在宅死のNHKドキュメンタリー番組で受賞した下村幸子さんの初監督作品「人生をしまう時間(とき)」10/5から関西で公開

 NHKの番組を中心に30年近く映像ドキュメンタリーの世界で仕事をしてきた下村幸子さんの初監督作品「人生をしまう時間(とき)」が、まもなく関西で公開される。

小堀鷗一郎医師(左)はいつもポータブルの小さな座椅子を携えて患者宅を訪れる(©NHK)

 先輩プロデューサーから雑談で「面白いお医者さんがいるんだけど……」と聞いた下村さんが、埼玉県新座市の堀ノ内病院で在宅医療に携わるその人に会いに行ったのは2017年夏のこと。その人は、明治の文豪にして医師だった森鷗外の孫、小堀鷗一郎さん。今年81歳になる小堀さんは、東大病院のエリート外科医だったが、定年後は自ら軽自動車を乗り回して患者の家を回り、自宅で最期を迎えたい人たちを診ている。

 会ったその日から患者宅への訪問診療に同行し始めた下村さんは、現場ですぐ自らカメラを回すと決意した。「通常の取材はカメラ・音声・ディレクターの3人がチームとなって行うが、人が亡くなるところにカメラを向けることになるので、患者さんやご家族、医療スタッフたちの負担をなるべく少なくしたかった」という。

 企画出しのための事前取材を含め2017年8月から翌18年3月までの約200日、下村さんは年末年始も返上し、たまたま空いていた病院の寮に泊まり込み、小堀医師らの在宅医療現場を取材した。取材した人は64人、撮影時間は約240時間にもなった。その模様をまとめたNHKのBS1スペシャル「在宅死“死に際の医療”200日の記録」(2018年6月放送)は大きな反響を呼び、2018年度日本医学ジャーナリスト協会賞大賞、放送人グランプリ2019奨励賞を受賞。今回、テレビ版にはない新たなエピソードを追加して再編集したドキュメンタリー映画を劇場公開することになった。

堀ノ内病院の在宅医療専門チームの部屋。訪問診療の前にカルテ確認は欠かせない(©NHK)

 取材当時、堀ノ内病院の在宅医療チームは医師が4人(現在は1人増)、看護師が2人。半径16㎞圏内の140人あまりの在宅患者を診ていた。

 映画には小堀医師のほかに、国際医療機関の外科医として開発途上国で多くの命を救ってきた堀越洋一医師も登場する。2人が訪れるのは、69歳の息子が同居する93歳の父を世話する家や、独り暮らしの91歳男性の家、2階から降りられなくなった認知症の妻85歳を82歳の夫が介護する家、47歳の全盲の娘が末期の肺がんを患う84歳の父と暮らす家、70代の息子夫婦と103歳の母が暮らす家など。独り暮らしの96歳の母を自転車で通いながら介護する68歳の娘や、末期の子宮頸がんを患う52歳の娘と同居する77歳の母も登場する。地域の在宅医療が、医師だけでなくケアマネジャーやヘルパー、家族を含めた連係プレーで成り立っていることもよくわかる。

「一人ひとりに異なった事情があり、それぞれに異なる“いのちのしまい方”があった。亡くなった方たちが作ってくれた110分の映画が、誰かの役に立ってくれればと思う」と下村幸子監督。ナレーションを省いた分は、9月10日に出版された初の著書「いのちの終いかた 『在宅看取り』一年の記録」(NHK出版)に思いの丈を書いたという=9月9日、大阪市内で

 「取材させていただいた方だけでも11~12月の2カ月で11人が亡くなられた。一度にそれだけ多くの方の最期を取材するということは、覚悟していたとはいえ、想像をはるかに超えてつらいことだった。精神的に平常心が保てなくなり、途中で病院の近くの禅寺に駆け込んだこともあった」と下村監督は明かす。

 

 映画では「新しいことにチャレンジしよう」と、ナレーションを省いたという。「テレビ番組では『今なぜこれを伝えるのか』などのメッセージをナレーションに込めて、理詰めで作っていくので最初は不安もあったが、配給会社の人から『観客に委ねても大丈夫ですよ』と言ってもらって決心がついた。結果的に良かったと思う」

 ノーナレーションの効果は、「映像に集中してもらうことで、色々なものが見えてくること」にあるという。「視野が広がり、患者さんの居住空間に置いてあるものが目に入ってくる。それらのものは、その人の生きてきた歴史や人格を物語っている。そして、医師と患者さん、家族の会話をあたかも、その場で聞いている気持ちになれる」

 それはつまり、観客が、撮影者である下村さんと同じ視点に立って現場を見ているということだ。そのありのままを静かに受け止めて、大切な人の、そして自分の“人生のしまい方”をじっくり考えてみませんか。

 

 【公開情報】10月5日(土)から第七藝術劇場(初日11:50の回上映後、下村監督と福島広明プロデューサーが登壇するトークショーを予定)。10月12日(土)から京都シネマ、11月9日(土)からは元町映画館でも公開。

 




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