手ざわりを愛おしむ気持ちが沸き起こる広瀬奈々子監督最新作「つつんで、ひらいて」~1/18・19に菊地信義さんとのトークショー

広瀬奈々子監督自身は読書家ではなく、読むスピードも遅い方だという。「そんな私が作った映画だから、本をあまり読まない若い人にも見てほしいと思います」=2020年1月10日、大阪市内で

 1年前、柳楽優弥主演作「夜明け」で鮮烈なデビューを飾った広瀬奈々子監督は、是枝裕和、西川美和率いる映像クリエイター集団「分福」に所属する気鋭の監督だ。公開中のデビュー2作目「つつんで、ひらいて」(94分)は、1万5千冊の本の“身体”を手掛けて世に出した装丁家・菊地信義さんの仕事を追ったドキュメンタリー映画だ。1月18日(土)には大阪で、19日(日)には京都で、広瀬監督と菊地さんが登壇するトークショーが予定されている

 

 実は、広瀬監督の亡父が本の装丁の仕事をしていたという。誰かに父の仕事を尋ねられると「本のカバーを作る仕事」と答えてきたが、本当にそうだったのだろうか? 亡父の本棚にあった菊地さんの「装幀談義」を読んで「この人に会いたい」と強く思ったのが、この映画を作るきっかけになった。

©2019「つつんで、ひらいて」製作委員会

 取材と撮影は「夜明け」に取り掛かる前の2015年から。銀座の奥まった一画、小さなビルの3階にある仕事場を訪ね、自分一人でカメラを回し始めた。編集者数人のインタビューと本の撮影以外は、すべて単独で。撮影に3年、編集に1年かかった。

「菊地さんには数えきれないほど会いに行きました。デザインが出来上がるまでの数日間は同じ時間に。できるだけ邪魔にならない範囲で数時間、そこにいた。この撮影は多分使わないだろうなと思いながら、カメラを回すこともありましたが、端折ることはできない時間でした。最終的に映像に映っていないものの方が大事だったりします」

 

目指したのは読書に近い体験ができる映画

 

「自身の美学と哲学を持っている菊地さんはすごくおしゃべりで、1聞くと10返ってくるような人です。ちょっとした質問にも熱意をもってお話され、自らの人生観を反映した壮大なインタビューになってしまう。編集ではそこから削っていく作業が大変でした。結果的に時系列をバラバラにして、装丁という仕事を紐解いていくようなイメージで章立てにして編集しました」

©2019「つつんで、ひらいて」製作委員会

 出来上がった映画は全7章。第1章から「ならべる」「はかる」「つながる」「さがす」「しばる」「めぐりあう」「ときはなつ」。章題は ひらがなの柔らかいイメージで、できるだけ抽象的な言葉を選んだ。菊地さん以外に装丁家の水戸部功さん、小説家の古井由吉さんらも出演している。

「見終わった後じっくりかみしめる、読書に近い体験ができる作品にしたかった。本が情報を得るための道具になり、スマホで簡単に読書できてしまう時代になったけれど、私は紙だからこそ味わえる言葉が絶対にあると思う。そういう読後感のようなものを映画から匂わせられるといいなと思いました」

 

ものの手ざわりが思考を促す

 

©2019「つつんで、ひらいて」製作委員会

「菊地さんは文字を切って貼って、触感から作っていく人です。何回も繰り返して表現を探っている様子がとても印象的でした。触感は思考を促すもの。手ざわりが人間に教えてくれることはとても多いと思いました」

「有名な話ですが、菊地さんは装丁を頼まれた本のゲラが届くと、3色のマーカーで印をつけます。触感を感じる言葉、色を感じる言葉など、色分けして。菊地さんにとっては言葉から感じられる情感まで含めてテキストなので、装丁に表れているのは単純に意味だけでないんです。例えば若松英輔さんの『イエス伝』は白と黒の装丁ですが、最後に帯に色を入れた。何かその色を感じるものがあったのだと思います」

 

菊地さんにもらった「ものづくり」の指針

 

 この映画を作って得たものがたくさんあるという。

「本自体がもの。当たり前のことだけど、紙ってものなんです。ものを出合わせて、ものを作ることが装丁の仕事なんです。ものに触れることが意識しないと難しい時代になったからこそ、あえてものに出合いに行くことが大切なんだと思います」

 映画の最後に登場するが、広瀬監督は菊地さんにぶしつけな質問をした。本格的に映画の道を歩むことを決め、オリジナリティーって何だろうと考えていた時期だった。

「受注仕事における創造性って何ですか?」

 菊地さんからは当たり前だけど、そうだよなと納得できる言葉が返って来た。

「人っていうのは関係性でできている」

 オリジナルであれ、受注仕事であれ、原作があろうとなかろうと、人と人が関係性で結ばれていることは変わらない。

「菊地さんの答えは、映画監督の仕事にも通じていると思えました。自分の中から何かを生み出すことが映画監督の仕事ではなくて、世の中にある無数の選択肢の中から輝いているものを見つけて、拾ってきて合わせるのが監督の仕事だと思うことができました」

 

 自分の中にあるものなんて大したものではない。世界からもらうことが大切。それが職人の仕事。世界からもらって、その触感を確かめてどう表現していくか――。

「菊地さんがものを作っている姿に、自分自身がこうでありたいなというものを見せてもらったと思っています。ジャンルは違うけれども、映画監督になった私自身、ものを作る仕事をしています。これから自分が作っていくものの指針をもらった気がしています」

 映画の宣伝チラシに使われている菊地さんが机に向かう後ろ姿。その絶妙な距離感に、広瀬監督が“師”を尊敬する気持ちが表れているような気がした。(大田季子)

【トークショーのお知らせ】1月18日(土)大阪・シアターセブン(阪急十三)12:00の回上映後=登壇者:菊地信義さん、広瀬奈々子監督、福島聡さん(ジュンク堂難波店店長)●1月19日(日)京都・出町座(京阪出町柳)先行上映14:10 の回上映後=菊地さん、広瀬監督




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