高齢社会を生きるヒントに 溝渕雅幸監督最新作「結びの島」

「命」や「最期のあり方」をテーマにしたドキュメンタリー映画の名手として知られる溝渕雅幸監督(58)の最新作「結びの島」が完成した。関西では10月31日(土)からの第七藝術劇場(大阪・十三)を皮切りに、京都・奈良・和歌山などで順次上映される。

 

今作の舞台は、瀬戸内海の周防大島(山口県)。人口約1万5500人のうち、65歳以上が占める割合が約54%と、若年層の人口流出や過疎化が進んでいる。この島で診療所と複合型高齢者介護施設を営む医師・岡原仁志さんと、その患者との交流が、1年9カ月にもおよぶ撮影映像でつづられている。

作品を見ればすぐ気づくように、岡原さんが培ってきた診療スタイルは独特だ。患者やその家族とのハグを習慣にし、「今日もきれいだね」など、愛とユーモアにあふれた声を一人ひとりにかける。困った顔をする人も中にはいるが、そのせいもあって診療所や介護施設は絶えず明るい空気に包まれる。高齢者が最期まで安心して暮らせる地域を支え、「笑顔で大往生ができる島にしたい」と願いながら患者と接する岡原さんの「気構え」が、明るいトーンの声と人懐っこい笑顔の裏から、ひしひしと伝わってくる。

岡原仁志さん(右)の診察風景

棚田での稲作やミカンの栽培がさかんで、鈴なりに果実や稲穂が実るその様子から、かつては「黄金の島」とも呼ばれていたのが周防大島。しかし若い働き手が減った今では、先祖から受け継がれた田畑を守るのは高齢者だ。90歳の女性が田植えから稲刈りまで、今でも3枚の棚田を世話する様子など、島の厳しい現実は余すことなく切り取られている。

その一方で、瀬戸内海に沈む太陽、四季折々に咲く花、時間と季節ごとに表情を変える海など、島の大自然に思わず息をのむ。末期がんで寝たきりの患者のために、岡原さんは診療の合間に立ち寄った海岸で波の音をタブレットに録音し、枕元で聴かせる。この島で生まれてやがて最期を迎える人たちが歩んできた生涯に、思いをめぐらせる。

高齢化にともなう様々な問題を提起する内容の一方で、「島で最期まで自分らしく暮らしたい」と願う人たちのために日々奮闘している岡原さんや医療スタッフたちの姿から、高齢者が安心して暮らしていくためのヒントも得られそうだ。

▷10月31日(土)~ 第七藝術劇場(大阪) ▷11月13日(金)~ 京都シネマ(京都)、イオンシネマ高の原(京都)、イオンシネマ西大和(奈良)、イオンシネマ和歌山(和歌山) ▷11月20日(金)~ イオンシネマ茨木(大阪)、イオンシネマ近江八幡(滋賀)で公開を予定。最新情報はHPで https://www.inochi-hospice.com/musubi/




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