コッペガニと地酒で舞鶴の夜はふける
【割烹 松きち】京都府舞鶴市

関西・オンナの美酒佳肴

 

コッペガニと地酒で舞鶴の夜はふける

【割烹 松きち】京都府舞鶴市 

 

 京都府舞鶴市は、1901年に旧日本海軍舞鶴鎮守府が置かれ、倉庫や造船所など海軍の施設が数多く建てられた。これら赤レンガの建造物は一部は観光施設として公開されており、今も近代化の道を歩んだ明治時代の力強さを漂わせている。
 舞鶴湾に面した港町、東舞鶴の夜は静かだった。が、点在する居酒屋には明かりがともり、スナックからはカラオケの音が漏れ聞こえる。街角で機嫌よくはしゃいでいる若い人の姿もある。お酒を楽しむ人の居場所があるのはいい町だ、などと一緒に行った友人と話しながら店に向かう。

 舞鶴に赴任した友人が案内してくれた店は「割烹 松きち」。のれんをくぐると、おいしい料理屋特有のいい香りがした。玄関の水槽には、旬の松葉ガニが悠々と足を伸ばしている。手前の部屋はカウンターが8席。奥には靴を脱いで上がる小上がりや個室がある。

 創業は1970年。京都市内から移り住み、地元の料亭・松栄館で料理人をしていた初代が独立開業した。今は息子の山下弘さんとその長男の寛晶さんが、腕をふるっている。
 「昭和17、18年ごろ、松栄館にいたときに海軍工廠の高官の弁当を作っていたそうです。海軍関係者が多く、会合や接待でにぎわっていたのでしょう」と寛晶さん。お酒をすすめながら、にこにこ笑顔で料理の説明や舞鶴の話をしてくれる。

 

コッペガニと肉じゃが
コッペガニ(中央)と肉じゃが(手前左)

 

 はじめに出てきたのはコッペガニ。丹後ではズワイガニの雌、セイコガニのことをこう呼ぶ。味噌の横が内子(卵巣)で、成熟した卵が外子だ。味噌の濃厚な味に、内子と外子の独特の食感、そのまま食べてもうまみがある身を、皿の上に取り出して三杯酢を少しだけ付けて味わうと、たまらなくおいしい。コッペガニの漁期が終わる12月末までの旬の味だ。

 丹後にも良い蔵元があると聞いて、舞鶴・丹後の地酒冷酒飲み比べセットをいただく。ハクレイ酒造の酒呑童子・山廃本醸造、同じく香田・特別純米酒、池田酒造のまいづる吟醸純米。3種類の酒はそれぞれ原料米の種類が違い、味は異なるが、どれもするりとのどを通って魚料理によく合う。

 

舞鶴・丹後の地酒冷酒飲み比べセット
舞鶴・丹後の地酒冷酒飲み比べセット

 

 続いて漁獲量の多いサワラ。そばと一緒に温かいだしをはった信州蒸は、焼いた鯛の骨からとっただしのうまみが胃袋に染み入る。
 焼き物は塩をして一晩干した自家製ササガレイとアキイカ(アオリイカ)。風が強くて寒い日に干すからうまみが出るそうだ。表と裏に隠し包丁を入れたササガレイは、手で身を割くと、するりと骨が取れる。新鮮な魚は干物にしても肉厚で身がやわらかく、その味はたまらない。

 さりげなく出された、かまぼこに箸が止まる。弾力があって味もいい。聞けば、舞鶴かまぼこは、魚の身を4割以上入れること、二段蒸しと呼ばれる独自の蒸し方をすることが義務付けられており、地域ブランドとして味と品質が守られているそうだ。

 おまかせコースに肉じゃがの小鉢が付いていた。たしかランチで食べた中華料理にも……。聞けば、海軍舞鶴鎮守府初代司令長官・東郷平八郎が、英国留学時に食べたビーフシチューの味が忘れられず料理人に作らせた。そのとき、「じゃが芋、玉ねぎ、人参を煮たもの」と伝えられた料理人は砂糖としょうゆで味付けたという。本来の味とは違ったけれどおいしくて、甘煮と名付けられて海軍のメニューに加わった。これが元祖肉じゃが。そんないわれもあって、肉じゃがは食卓に欠かせないらしい。

 

割烹 松きち
割烹 松きち(撮影:Japan info)

 

 味、雰囲気ともに良い店だった。そして、料理の説明と地元の話題が、旅行者の好奇心を十分満足させてくれた。京都駅から特急に乗って、また別の季節にも行ってみたい。

 


◆ MENU
【昼】造り定食1,650円、蟹御前3,300円
【夜】コース6,600円~
舞鶴・丹後の地酒冷酒飲み比べセット2,000円

◆ Data
割烹 松きち
電話:0773-63-3595
住所:京都府舞鶴市字浜150
営業:11:30~14:00、17:30~21:00
休み:不定休(要電話確認)


◆ Writing / 松田きこ
(株)ウエストプラン代表。兵庫県西宮市在住。食・観光・人物取材に日本中を飛び回る。ライター歴20年以上。編著書「神戸・阪神間 美味しい酒場」「くるり西宮・芦屋・東灘・灘」「くるり丹波・篠山」他
http://www.west-plan.com/