季節の話題を楽しみながらゆったりと料理を味わう都会の料亭

関西・オンナの美酒佳肴


【日本料理 柏屋】大阪・吹田 

近畿地方の梅雨入りが発表された日、ときおり強く降る雨さえ気にならないほど、はずむ思いで出かけた料亭「柏屋」。「ミシュランガイド」や「ゴ・エ・ミヨ ジャポン」の常連で名前は知っていたものの、足を運ぶ機会がなく、食事会の誘いを受けた時、即答で参加表明した。
吹田の住宅地に1993年に建てられた数寄屋造りの建物。案内された広い座敷の壁にかかる花きに紫陽花が一枝。飾り立てない上質な空間に、なんともいえない落ち着きを感じる。

この時の献立「小満〜芒種」が、盃に冷酒が注がれて始まった。
先付は、蓮の葉にたまった雨粒のような梅雨らしい演出。鮑(あわび)と生雲丹(なまうに)を包む煮凝りとじゅんさい。口に入れると隠れていた焼雲丹のすり流しが風味豊かに広がる。穂紫蘇と柚子の香りもすがすがしい。

その後、初物の鱧(ハモ)の炙りから続く煮物椀は、虎魚(オコゼ)の葛叩きに、京都で6月の和菓子とされる水無月に見立てた湯葉豆腐、塩けを抜いた梅干しを崩せば味変を楽しめる。円に形づくられた十六ささげと柚子は、「夏越の祓(なごしのはらえ)」の神事「茅の輪くぐり」の茅の輪に見立ててあり、6月30日を待たずに、厄除けができた気分だ。料理が出されるごとに、説明してもらえるストーリーが、料理をさらにおいしくしてくれる。

「熱々を食べてください」と出された赤色の料理はビーツ雲龍焼。スフレのようなふんわりした生地の中にバイ貝と新牛蒡が入っている。牛乳やバターを使わず、玉子とビーツ混ぜ合わせ、松の実のすりおろしでとろみを出してふんわりと焼き上げた、小麦粉を使わないオリジナルの料理だ。

3人での会食だったので、お酒はそれぞれ違う冷酒をオーダー。而今(三重)、松乃井(新潟)、大治郎(滋賀)を3種類のお猪口で飲み比べた。そのうちの一つは、吹田の陶芸家・味舌隆司さんの「木の葉型盃」で、見た目の可憐さと口あたりの良さが地酒をさらに美味しくしてくれた。

いろいろな味を楽しんだ後のご飯は、蛸と玉蜀黍(とうもろこし)のご飯。蛸が入っているのにご飯が白いのは、イボの部分を取り除いて白い身だけを加えているから。イボの部分はキュウリとともに梅肉で和えて添えられていた。

滋賀県の名店「招福楼」で修業を積み、実家の料理屋に戻って料亭に建て替えた主人の松尾英明氏。茶の湯に魅せられた主人のもてなしの心が、料理、設え、うつわ、建物、接客、すべてに生かされている。料理が出されるごとに、料理名や食材の説明だけでなく、主人の思い、料理の背景、故事などの話題が盛り込まれてそれもまた楽しい。

玄関に飾られた和紙の薬玉は、京都の「染司よしおか」のもの。日本古来の植物で布や紙を染め、十二単のように重ねの美を表現する「染司よしおか」の「かさね」。そういえば、この日も料理の説明で「重ねて」という言葉を幾度も聞いた。日本文化を大切にする料理人と染色家、相通ずるものがあるのだろう。次はどんな料理と話が聞けるのか、季節が変わったらまた出かけようと相談しながら帰路についた。

 




◆ Data

柏屋千里山本店
電話:06-6386-2234
住所:大阪府吹田市千里山西2-5-18
営業時間:昼 : 12:00~15:30(最終入店13:00)
夜 : 18:00~22:00(最終入店19:30)
定休日:日曜

◆ Writing / 松田きこ(ウエストプラン)
http://www.west-plan.com/

 

※新型コロナウイルスの感染拡大防止のため対策した上で取材・撮影しています。
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