カウンターミニ懐石で寄り道を楽しむ
和食処 お料理 【哲也】神戸市中央区

関西・オンナの美酒佳肴

 

カウンターミニ懐石で寄り道を楽しむ

和食処 お料理 【 哲也 】神戸市中央区

 

 何気ない看板が妙に気になることがある。三ノ宮・東急ハンズ前の交差点で見かけた看板がそうだった。ランチ2,000円~、ビルの4階、店名は店主の名前だと想像できる。

 この入りにくそうな店が「哲也」だった。こわもての料理人が出てくるかな、そんな思いを一瞬で払拭する笑顔で迎えてくれた河野哲也さん、やっぱり店主の名前だった。

 

河野哲也さん
店主の河野哲也さん

 

 訪れたのは夕刻、「晩酌セット」を選ぶと、酒肴箱に、造り、炊き合わせ、旬の素材を使った料理が少しずつ盛られて、日本酒が一杯ついてくる。

 日本酒リストから鍋島(佐賀県)を選び、まずひと口。香り高くてキレがいい。焼き茄子、ゴーヤの胡麻和え、バイ貝、造りへと箸を進める。グラスの鍋島はすぐに飲んでしまって、次なる地酒は山廃仕込みの菊姫(石川県)。しっかりした菊姫を味わいながら、トウモロコシのかき揚げ、鯵のおかき揚げを口に運ぶ。おかき揚げの衣は柿の種、旨みと塩味のバランスがとれた衣が鯵を包み込む。イカの酒盗でちびりちびりと飲んでいると、張り詰めた仕事モードが自然にリセットされていく。

 

晩酌セット
晩酌セット

 

 2012年にこの地に店を構え、一人で店を切り盛りする河野さん。修業をした高麗橋で覚えた料理人としての基本は、「当たり前のことですが」と前置きして、「手を抜かないこと。少しでも気が緩むと味に出てしまいます」。この言葉のあとに、西京漬けも自家製と聞けば、オーダーせずにはいられない。京都出身の私にとって、西京漬けは晩御飯によく登場したなつかしい味。保存食だと思われがちだが、新鮮な魚を漬けこむのが美味しいし、早いうちに食べる方が私は好き。河野さんは独自ブレンドの味噌床に、中央市場で仕入れたばかりの旬の魚を漬け込む。こんがりと焼かれた魚は、しっとりした身に上品な甘さを含み、もちろん日本酒と合うのだが、子どもの頃を思い出してご飯と共に食べると、白ご飯もおいしい。季節や料理に合わせて8種類のお米を使い分けているそうだ。さらに、ぬか漬けと浅漬けも自家製。このご主人の手作りなら美味しいに違いない。「晩酌セット」だけで済むはずはなかった。

 店はカウンター6席と個室が一つ。穴場感を醸し出す雰囲気がなんともいえず、早速地元神戸の料理店の女将たちとの女子会ランチに予約した。

 

哲也の個室
個室

 

 後日、おいしいものを食べ尽くした女将たちに、西京漬け、ご飯、漬物が含まれている昼のミニコースを選んだのは大正解。30年近く割烹店を経営する女将の「近くだけど知らなかった」という満足度100%超えの言葉に、ほくそ笑む。

 


◆ MENU
昼のミニコース(八寸・小鉢箱・焼き物・ご飯・デザート)3,240円
晩酌セット(ドリンク1杯+3品) 2,700円
懐石コース 5,400円~
焼き物 800円
日本酒 800円~

◆ Data
電話:078-391-5639
住所:神戸市中央区下山手2-1-17 SHIROMURAビル4F
営業:11:45~13:30(LO)、17:30~22:00(21:00LO)
休み:月曜


◆ Writing / 松田きこ
(株)ウエストプラン代表。兵庫県西宮市在住。食・観光・人物取材に日本中を飛び回る。ライター歴20年以上。編著書「神戸・阪神間 美味しい酒場」「くるり西宮・芦屋・東灘・灘」「くるり丹波・篠山」他
http://www.west-plan.com/