25年度は「人間讃歌」をテーマに3年計画で続く。10月にはドイツの振付師クルト・ヨースによる反戦ダンス作品「緑のテーブル」に着想し、神戸を拠点に活動する岡登志子が新創作した「緑のテーブル2017~神戸文化ホール開館50周年記念Ver.~」を上演。来年1月には筒井康隆の小説を舞台化した「ジャズ大名」も予定されている。




※上記の情報は掲載時点のものです。料金・電話番号などは変更になっている場合もあります。ご了承願います。
カテゴリ: エンタメ