飛び切り甘いトウモロコシを肴に生ビール
【たいのたい】兵庫県西宮市

関西・オンナの美酒佳肴

 

飛び切り甘いトウモロコシを肴に生ビール

【たいのたい】兵庫県西宮市 

 

 灘の酒造りに使われる「宮水」が湧き出す街、西宮。阪神西宮駅から札場筋を南へ向かい、国道43号線を越えると酒造会社の取水場がある。このあたりは灘五郷の一つ西宮郷と呼ばれ、何軒もの酒造会社があるのだ。10年近く前、蔵見学の帰りに立ち寄ってから、何度もグループでお邪魔しているのが「たいのたい」だ。

 「たいのたい」とは、鯛の形に似た魚の骨の部位のことをいうが、店主の山口さんは、「のみたい・食べたい・楽しみたい」店でありたい、という思いを込めて名付けた。
 夕暮れの一杯を楽しみに仕事をした、と言いたいくらい暑い日。看板のある入り口から続く細いアプローチ。わずか数メートルの小径を歩きながら、「飲みたい、食べたい」気持ちに拍車がかかる。
 かけつけ一杯の生ビールにトウモロコシのかき揚げを注文する。トウモロコシの皮の上に盛られた、かき揚げの華やかさに目が奪われる。一切れをそのまま食べると、サクッと軽い。そして甘くてジューシィ。軽く塩を付けると、甘さがより引き立つ。お盆過ぎのこのときは、北海道のピクニックコーンだったが、夏の始めは沖縄から取り寄せ、日が経つにつれて徐々に産地が北上する。種類は変わっても甘みの強さにはこだわり、夏に欠かせないメニューになっている。

 

トウモロコシのかき揚げ
トウモロコシのかき揚げ

 

 次はアツアツの蓮根まんじゅう。カリッとした食感と独特の旨みがある。まんじゅうの具は、蓮根、ひき肉、じゃが芋。これに自家製の道明寺粉を付けて揚げているのだ。この粗挽きのような道明寺粉がカリカリの正体。蓮根まんじゅうを昆布と鰹出しの餡が包み込んで味わい深い。2杯目は気分を変えて、生ビールに黒ビールを混ぜてもらう。ハーフ&ハーフからオリジナルの1:3(ワンサード)までブレンドは自在だ。

 

蓮根まんじゅう
蓮根まんじゅう

 

 「たいのたい」は、オープンからずっと日本酒は『緑川』だけだった。「宮水の井戸がある酒造りの町で新潟の酒?」と酔いに任せてたずねたのは私だけではないはず。店主の山口さんは、にこにこと笑うだけだったが、なかなか手に入らない『緑川』を何種類も揃え、料理によって純米、吟醸、大吟醸を飲み比べて楽しんだ。今は地元の『徳若』の酒もメニューに加わっているが、銘柄はこの2つが中心。自身の料理に合う酒を選び、じっくりと付き合っていくのが山口さんの姿勢なのだろう。

 

店主の山口さん
店主の山口さん

 

 最近は釣りにハマっているらしく、水槽には釣果のサヨリやガシラが泳いでいる。ところが自分で釣った魚は料理せずに育てているだけという山口さん。また「なんで?」と聞いてしまったが、にこにこと笑うだけ。この笑顔がいいのだ。口うるさい友達を連れてきても、満足させられるという安心感がある。アラカルトもいいけれど、コースで頼むと「こんなに?」と思うくらいバラエティに富んだ料理が出てくる。野菜、魚、肉、時季によって違う味を楽しみに、私はまた飲み会を企画してしまう。

 


◆ MENU
生ビール518円
日本酒 1合756円~
れんこんまんじゅう 540円
とうもろこしのかき揚げ 864円

◆ Data
電話:0798-34-2245
住所:兵庫県西宮市久保町1-16 渋谷ビル1F
営業:17:00~23:00
休み:火曜


◆ Writing / 松田きこ
(株)ウエストプラン代表。兵庫県西宮市在住。食・観光・人物取材に日本中を飛び回る。ライター歴20年以上。編著書「神戸・阪神間 美味しい酒場」「くるり西宮・芦屋・東灘・灘」「くるり丹波・篠山」他
http://www.west-plan.com/