真冬に出合った新鮮な筍と熊肉に舌鼓
【是しん】大阪市

関西・オンナの美酒佳肴

 

真冬に出合った新鮮な筍と熊肉に舌鼓

【是しん】大阪市 

 

 西天満・裁判所のあたりはいい店が多い。その中でお気に入りの一つが「是しん」だ。初めて訪れた時、秋の料理をいただいた。季節が変わって12月、一つの仕事の打ち上げを兼ねて冬の料理を食べに行った。オフィスビルの地下1階。のれんをくぐるとカウンターの部屋、テーブル席の個室、そしてお茶室もある。

 

是しん
カウンターは店のポリシーがうかがえる特等席

 

 予約の際に「カウンターでもいいですか」と言われて、3人で「願ったり!」と喜んだ。料理人さんの真剣な顔、会話、次に出てくる料理の気配を感じられる特等席だ。
 神戸の老舗料亭から独立した主宰の大石英幸さんと大将の関根崇一さん。実家が静岡の料理旅館だったという関根さんの確かな舌と丁寧な仕事が、おいしい料理を生み出している。料理はお任せのみで、料理が中盤を過ぎると、おなかがふくれてくる。とにかく品数が多くてボリュームがあるのだ。

 

付出は筍の焼き物
付出は筍の焼き物

 

 はじめのひと皿は筍(たけのこ)の焼き物。小ぶりの筍は鹿児島産で、土壌改良のために竹林の土を天地返しした際にわずかにとれたものらしい。冬の筍はとっても香ばしく、新鮮な香りがふわっと広がった。
 そして、「いいのが入りましたから」と、出されたのは熊の肉。薄切りにして白味噌の小鍋でしゃぶしゃぶでいただく。おそるおそるだが、弾力のある肉にさっぱりした旨み。白味噌ベースのダシがおいしくて、あっという間におなかのなかへ。

 

アンティークの酒器で新政を
アンティークの酒器で新政を

 

 酢の物は、柚子(ゆず)釜の中に白子をカブで巻いてジュレをかけたもの。酒は今をときめく新政酒造の陽乃鳥。時代の先を行くと評判の新政の酒が入った酒器は、リキュール用のポットとカップで、1900年ごろに作られたもの。大石さんは自他ともに認める骨董好きで、20代の頃から給料日になると、京都の骨董屋をハシゴしていたそう。だから器・酒器ともに、一つひとつが趣がある。

 違う銘柄の酒を頼むたびに違う酒器が出てくるのが楽しくて、次々に頼んでしまう。
 「いいお酒があるんです」と関根さんがシメに出してくれたのは、花陽浴(はなあび)。小さな赤いベネチアグラスに注がれると、パイナップルのような華やかな吟醸香が立った。精米歩合55%、私にとって初めて飲む埼玉県の南陽醸造の酒だ。普段日本酒をほとんど飲まない同行女子のグラスがすぐに空になったのが、おいしさを物語っている。

 是しんの料理は、「温故知新」「陰陽五行」の考え方を基本にしている。古くからある地方の食材を使ったり、伝統の手法を大切にしながら新しい組み合わせによる味を追求する。とにかく関根さんの料理は発見がいっぱい。全10品(じつはこれより品数が多いときもある)の料理のラストは、抹茶と練り切り「こがらし」でほっとひと息。年の瀬に仲間とともにいい時間が過ごせた。

 


◆ MENU
コース【昼】6,000円(税込み)
   【夜】12,000円(別途税+サ10%)

◆ Data
是しん
電話:06-6364-0118(完全予約制)
住所:大阪府大阪市北区西天満2-9-3 西天満大治ロイヤービル B1F
営業:11:30~14:00(L.O.12:30)、17:30~22:30(L.O.20:30)
休み:日曜、月・水の昼(日・月連休の場合、日曜営業・月曜休)


◆ Writing / 松田きこ
(株)ウエストプラン代表。兵庫県西宮市在住。食・観光・人物取材に日本中を飛び回る。ライター歴20年以上。編著書「神戸・阪神間 美味しい酒場」「くるり西宮・芦屋・東灘・灘」「くるり丹波・篠山」他
http://www.west-plan.com/