そばぼうろ発祥の店で蕎麦会席を
【そば茶寮 澤正】京都・東福寺

関西・オンナの美酒佳肴

そばぼうろ発祥の店で蕎麦会席を

【そば茶寮 澤正】京都・東福寺  

子どもの頃から大好きだった京都のお菓子、そばぼうろ。このお菓子を最初に作った店で会席料理が食べられると誘われて、喜び勇んで出かけたのが2月の初旬。それからコロナ禍の自粛期間をはさんで、7月までに合計4回も訪れた。京都・東山の今熊野まで行く価値ありの店なのだ。

明治42年創業。初代が考案し、「そばぼうろ」の登録商標をもつ澤正。初めて来た時、入口ののれんの模様がそばぼうろの形で、ちょっとうれしくなったのは私だけではなかった。この店の常連である友人と共に案内された部屋は、洋間の個室。昭和初期に建てられた建物だけあって窓のサンや鍵がレトロな形態で、カーテンレールも建てられた当時のままだという。元々、貿易商が建てた屋敷の一部を買い取って茶寮にしたもので、この建物以外は既に売却されて何軒もの住宅になっているから、いかに広大な敷地だったかがわかる。店の前は、清少納言が仕えた藤原定子らが眠る鳥辺野陵(とりべのみささぎ)を通り皇室ゆかりの泉涌寺へと続く道。とても静かな環境だ。


八寸

八寸の楽しみは、毎月違う和のスープ。温かいほうれん草のスープだったり、冷たい新じゃがだったり、出汁がきいた上品な味がすっと喉を通る。季節野菜のお浸し、酢の物、白和えはクリームチーズが入っていた時もあった。そばパンのカナッペ、そば衣揚げ、そばのおやきと、近郊の素材とそばを組み合わせた料理を、少しずつつまみながら冷酒をちびりちびりと。

日本酒は、その時々に違う銘柄があるので、とても楽しみ。お猪口は、店主のコレクションの中から好みのものを選ぶのだが、近くの窯元が焼く清水焼の器を中心に、作家物やアンティークなどがずらり。徳利や片口もガラス、錫、陶器など、凝ったものばかりで、注ぐときに「ピコピコ」とかわいい音がする鶯徳利には、毎回盛り上がる。

テーブルに置いてあるそば茶の粒は、料理にかけるとカリッとした食感と香ばしい風味がプラスされ、そのままアテに食べてもおいしい。


二八そば

温鉢、小鉢、焼き物と続いたら、手打ちの二八そば。そして季節の炊き込みそばご飯を食べる頃にはおなかはいっぱいに。でも、お菓子は別腹。
これまでに食べたのは、そばの鶯餅、そばの抹茶餅レアチーズ包み、そばのこおり餅、あと1回はなんだったかな…忘れてしまったけれど、必ず添えてあるのがそば短冊。薄く焼いた煎餅に季節の焼き印が押されて、なんとも風情がある。

三代目当主の澤田正三さんは、職人として、毎日そばぼうろを作り続けている。100年前の創業時から変わらぬ作業台を使い、今ではもう作る人も修繕できる人もいない焼き型で、一つ一つ型抜きして焼いていく。茶寮の料理も自身で作り、ワインや日本酒、アートにも造詣が深い。澤田さんと話していると、京都の大旦那さんは奥が深い、と思わずにはいられない。丁寧に接客してくれる配膳の人も、そばぼうろ作りの職人さんで、お菓子作りのことや地域のことまで、つい引きとめて話しかけてしまう。この居心地の良さと料理の美味しさに惹かれて、私や友人は親しい人をお連れして自慢している。

剣神社の前でタクシーを降りて、谷に架かる橋を渡るとき、円山公園の枝垂れ桜の兄弟木だという桜が迎えてくれる。来春、桜の季節は絶対来よう。きっとそれまでにもまた行くだろうけど。そうそう、すぐ近くに、清少納言が住んでいたといわれる庵の門が今も残っている。食事のあと、同行者にこの話をするのもちょっとした楽しみなのだ。

 


◆ MENU(税別)
昼のそば会席
4,200円、6,100円
夜のそば会席 (5組まで)
6,000円、7,800円

◆ Data
そば茶寮 澤正
電話:075-561-4786
住所:京都市東山区今熊野剣宮町33-22
JR・京阪東福寺駅より徒歩13分
営業時間: 12:00~14:30、18:00~19:30(昼夜共に最終入店時間)
休み:奇数月・水曜、偶数月・火曜
https://sawasho.jp/


◆ Writing / 松田きこ
(株)ウエストプラン代表。兵庫県西宮市在住。食・観光・人物取材に日本中を飛び回る。ライター歴20年以上。編著書「神戸・阪神間 おいしい酒場」「くるり西宮・芦屋・東灘・灘」「くるり丹波・篠山」他
http://www.west-plan.com/