昭和レトロの魅力が満載「世界一と言われた映画館」3/30から関西で公開

 北前船で大坂や京都と交易し、かつて「東の酒田、西の堺」と呼ばれて隆盛を誇った山形県酒田市に、1949(昭和24)年から営業を始めた洋画中心の映画館「グリーン・ハウス」は、文化を渇望していた戦後の人々を魅了した。映画評論家の淀川長治は63(昭和43)年発売の「週刊朝日」で「あれはおそらく世界一の映画館ですよ」とたたえた。その逸話をタイトルに取った「世界一と言われた映画館」は、見る人自身の映画と映画館にまつわる思い出を想起させ、誰かと話したい気分にさせる映画だ。

昭和レトロが懐かしい手作り看板 ©認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭

 映画を企画・製作したのは、「認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭」。89(平成元)年に“世界で初めてのドキュメンタリー映画祭”として始まり、現在まで西暦の奇数年に隔年で開催されている特色ある映画祭だ。一昨年10月の開催に向けて、76(昭和51)年の酒田大火で焼失してしまったグリーン・ハウスを記録する短編映画を、映画祭で作ることになった理由を佐藤広一監督(41)は次のように説明する。「酒田大火から40年以上が経過し、グリーン・ハウスについて証言できる人たちの高齢化を心配したプロデューサーの高橋卓也さんが、50年を待っていたのでは遅いと言い出し、このタイミングで制作することになった」。当初20分程度の短編を予定していたが、撮影開始直後に佐藤監督は長編にすることを決めた。

 「出演してくれた証言者たちはみんな誰かに話したくてたまらなかったらしく、取材をお願いすると『早く来て』と何度も催促された。催促の電話口でいきなり30分ぐらいしゃべる人もいた。収録された話がいい話ばかりなので『悪い話はカットしたんじゃないか』と聞かれたが、そんなことはない。皆さん共通の知り合いでも何でもないのに、打ち合わせたかのようにうれしそうに思い出を話してくれた。皆さんの映画と映画館に対する“愛”が画面から伝わってくる作品になっていると思う」

 カメラの前でイキイキと思い出を語ったのは1926~62年に生まれた男女9人。「グリーン・ハウス」支配人だった佐藤久一と親交があった、酒田市内のバー「ケルン」のマスター。酒田大火の消火にあたった元消防士。地元で映画サークルを立ち上げた男性。元映写技師の男性。映画館でチケットを販売していた女性従業員。映画館が発行した毎月のパンフレットを今も大切に所蔵する映画ファン。映画館の喫茶コーナーと同じコーヒー豆を今も使う市内の喫茶店のママ。高校時代によく通った大学教授。そして「上々颱風」のヴォーカリスト白崎映美。それぞれが語る逸話が文句なしに面白い!

「映画サークルあるふぁ’85」の佐藤良広さん(1958年生まれ)©認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭
1949年生まれの映画ファン加藤永子さん ©認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭
憧れの場所だったと話す歌手の白崎映美さん ©認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭

 

 

 

 

 

 山形国際ドキュメンタリー映画祭に初回から通っている映画宣伝を仕事にしている松井寛子さんは「2017年の映画祭上映時に見て、すごく良かった。映画が好きな人、映画館に思い入れを持っている人にはとても響く映画だと思う」と話す。映画関係者たちの間で高い評価を得たことで、今年1月5日の東京・有楽町スバル座を皮切りに全国でロードショー公開されることになったという。

 

 「世界一と言われた映画館」は俳優の大杉漣が最後にナレーションを担当した作品となったことでも話題を呼んでいる。ナレーション収録は、彼の最後の主演作で初のプロデュース作『教誨師』の撮影直後の2017年9月19日だったという。

大杉漣さんの色紙を大切にそうに見せた佐藤広一監督

 佐藤監督は「奇跡的にその日だけ大杉さんのスケジュールが空いていた。収録前にナレーションをテロップで入れたDVDを見てもらい、映画祭が目前に迫ったギリギリのタイミングで収録できた」という。終了後に何気なく色紙を渡し「記念に何か書いてくださいよ」と依頼すると、大杉さんは「えっ!今?」と苦笑しながら、「この映画には生きた言葉がありました!!」と記してサインした。映画祭での上映後も「東京上映、いつすんの?」と楽しみにしてくれていたそうだが、18年2月に66歳で亡くなってしまった。

 

 2008年に講談社から単行本として出版され、10年に文庫化された『世界一の映画館と日本一のフランス料理店を山形県酒田につくった男はなぜ忘れ去られたか』は「グリーン・ハウス」支配人だった佐藤久一の生涯を描いた本だ。著者は電通コーポレート・アイデンティティ室長(局長)を務めた岡田芳郎さんだ。佐藤監督らは2017年の映画祭上映時に絶版となっていた文庫を講談社に依頼して300冊買い取ったが、すぐに完売。今回の全国ロードショー公開に向けて新たに注文すると、講談社は「この本はこちらで復刊する」と連絡が入り、2月から再び書店に並び始めた。

 佐藤監督は言う。「映画館に対する愛情は、作り手の我々が思っている以上に普遍的なものなのかもしれない」。昭和レトロに郷愁を抱く世代には、琴線に触れる作品になりそうだ。

 【関西での公開情報】3月30日(土)から第七藝術劇場、4月6日(土)から京都シネマ、5月4日(土・祝)から元町映画館 で公開。

【おまけのミニ情報】この映画に証言者として出演しているバー「ケルン」のマスター井山計一さん(92歳)の半生を描いた「YUKIGUNI」(2018年、渡辺智史監督作品)が3月22日(金)からテアトル梅田で、4月6日(土)から第七藝術劇場、京都シネマ、元町映画館で公開される。井山さんは日本を代表するカクテル「雪国」を考案した伝説のバーテンダーだ。「世界一といわれた映画館」の佐藤監督は「YUKIGUNI」にカメラマンとして参加している。興味のある方は、併せてどうぞ。

公式ホームページ http://yuki-guni.jp/




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カテゴリ: ライフ&アート

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