ゆめまぼろしのごとくなり~想田和弘監督、観察映画第7弾「港町」を語る~4/21(土)公開

観察映画第7弾「港町」について語る想田和弘監督=3月23日、大阪市内で

 「観察映画」というユニークな手法でドキュメンタリー映画の新しい地平を切り開き、世界的にも高く評価されている想田和弘監督の新作映画「港町」が、まもなく日本で公開される。詩情をたたえたモノクロームの映像美が、いつまでも心に残る作品だ。

 アメリカの映画監督マイケル・アリアスは想田監督に「何万光年も離れた星の光を見ているようだ。過去を見ているのか、今を見ているのか、よくわからない」と話したという。

 

 「選挙」(2008年)に始まる観察映画第7弾となる「港町」の撮影は、前作「牡蠣工場」(2015年)の撮影と並行して2013年11月に行われた。場所は岡山県の牛窓。想田監督の妻・柏木規与子さんの母の実家がある土地だ。いつものことだが想田監督は「牛窓で映画を撮ろう」というアイデアだけで3週間自らカメラを回し、結果的に2本の映画を作ることになるとは全く予想していなかったという。

 

 自らを「映画作家」と称する想田監督は「観察映画の十戒」を掲げている。

 撮影後ニューヨークに戻り、編集作業は撮影データのログ起こしから始めた。自分が何を撮ったのか、そこに何が映っているのか。素材を見つめ、その手触りを確かめつつ進める作業の中で、ひとつなぎの物語がおぼろげに浮かび上がってくる。

 「編集作業にかかる前は全部で一本の映画になるだろうと思っていたが、違った。牡蠣工場は牛窓の海を埋め立てた土地に近代の論理で効率的に作られていた。そこで働く人たちも交換可能なものと考えられ、中国から来た労働者たちが働いていた」

 「今回の港町の世界は近代以前の論理で貫かれている。細い路地ばかりが続く密集した町に、耳が遠くなっても一人で舟を操り漁に出る86歳のワイちゃんがいた。サンダル履きでせわしなく路地を行き交うクミさんがいた。同じ牛窓にあるのに、二つの世界は全く違っていた」

 その両方の世界を自然に行き来して、映像に映るのは猫のシロだけだ。

©Laboratory X, Inc.

 映画でクミさんが突然身の上を語り出すシーンがある。その衝撃的な話を想田監督はどう受け止めたのか。「撮影時はクミさんの話を理解しようとするのに一生懸命だった。もし僕がジャーナリストなら、クミさんの話の裏を取るための取材をするだろう。でも僕はジャーナリストではなく、ドキュメンタリーの映画作家だから、ただそのまま受け止める。そして、語られた話、撮影した映像を素材として映画をつくる」

 映画作家として、ジャーナリズムとドキュメンタリーを隔てる一線を意識して観察映画を編み出した想田監督の表現者としての意思を感じるエピソードだ。

 

 「港町」を夢幻能のようだと評した人がいるという。諸国をさすらう旅人が亡霊に出会い、亡霊がそこで起こった出来事を語って舞い、成仏するという能のスタイルだ。映画の中でクミさんの役回りはその亡霊に似て、想田監督と観客を“ゆめまぼろし”の世界へといざなっていくようだ。

©Laboratory X, Inc.

 編集が仕上げの段階に入るまで制作はカラーで進めていた。それをモノクロームに変えたのは、柏木さんのつぶやきがきっかけだった。「柏木がなぜ『モノクロにしたら?』と提案したのか、本人も理由をはっきりとは覚えていない。だが、モノクロームにしたことで膜を1枚被せたような効果が生まれ、虚構性・抽象性・匿名性が出てきた。それが、この映画にとても合っていると思う。今では仕上げまでずっとカラーで見てきたことが信じられない」

 【上映情報】4月21日(土)から第七芸術劇場、6月23日(土)から京都シネマ、元町映画館 で公開。




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