見る人をシュールに挑発する「人食いザメと金髪美女 笑う横尾忠則展」8月25日(日)まで

「人食いザメと金髪美女 笑う横尾忠則展」のポスター(デザイン:横尾忠則)

 横尾忠則現代美術館(神戸市灘区)で開催中の「人食いザメと金髪美女 笑う横尾忠則展」は、「笑い」を軸に様々な手法を駆使したユニークな展示作品約140点で鑑賞者を挑発する、刺激に満ちた展覧会だ。

 展示は3部構成。「Ⅰ 仕組まれた謎」では、本来出会うことのない事物が同じ画面に共存することで不思議なユーモアを生む作品が並ぶ。展覧会のポスターデザインにもなっている「Panicぱにっくパニック」は、映画「JAWS」のサメとマリリン・モンローがモチーフとなった原画に日本語と英語の“パニック”の文字が躍る。モンローの大口に書き込まれた「ぱ」の字に、思わず頬がゆるむ人は多いのではないだろうか。

記者会見で話す横尾忠則さん=5月25日、横尾忠則現代美術館で

 5月25日に開かれた記者会見で横尾さんは「今回の展覧会は面白いものになったと思う。ポスターのこの絵が原点といえる。17年前に描いたサメとモンローの絵に、新たに文字を書き加えたことで、結果的に笑えるものになった」と話した。展示された作品のプロセスは、作家のたくらみ(意図)である場合も偶発的に生まれる場合もあるという。

 「Ⅱ 挑戦する笑い」で展示されるのは、パロディー作品だ。例えば、アンリ・ルソー「人形を抱く子ども」と同じ構図で横尾さんが描いた絵は「アブサンを飲む子供の肖像」。1967年から50年にわたって描いてきたルソー作品をモチーフとした作品17点が並んでいる(未発表作含む)。横尾さんの作品は、原作および作者へのオマージュ(敬意)であると同時に批評にもなっている。

上は横尾さんの作品「アブサンを飲む子供の肖像」。作品名の下にアンリ・ルソーの原画も小さく表示されている

 横尾さんは「ルソーの絵は僕にインスピレーションを送ってくる。夢のようなファンタジーの世界をメルヘンチックに描いているが、よく見ると奥の方に恐ろしい世界がある。僕はそれを抽出して作品にする。多分これまでに30~40点は彼の作品をモチーフに制作したが、これからも描いていきたい。いずれまとめて展覧会か本にしたいと思っている」と話した。

 ⅠとⅡは平面作品の展示だが、「Ⅲ 伝統と創造:スーパー狂言」では舞台美術を取り上げる。今は2人とも鬼籍に入ってしまったが、原作・梅原猛、演出・二世茂山千之丞で上演されたスーパー狂言「ムツゴロウ」(2000年初演、国立能楽堂委嘱作品)で、横尾さんは初めて狂言のポスターと装束をデザイン。その後、梅原・茂山コンビで発表された「クローン人間ナマシマ」(2002年初演)、「王様と恐竜」(2003年初演)では舞台美術も手掛けた。「狂言はもともと社会を風刺するもの。狂言では普通、舞台装置は用いないが、僕は凝って作ってみた。その際、あくまでも伝統的造形物をヒントに作った」そうだ。

スーパー狂言の装束や舞台美術を展示。別室ではスーパー狂言のDVDも見ることができる

 記者会見の席上で、横尾さんが話した面白いエピソードを紹介しよう。

 「ある時僕は、三島由紀夫と同じタクシーに乗ることになった。その時、三島さんが僕に『僕たちには共通点が三つある』と話しかけてきた。『僕は土着を無視することによって否定するが、君は土着を描くことによって否定している』。『ブラックユーモアを理解する日本人は少ないが、僕たちは理解できる』。そして『僕たちは2人とも手首が細い』。身体的な特徴を取り上げた最後の共通点は、三島さんのブラックユーモアだったと思いますよ」

 

 会期は8月25日(日)まで。月曜休館※ただし、7月15日(月・祝)、8月12日(月・祝)は開館、翌7月16日(火)、8月13日(火)は休館。開館時間は10時~18時(金・土曜は20時まで)※入場は閉館の30分前まで。観覧料は一般700円、大学生550円、70歳以上350円、高校生以下無料。

 

【関連イベント】

〇狂言と、狂言のお話

 7月13日(土)14時から、同館1階のオープンスタジオで。おなじみの狂言「附子(ぶす)」の上演と、梅原・茂山コンビのスーパー狂言3部作の裏話を紹介。出演:茂山七五三、茂山千之丞、鈴木実。先着100人。参加無料。

 

〇ワークショップ「みんなでファッションショー!」

 7月26日(金)13時30分~16時。同館スタッフを講師に、いろいろな素材を使ってステキな衣装づくりに挑戦し、みんなでファッションショーをしよう。対象は小学生~高校生。定員20人。7月19日(金)までに要申し込み(応募多数は抽選)。応募フォームは、同館ホームページ「イベント」に掲出予定。

 

〇担当学芸員によるギャラリーツアー

 7月20日(土)18時、8月10日(土)14時。同館1階のオープンスタジオに集合。担当学芸員と会場を巡りながら作品を鑑賞する。参加無料(要・展覧会チケット、高校生以下は入場無料)。

 

 横尾忠則現代美術館のホームページはコチラ http://www.ytmoca.jp/

 




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